リフォーム 其の四

 さて家具の購入も終わった。搬入は明日なので、今日は新居に戻って掃除の手伝いだな。

 それにしてもハンナが作ったベッドは驚愕の出来だった。安眠効果に加え、消音の魔法陣まで組み込んである。これで心置きなくムフフが出来るというものだ。


 いかん。顔を戻さねば。またフィオナにエッチな顔してると怒られてしまう。軽く顔をパシパシ叩いて真顔に戻す。さてここの角を曲がれば新居が見える……?



 ―――ドォォーンッ



 そんな擬音が聞こえてきそうだ。

 おぉ…… 遠目から見ても白亜の城だ。昨日はまるで廃墟のような外観だったのに。さすがはフィオナの魔法だ。

 掃除はどうなっただろうか。俺達が出ていった後もレムは一人で掃除をしていたはずだ。


 中に入るとレムがしゃがんで床に何かを擦りつけている。あれ? 床が全体的に光沢が出ている。そうか、蜜蝋を塗ってるんだな。フィオナが買ってきたのか。


「レム、ご苦労様。すごいね。床がピカピカだ」

『…………』


 レムは一瞥すると再び蜜蝋を塗り始めた。うーむ。優秀な召使だが、寡黙すぎるのも問題だな。発声機能とかあればいいのに。

 まぁゴーレムにそれを求めるのは酷か。壁も天井も真っ白だ。ありがとな、掃除頑張ってくれて。後で美味しいオドをたっぷり注入してやろう。


 さてフィオナはどこにいるかな? 素敵な家具を買ったことを報告したいのだが。

 すると一階の小部屋からガリガリと音がする。フィオナの魔法かな? 匠の仕事を邪魔しないようこっそり中を見てみると……


rocaθwalta岩壁



 ―――ゴゴゴッ



 フィオナが土魔法で部屋の壁と床をコーティングしている。これは…… 大理石?


「ライトさん、お帰りなさい。家具は買えましたか?」

「う、うん。それよりもこの部屋って…… もしかして風呂を作ってるの?」


「ふふ、そうなんです。今から浴槽を作るつもりなんです。よかったら見ててくださいね」


 フィオナは杖を構え詠唱を始める…… 


rocaθwalta岩壁! rocaθwalta岩壁! rocaθwalta岩壁! rocaθwalta岩壁!】



 ―――ゴゴゴゴゴッ



 大きな音を立てて床から大理石の壁がせり上がってくる。内部は空洞になっていた。大きな浴槽だ。親子三人で入ってもなお余裕がありそうな…… 

 バクーで入った部屋風呂並みの大きさ、いやそれ以上だ。


「ふー、疲れました。魔法で何かを作る時は繊細なオドのコントロールが必要なんです。どうですか、お気に召して頂けました?」

「言葉が無いよ…… すごいね」


「ふふ。褒められちゃいました。あ、そうだ。ねぇライトさん。試しに一度お風呂に入ってみませんか?」


 いいね。俺も掃除で体が汚れちゃったし。でもタオルを取りに行かなくちゃな。面倒だが一度銀の乙女亭に帰るか。


「タオルなら持ってきてあります。少しだけど石鹸もありますよ」

「フィオナ…… 最初から風呂に入る気だったね?」


「んふふ。どうでしょう? でもまだ終わりじゃないないんです。悪いんですけど給湯魔器を外に持って行って取り付けてくれませんか? お湯を流す筒はこれです」

「任せてくれ!」


 俺は身体強化術を発動し、給湯魔器を運び出した。



 ズシッ



 重っ!? 百キロ近くあるな。風呂場の裏手に給湯魔器を置くとフィオナが盗難防止だろうか、魔道具を土魔法で地面に固定する。


「位置的にここですね……」


 フィオナは壁にチョークで円を描く。なるほど、これで筒を通して給湯魔器と浴槽を繋ぐわけだな。


「ダガーで壁に穴を開けてください。少し大きめでもいいですよ。後で土魔法で埋めますから」


 ふふ。楽勝だぜ。なんたって伝説の金属で作ったダガーだ。壁に穴を開けるなんてお茶の子さいさいですぜ。

 でもリフォームでこのダガーを使ったって知ったらデュパは怒るよな。


 壁にダガーを突き刺すと、バターを切るかのように刃が壁にすんなりと入る。やっぱりこの斬れ味は異常だな…… 

 綺麗な穴が開いた。その穴に筒を通して給湯魔器に取り付ける。


「これで簡単にお湯が出せます。排水の仕掛けも作っておいたからすぐに入れますよ。ふふ。楽しみです」


 フィオナは笑顔で給湯魔器にオドを流す。低く呻ってから魔道具から水が流れる音がしてきた。



◇◆◇



 三十分もすると浴槽いっぱいにお湯が張られていた。ホカホカと水面から湯気が立つ。気持ちよさそう…… 手をお湯につけてみる。うん、ちょうどいい。適温だ。


「じゃあ入りましょうか」


 フィオナは恥ずかし気もなく服を脱ぐ。うーん、美味しそうな体。

 いかん、落ち着こう。まだ日が高いので興奮してアレが大きくなったのを見られるのは恥ずかしい。気持ちを収めるためにはどうすればいいか……?


 そうだ、確か素数を数えればいいってどこかで聞いたことがある。

 素数とは1と自分でしか割り切れない孤独な数字。それが勇気を与えてくれるってどこかの偉い人が言っていたような気がする。よし……



 1…… 3…… 5…… 7…… 9…… 



 あれ、これ奇数だったか? もう数字なんか考えてもしょうがない! フィオナをなるべく見ないように服を脱いだ。

 息子よ、今は落ち着いていてくれよ……


「ライトさん。大好きです……」



 ―――ムニュッ



 風呂に入る前にフィオナが後ろから抱きついてくる。胸の感触が……


「あ…… んふふ、ライトさんのエッチ」

「すいません……」


 大きくなってしまったマイサンをタオルで隠しながら風呂場に行くことに。いつの間に作ったのだろうか、タライが置いてある。土魔法で作ったのかな? タライでお湯をすくい汗を流す。


「ほら、座ってください。背中を洗ってあげます」


 嬉しいな。お言葉に甘えるとするか。フィオナはタオルで俺の背を擦り始める。んー。気持ちいい。


「ライトさんの背中って大きいですね。安心します」


 はは、そりゃ二人の幸せを背負ってるからな。フィオナは俺の背を一通り洗い終わったようで、お湯で泡を落としてくれる。今度は俺の番だな。


「じゃ、交代ね。ほら、座って」


 フィオナを前に座らせ、背中を洗い始める。綺麗な肌だな。

 彼女は全体的に細いのだが、しっかり筋肉がついている。美しいっていうか、かっこいい体だな。戦士としても一流だからだろうな。思わず背中にキスをしてしまう。


「あはは。何してるんですか? くすぐったいです」

「ごめんな、綺麗な背中だったから。悪い嫁さんだな、昼間っから旦那を欲情させるなんて」


「ふふ、また褒められちゃいました。じゃあお風呂に入りましょうか」


 フィオナの背を流し、二人で浴槽に入る……? 先ほどは気付かなかったが浴槽の床に傾斜がついてるな。地面と水平ではない。


「気付いたんですね。ゆったりしたい時は浅い部分を背にしてください。肩まで浸かりたい時は深い部分に行くといいですよ」


 うちの匠はすごいな。ちょっと疲れているのでゆったりしたい。浅い部分を背にして体を伸ばす。うわ、楽ちん。風呂の中で横になってるみたい。

 これは気持ちいいな…… お湯を堪能しているとフィオナが俺に体を預けてくる。


「ごめんなさい。ちょっと甘えてもいいですか?」


 もちろんだよ。フィオナは俺に抱きついて頬にキスをしてくる。


「こら、お返しだ」

「きゃあん」


 強めに抱きしめて耳を噛んでやった。


「んふふ。もっとしてください。ん? いたた……」


 フィオナの顔が歪む。どうした? 強く噛み過ぎたかな?


「大丈夫?」

「はい、でもちょっと肩が痛いんです。魔法を使いすぎたからでしょうか? 肩凝りが酷くなって……」


 そうか、フィオナの肩はすごく凝ってるんだよな。しかも腰痛持ちでもある。かわいい妻を癒してあげるとするか。  

 しかし迷う…… 風呂場でフィオナにマッサージをしてもよいものだろうか?


 フィオナはマッサージをすると嬌声を上げる。大声で…… 近所迷惑にならないか心配だ。


「フィオナ、今から肩を揉むけど大声出さないでくれよ」

「本当ですか!? 嬉しい! 大丈夫です。お風呂の壁は特別製なんです。四重構造でその間には軽石が埋め込んであります。声を出しても聞こえないはずですよ」


 用意がいいな。なら遠慮することは無い。後は俺がフィオナの声に耐えられるかどうかだ……


「それじゃ後ろを向いて」

「はい!」


 力を込め過ぎず、痛くならないよう肩を揉み始める。


「あっ…… あん…… あん…… 気持ち……いいの……」


 始まった…… 我慢だ、俺。心を無にしろ。

 そのまま肩を揉んでいると、俺の指が芯を捉える。ここだ! 

 


 ―――グググッ……



 うわっ!? いつも以上に凝ってるな! しょうがない。少しだけ身体強化術を発動。じっくりと正確に肩のツボに指を押し込む。


「あぁぁぁぁ! そこぉ!? いいのぉ!」


 フィオナの体がビクビクと痙攣する。大丈夫。まだ大丈夫。俺は我慢出来る。


「はぁはぁ…… ライトさん……」


 フィオナは正面を向いて抱きついてくる。

 そして甘く囁く……


「このまま腰もお願いします……」


 ハイワカリマシタ。

 フィオナの背に手を回して腰を押し始める。



 ―――グリィッ



「そこぉ! もっとぉ! あぁぁぁぁ!? らめぇー!」

「…………」


 フィオナが耳元で甘い叫びを上げる。


 もう…… 我慢出来るか!?


 お風呂の中でしてしまった……


 

◇◆◇



「もう…… し過ぎですよ…… んふふ、肩と腰、気持ちよかったです。ありがとうございました」

「ごめんな、我慢出来なくて。でもすごくいい風呂だな。嬉しいよ。これからいつでも気軽に風呂に入れるな」


「ふふ。早く三人で入りたいですね」


 そうだな。明日は家具の搬入がある。家具が揃えば住めるようになる。楽しみだな。さて何気に時間が経った。もう夕方だ。そろそろ帰らないと。

 

 でもその前に……


「フィオナ?」

「ん? 何ですか? ん……」


 深いキスをする。


「もう一回だけいい?」

「んふふ。ライトさんのエッチ」


 最後の一回を終わらせてから銀の乙女亭に帰ることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る