エピローグ
また会おうぜ
とある世界の、とある一軒の家。
小さな男の子と女の子が窓を眺め父と母の帰りを待っている。
「ママ、遅いな……」
「パパー、さみしいのー」
そんな二人を見て、姉であるサクラが彼らに話しかけた。
「あれ? レイとミルナス、どうしたの?」
「サクラお姉ちゃん? 僕ね…… ママが帰ってくるの待ってるの」
「ミルはパパにあいたいのー」
「ふふ。レイはママが大好きだもんね。よし! ママが帰って来るまで私がママをしてあげる! レイ、私のおっぱい飲む? ミルナスにもあげるわよ?」
「いらない…… ママのがいい…… それにサクラお姉ちゃんのおっぱい小さいんだもん……」
「ちいさいのー」
「ちょっ!? なんてこと言うのよ! こら! 待ちなさい!」
「サクラお姉ちゃんが怒ったー! ママー! 助けてー!」
「たすけてなのー」
ドタバタと家の中を駆け回る三人……
ガチャッ
誰かが家に入ってきた。
「ただいま…… って騒がしいわね」
「チシャお姉ちゃーん! 助けてー!」
「たすけてなのー」
幼子達が二十代半ばの美女の胸に飛び込む。
彼女の名はチシャ。ライトとフィオナの養女だ。
だが血の繋がりなど関係無いように彼女の養父母はチシャを愛している。
チシャも同様に二人を実の両親として慕っていた。
「あらあら。どうしたの? 喧嘩でもしたの?」
チシャは慈しむように、二人を抱きしめてから頭を撫でる。レイはチシャの胸に顔を埋め、とても満足そうな顔をしている。
ミルナスは羨ましそうにチシャの胸を両手で掴んでいた。
「うえーん。サクラお姉ちゃんがいじめるの……」
「いじめるのー」
「ふふ、よしよし。サクラはひどいお姉ちゃんだね。それじゃママが帰って来るまで私と遊ぼっか」
「うん! チシャお姉ちゃん大好き!」
「だいすきなのー」
「ってこら! 待ちなさいレイ! ミルナス! お姉ちゃんも!」
チシャは二人を抱いてソファーに座る。
彼女は今日あった出来事を話し始めた。
レイとミルナスはチシャの話を目を輝かせながら聞いている。
「今日はね、悪い魔物をいっぱいやっつけたんだよ。二人にも見せたかったな」
「チシャお姉ちゃんすごいね! パパみたいに剣でやっつけたの? それともママみたいな魔法で?」
「剣がいいのー」
「今日は魔法かな」
「僕も魔法使えるようになるかな?」
「ふふ。レイならすぐに出来るわよ」
「ミルは剣がいいのー。パパみたいな剣を使いたいのー」
「ミルナスはパパが大好きね。もう少し大きくなったら練習しましょうね」
ふてくされながら三人の会話を聞くサクラ。彼女は会話に割り込んできた。
「魔物退治? どれくらいの規模だったの?」
「そこまで大きくなかったわよ? 中規模のスタンピードかな。数は数万といったところね」
「数万…… それを一人で……」
「ふふ。そんな驚くことじゃないでしょ? 強さならサクラの方が上じゃない」
今日の出来事を楽しそうに話す姉妹。
四人は両親が帰ってくるまで会話を楽しんだ。
◇◆◇
「うえー、疲れた…… なんで今日に限って加護が必要な子が三人も産まれるんだ……」
「ふふ。ライトさん、ご苦労様です。でも魔力調整もだいぶ上手くなったみたいですね」
「そりゃ千年も神様やってれば嫌でも上手くなるさ」
自分で言ってなんだけど、もうそんなに時間が経つのか。
なんか感慨深くなっちゃうな。
「どうしたんですか?」
「いやね、まさかこんな人生を歩むことになるとはって思っただけ」
「後悔してるんですか?」
「はは、答えは分かってるだろ?」
もしまたフィオナを失うようなことがあったら、俺は間違いなく彼女を探しにいくだろう。
例え何万回も転生することになったとしてもね。
でもそれは照れ臭いので言わない。
「まぁ後悔はしてないさ。過程は辛いものがあったけど、今の俺には家族がいる。もう失うのはごめんだからね」
「そうですね。それじゃ私達の愛する家族がいる家に帰りましょ」
フィオナが手を繋いでくる。
瞬間移動を使えば一瞬で家に着くのだが、何となく歩いて帰りたくなった。
二人仲良く家路に付く。
愛する娘、息子は何をしてるかな?
ドアを開けると……
ドスンッ バッタンッ
「こぉらー! レイ、待ちなさい! あんたまた私の胸をばかにしたわね!」
「ほんとのことだもん! お姉ちゃんのおっぱいは小さいんだもん!」
「ペチャパイなのー」
「こら! 三人とも止めなさい!」
ケンカしてる……
言い争いをしてるサクラとレイ。煽るミルナス。それを止めるチシャ……
ははは、賑やかなことで。
「ただいま。ふふ。みんな楽しそうですね」
「ママ!」
声に気付いたレイがフィオナの胸に飛び込んでくる。
「ママー! お帰りなさい!」
「ふふ、ただいまレイ。いい子にしてましたか?」
「うん! 僕ね、とってもいい子にしてたよ!」
それを見るサクラの不満そうな顔ときたら……
お姉ちゃんなんだから我慢しないと。
クイクイッ
ん? 俺のズボンを引っ張るのは……
ミルナスだ。
甘えたいんだな? 俺はミルナスを抱っこする。
「パパー。おかえりなさいなのー」
「おぉ、ミルナス。いい子にしてたか?」
「うん。とってもいい子にしてたのー。パパお仕事おつかれさまなのー。パパもいい子なのー。ミルがチューしてあげるのー」
ミルナスが俺の頬にキスをしてくる。
はは、嬉しいじゃないの。
「ママ、お帰りなさい」
「ただいま、チシャ。お仕事はどうでしたか?」
今日の出来事を楽しそうに話す二人。
この二人は親子なのに友達同士にしか見えない。
フィオナが歳を取らないのは言うまでもないが、チシャも俺の加護と祝福で不老長寿になっちゃったんだよな。
それにしてもチシャは美人になったな。
小さい頃はあんなにかわいかったのに……
サクラは……全然変わらない。一応少しずつ大人になっているようだが、見た目は十五、六歳で止まっている。
実年齢はサクラが一番歳上なのだが、チシャのことを姉と慕っているので、このままにした。
そして七年前に産まれた息子のレイ。
俺が胸に抱いているのは三年前に産まれたミルナスだ。
「ライトさん。私、ごはんの支度をしてきますね」
「ん? そうか、もうこんな時間か。俺も手伝うよ」
「ふふ、いいですよ。今日は疲れたでしょ。ゆっくり休んでてください。チシャ、サクラ、手伝ってくれますか?」
「うん!」「いいよ!」
二人の娘は笑顔でフィオナの手伝いに向かう。
レイは置いていかれたのが寂しいのか、三人の後を追って行った。
「パパー。ミルね、お腹すいたのー」
「はは、そうか。それじゃ少しだけ何かもらってきな。でもごはんの前だからいっぱい食べちゃ駄目だよ」
「はいなのー。ねぇパパー。今日も一緒に寝たいのー」
「いいよ。ミルナスは甘えん坊だな」
「ありがとなのー。パパだいすきなのー」
ミルナスも台所に向かう。
俺は楽な格好に着替えるため、二階の寝室へ。
さてと…… 誰もいないな。
俺は一人ベランダに出て、懐からタバコを取り出す。
タバコを咥え、火を着ける。
ボッ チリチリチリ……
深く吸い込んで、紫煙を吐く……
ふぅ、美味いな。
あ、ごめん。煙かったかな?
そうだ、君にお礼を言っておかないと。
今まで俺の話に付き合ってくれてありがとな。
君がいてくれたから俺はがんばれた。
お礼を言わせてくれ。本当にありがとう……
ん? なんでそんな不思議そうな顔してるの。
ははは、知ってたよ。君が俺の人生を見続けてくれてたのを。
必要無いかもしれないが、一応自己紹介だ。
俺の名はライト。この世界で神様みたいなことをしている。
俺がどう生きてきたかは、もう君は知ってるよな?
次は家族を紹介しよう。俺の妻のフィオナ。人のような姿はしているが、人外だ。トラベラーという種族だな。
永い時を生き、異界に渡り続ける宿命を背負った者。
だけど今は俺の妻として幸せに暮らしている。
最初の世界で彼女と離れ離れになった時は辛かった……
もうそんな想いはしたくない。彼女もきっとそう思っている……はずだ。
だけど最近夫婦のスキンシップが足りてないかもしれない。
こないだフィオナのおっぱいを触ろうとしたら、そんなものより肩を揉んでだってさ。まぁ一応揉んだが……
だがフィオナは肩を揉む度、嬌声を上げる。毎回興奮を抑えるのに大変な想いをしてるよ。
ともあれ俺達は仲睦まじく暮らしている。
次だ。長女のチシャ。血は繋がっていないが大事な俺の娘だ。
この子との出会いは岩の国バクー。奴隷だったこの子を野盗から助けたのが始まりだった。
不思議な力を持つチシャを盗賊が利用してたんだよな。
故あって彼女を養女とし、俺達は家族になった。最初は幸せに暮らしてたんだが、チシャにはかわいそうなことをしてしまった。
フィオナは異界に飛ばされ、俺はフィオナを探すため三千世界をさ迷うことになったんだ。
幼いチシャを置いてね。
チシャは俺達がいない世界で二十年も頑張った。俺が転移門を習得しチシャに会いに行ったら、まぁびっくり。
でっかい竜がチシャを殺そうとしてたんだ。
俺は竜を退治してからチシャをこの世界に連れてきた。
家族の再会を喜んだ俺はチシャにいっぱいキスをしてしまった……
俺のキスは神の祝福と同じ効果があるのを忘れていた。
チシャは俺の祝福のせいで、父さん母さんと同じく亜神になってしまったのだ。
チシャはその力を俺達のために使いたいと言ってきたので、時折現れる魔物の討伐をお願いしている。
チシャと再会してからもう千年が経つが、彼女は未だに俺達と暮らしている。
彼氏の一人でも連れてきてもいいんだぞ?
さて、次だ。次女のサクラ。この子との出会いは印象的だった。
俺がフィオナに再び出会う前にサクラに会ったんだ。
サクラは彼女にしか使えない転移門の魔法を使い、異界を渡り歩いていた。
目的はチシャに会うためだったらしい。
他にも見聞を広げるためとは言っていたが、本当は彼氏を作りに異界に行きたかったそうだ。
だが願いも空しく、恋人は出来なかったようだが。
今サクラは家に戻り、俺達と暮らしている。
時折冒険してみたくなるようで、こっそり家を出ては数年後に戻るを繰り返している。
ここ数十年は異界に行ってないようだが、サクラのことだ。
またこっそりいなくなっては、ひょっこり帰ってくるに違いない。
次は長男のレイ。七年前に産まれた俺の息子だ。
ん? 聞き覚えがある名前だって?
はは。そうなんだ。彼は元は俺の解離人格のレイ。
産まれた時にフィオナが鑑定をしてみたんだ。魂の色で分かった。
レイは産まれ変わって、俺の息子として生を受けたってとこかな。
レイ自身は前世の記憶を持っていない。
なので俺達はレイを普通に授かった息子として育てることにしたんだ。
でもレイは元々は俺自身でもある。女の好みも一緒みたいでいつもフィオナにベッタリだ。
レイよ。フィオナのおっぱいは俺のだからな…… 早く乳離れしてくれ。
フィオナは初めて授かった男の子ということもあり、レイをとても可愛がっている。
なんかちょっとジェラシー……
最後に。三女のミルナス。ちょっと浅黒い肌のかわいい女の子だ。
エルフでもないのに何故か長い耳を持つ。
まさかフィオナがエルフと浮気を!? なんて思ったが、間違いなく俺の子だった。魂の色で分かった。
どうやらあの子は俺の前世で何かしらの関わりがあったらしい。
その影響か、前世の面影を持って産まれてきたんだそうだ。
ミルナスは常に俺にべったりだ。よくキスをされるのだが、隙あらば唇を奪ってくる。
そんな姿を見てフィオナは俺達に嫉妬してたな。
はは、俺とミルナスはどんな関係だったんだろうな。
少し気になるが、どうでもいいことだ。
だってあんなにかわいいのだから。
まぁこんな感じで俺達は平和に暮らしてるよ。
これからも何かしらのトラブルはあるだろうけど、家族と一緒なら全部解決出来ると思う。
さぁ、俺の話はお終いだ。
もし君が異界へ旅をすることがあったら……
『ライトさん、ごはんが出来ましたよー』
おっと、もう出来ちゃったか。もう行かなくちゃな。
もし君が異界に……いや、俺の住むこの世界に来た時は、遠慮無く俺達を訪ねてくれ。歓迎するよ。
『パパー、ごはんが冷めちゃうよー!』
ははは! 分かったよ! 今言った通りだ!
もし君が
また会おうぜ!
ライトさん ちゃんとお別れの挨拶は出来ましたか?
いや、別れの挨拶じゃないよ また会おうって言っただけさ
そうですか またいつかみんなに会えるでしょうか?
あぁ、きっと会えるさ 俺達が再び出会ったみたいにね
んふふ、そうですね
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