叙爵 其の二
「グリフ、俺の息子になる気はないか?」
「…………」
突然俺から息子になるよう言われたグリフは固まった後、口を開く。
「ライト…… お前は何を言っているんだ?」
まぁそう思うわな。少し詳しく話すか。
「すまん。順を追って話す。まずグウィネの両親。二人はお前達の結婚に反対するだろう。これは間違いない。これについては後で話す。お前には作戦だけを伝える」
グリフの顔が固まる。しかし、すぐにいつもの表情に戻った。
そうか。反対されることは想定済みってことか。
「俺は近いうちに国から叙爵を受ける。貴族になるんだ」
「お前が貴族!?」
「うるせぇ! 黙って聞け! そう、俺は貴族になる。でも士爵っていう領地も無い名ばかり貴族だ。平民と変わらん。
でもな、貴族になることで国同士の繋がりを深める政略結婚の駒になることが出来る。これで、俺、グウィネの二人が駒として機能することが出来る。でもお前はまだだ」
「お前…… まさか、お前がグウィネと結婚する気か!? それだけは許さないぞ!」
「アホか!? そんなつもりはねぇよ! お前達を結婚させるために頑張ってんだろうが! お前はまだ駒になり得ない。お前、たしか一人だよな?」
「あ、あぁ…… 両親は俺が成人する前に死んじまったからな」
「なら問題無い。後は気持ちの問題だ。俺はもう腹は括ってある。俺はお前を養子に迎える。多分これも大丈夫だろう。これでお前は貴族の仲間入りを果たすことになる」
バカ犬がナイオネル閣下に書いた書状……いや脅迫文でこれは解決するだろう。
「飲みの席で詳しく話す。だがこの作戦で上手くいくはずだ。なんたって獣人の国の宰相がバックについてるんだからな」
「ライト!」
―――ガバッ ギュゥゥゥッ
グリフが抱きついてきた! だから裸で抱きつくんじゃねぇ! 当たってるだろうが!? アレにアレが当たってるだろ!?
ほら、通り過ぎる入浴客が俺達のこと見てるって!?
「ねぇお父さん。あれって何してるの?」
「しっ! 見るんじゃない!」
子供が不思議そうに俺達のことを見ている! ちちち、違うんです! 決して俺達はそのような仲じゃなくてですね!
俺はグリフを強引に引き剥がし、湯船に向かう。
風呂に入り直した。アレはしっかり洗った……
◇◆◇
俺達は河岸を変え、銀の乙女亭にやってきた。
フィオナは厨房に向かいオリヴィアの手伝いをする。久しぶりの飲み会ということで俺が料理の監修を頼んだのだ。
その間グリフとグウィネを部屋に連れていき、作戦の詳細を話すことにした。
その前にグウィネはお説教だな。
「グウィネ…… ご両親のこと話してなかったでしょ。かなりやばかったよ」
「…………」
グウィネはしょんぼりしている。
獣耳がペタンと伏せられた。
「ごめんなさい…… 本当は今年中に国に帰らなくちゃいけなかったんです。そして早いうちに婿を取ってラウラベル家を継ぐっていう約束もしてあります。でも……」
「グリフもいるしクーデターも起きて、それどころじゃなくなった。そうだね?」
「はい…… グスン……」
シクシクと泣き出してしまった。虐めてるみたいで心が痛い。
でもこれは大人として言わなくてはいけないことだ。
「グウィネ、気持ちは分かるけど、けじめはつけなくちゃいけない。このままじゃ君のご両親はこの結婚を祝福してくれないだろう」
それどころか二人の身が危険だ。殺す的な医者にあるまじき発言もしてたし……
「グスン…… ごめんなさい…… そうですよね。分かりました。私、近いうちに両親を説得しに国に帰ろうと思います」
「覚悟は決まったみたいだね。でも国に帰る時は俺達もグリフも一緒だ。一緒に獣人の国サヴァントに行く」
「え……?」
グウィネはキョトンとした表情を浮かべる。
そろそろグウィネにも言っておかなくちゃな。
「グリフにはある程度言ったけど、グウィネにも言っておく。俺は今度貴族の仲間入りを果たす。そしてグリフを養子に迎えてグリフ自身も貴族にする。確かグウィネの家も異種間結婚の候補に入ってるよね?」
「はい。でも選ばれるのって数年に一回で、毎年お父様が抽選に外れたって肩を落としていました…… まさか!?」
「正解。君達を政略結婚の駒にする。ご両親を騙すみたいで気が引けるが、対象となった家は爵位が上がるんだよね? 君のお父さんってこの話断ると思う?」
「絶対受けると思います! だって私の家って准貴族の准男爵家ですし、父の夢は家を五爵の仲間入りにすることですから!」
うーむ。貴族のことはよく分らんがスースさんって意外と俗物なのかな?
いかんいかん、そんなこと考えては。それにそう思ってくれていた方が事が上手く運ぶ。
「では話は以上だ。これで二人の結婚の障害は取り除いたことになる。二人には近いうちに休暇を取ってもらうことになる。滞在を含めると二ヶ月ってとこだろう。グリフ、お前は大丈夫そうか?」
「心配いらん。隊長には休みを取ることは伝えてある」
「これで何の心配も無くなったな。では飲み会を始めますか!」
「おう!」「はい!」
一階食堂へと場所を移す。久しぶりに美味い酒が飲めそうだ。
席には様々な料理が置かれている。赤、白のワイン、葉野菜のサラダ、フリットにパスタ。好きなものばかりテーブルに並ぶ。
美味しい料理に楽しい話、そして友人の明るい未来。今日の酒はいつもより美味かった。
◇◆◇
宴たけなわというところで、俺は一つ気になる事を思い出した。よそ行きの服を持っていないのだ。
フィオナに至っては人外ということもありオシャレにはあまり気を使っていない。ローブ以外の服は数着しかないんだよな。
たしか服屋さんにもらった衣装はあるが、あれはセクシー過ぎる。
俺は近い内に王宮に行き叙爵を受ける。その場に合った服を着ないと失礼にあたるだろう。
しかし俺も身なりに気を使うタイプではない。この中でセンスがいいとしたら…… グウィネだろうな。
「グウィネ。悪いんだけど明日、時間取れる? 服を買いに行きたいんだ」
いい感じに酔っぱらったグウィネは耳をピコピコさせながら迫ってくる。
「まっかせなさい! 王都のファッションリーダーことグウィネちゃんがライトさんのことをばっちりコーディネートしてあげますから! ふふふ~。ライトさんはどんにゃ洋服が欲しいんですか~?」
「言ったと思うけど俺、叙爵を受けるでしょ。その場にふさわしいやつかな?」
「いいですとも~! オシャレなブティックがありますから、明日そこに行きましょ~! ついでにフィオナさんもかわいくコーディネートしちゃうぞ~!」
「え? フィオナも? 多分王宮に呼ばれるのって俺だけだよ。確かにフィオナも服は必要になる時が来るかもしれないけど、今は要らないんじゃないかな?」
「ちょっと!? 彼氏とは思えない発言! かわいそうなフィオナさん…… 女の子ってのはね! いつも可愛くしてなくちゃいけないの! ライトさんは彼氏としてフィオナさんを着飾ってあげる必要があるの! いい! 明日はフィオナさんも連れてきてね!」
フィオナの服か…… そうだな。いつかは必要になるものだ。一着ぐらいドレスがあってもいいだろう。
当のフィオナは表情も変えずグウィネの豊満な胸に抱かれながら酒を飲んでいるのだが。
そういえばフィオナはどんな服が好きなんだろうか? 一応聞いてみるか。
「フィオナはどんな洋服が好みなんだ?」
「防御力が高いのが好きです」
聞くんじゃなかった……
その後、宴会はお開きになって俺達は床に就く。明日はお買い物か。
フィオナにはどんな洋服が似合うのだろうか。
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