リフォーム 其の二

 新居に到着した。前回ドアを壊してしまったので、今は土魔法で入口を塞いである。


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 フィオナが一言発すると岩壁は砂になって消えた。中に入ると、相変わらず陽光に照らされた埃が舞い踊っている


 昨日はこの時点でテンションダダ下がりだったが、今回は違うぞ! リフォーム要員としてフィオナが、掃除人として俺とゴーレムがいる。チシャには何してもらおうかな? 


「じゃあ、分担して掃除をしましょう。私は基礎と強化と痛んだ壁を直します。汚れた外壁は風魔法で削ってから土魔法でコーティングします。色は何がいいですか?」

「白がいいな。アヴァリで見たような漆喰を使ったような白い壁。それでいいかな?」


「えー、緑がいいー」


 とチシャは呟く。いや、確かに緑は綺麗だけどね。目にも優しいし。でも、ちょっと家の外壁に使うにはケバケバしいかな…… 


 フィオナはチシャの頭を撫でながら諭し始める。


「チシャの部屋の壁は緑にしてあげます、外は白で我慢してくださいね」

「分かった……」


 納得してくれたか。ご褒美に壁だけじゃなくてカーテンも緑にしてあげよう。


「じゃあ、俺は部屋の掃除だね。ゴーレムの方が背が高いから天井とか壁を担当してもらおうか。俺は床と細かいところを綺麗にするよ」

「私もおそうじする!」


 おぉ! お手伝いを申し出てくれた! しかしだな、掃除の道は長く険しい。俺は娘を修羅道に堕とすわけにはいかん…… 簡単なことやってもらおーっと。


「チシャにお願いがあるんだけどさ、二階の部屋の埃とゴミを魔法で綺麗にしてくれないか? 俺は一階をやるからさ。

 埃を吸わないようにしないとな。チシャ、後ろ向いて」

「ん? いいよ。って、わわ!」


 チシャの口元にタオルを巻く。振り向くと可愛い盗賊さんがいた。


「いってくるね!」


 笑顔で二階に駆けだすチシャ。こらっ! 家の中では走っちゃ駄目だろ! はは、でもテンションが上がってるのだろうな。しょうがないか。


 フィオナは玄関に置いた給湯魔器にオドを流し始める。ん? 何に使うのかな?


「お湯を使った方が汚れが落ちやすいですよ。これも使って効率的に済ませましょう」

「なるほどね。じゃあさっそく掃除を始めるとしますか。ゴーレム、お前には壁、天井の汚れを落とすのを任せる」

『…………』


 ゴーレムがモップを片手に俺の後に続く。

 さて! お掃除開始……と思ったがフィオナに呼び止められる。


「ちょっと待ってください。ねぇライトさんって、せっかくだからゴーレムに名前を付けてあげませんか? 土人形でもこれから一緒に過ごすんです。ゴーレムだと味気無いですよ」


 その発想は無かったな。でもフィオナの言うことも一理ある。では一家の長としてゴーレムに名前を付けてあげよう!  


「お前は今日からレムだ」

「んふふ、意外とかわいい名前ですね。呼びやすいですし、いいと思いますよ」


 適当に言っただけなのだが、好評価だ。では見た目はごついけど、かわいい名前の相棒と一緒に…… お掃除開始だ!



◇◆◇



「ふー、まずはこんな感じでいいだろ」


 大まかな埃とゴミを掃き終える。次はモップ掛けだな。給湯魔器から汲んできたお湯を使いモップを掛け始める。



 ―――ゴシゴシゴシゴシッ



 家の中には家具は一切無く、俺の動きを邪魔するものは何もない。楽勝過ぎる。大体の汚れは落としたな。念には念を入れてもう一往復。とその前に。


 モップをタライに入れて絞る…… うわ、汚水がダバダバとモップから流れ落ちる。汚いなー。これが十年分の汚れか。


 レムはハタキとモップで壁、天井を綺麗にしてくれている。一時間でだいぶ綺麗になったな。茶色だった壁は本来の白さを取り戻しつつある。


 床板がくすんでるのはしょうがないか。後で蜜蝋でも買ってこよう。あれがあれば艶が出せるだろ。


「ライー、二階のおそうじ終わったよー。次は何するのー?」


 お? もう終わったか。じゃあチシャと一緒にモップ掛けでもするか。


「レム、お前はそのまま一階の掃除を続けてくれ」

『…………』


 レムは軽く頷いてからキッチンに向かう。簡単なコミュニケーションは取れるのか。なんて高性能な……


 二階に着くと廊下の隅に埃が残ってるのが見えた。それを人差し指でなぞる。チシャよ。まだまだ甘いな。


 チシャにモップを渡し、親子でゴシゴシと床を擦る。ふー、ずっと中腰だから腰が痛くなっちゃった。


「ライ、大丈夫?」

「少し疲れたね。もうちょっとしたら休憩しようか」


「うん、お腹も空いちゃった」


 そういえばそろそろ正午を回るな。俺もいい感じにお腹がペコペコだ。


「よし、じゃあ休憩前にもうひと踏ん張りだ! モップ掛けをあと一往復! そしたらご飯買いに行こう!」

「うん!」


 チシャはモップを手に元気よく駆けだした。ははは、早くごはんを食べたいんだな。


 二階の掃除を終え、一階に降りるとレムが黙々と壁の掃除をしていた。見た感じオリヴィアぐらい力がありそうだから壁を壊さないかちょっと心配。


「レム、俺達は外に出てくる。すぐに帰ってくるからな。そのまま掃除を頼む。優しく丁寧にね。それと、もし怪しい人が入ってきたら丁重にお帰り頂くようにしてくれ」

『…………』


 レムは再び無言で頷く。召使としてもボディーガードとしても優秀だな。ほんと買ってよかった。

 もし泥棒が入ってきても、身の丈二メートル近いゴーレムがいるんだ。裸足で逃げ出すだろうな。


 さて、フィオナも誘ってお昼ご飯だ。外壁の掃除はどうなったかな? 


 外に出て家を見上げると…… あれ? ここって俺の家だよな? 

 目に映るのは白亜の壁、築二十年を感じさせない……いや、それどころかまるで新築物件のような真新しさだ。壁を触ってみるとザラザラした感触。漆喰そのものだ。


「どうですか? ライトさんの好みに合うでしょうか? んふふ、ちょっと頑張っちゃいました」

「好みに合うどころか想像以上だよ。御見逸れしました……」


 フィオナの魔法の力は俺が一番よく知っているつもりだった。だがここまですごいとは思わなかった。

 俺の嫁は何でも出来るな。料理は上手、めちゃくちゃ強い、かわいい、そして夜は積極的。


 うぅ…… 神様、フィオナに出会えたこと感謝いたします。感極まってしまい、思わずフィオナを抱きしめてしまう。


「ひゃあん。どうしたんですか?」

「いや…… なんか幸せだなって思って……」


「んふふ。私もです」


 フィオナが目を閉じてキス待ちをしてきた。

 かわいい。ぐぬう、この家にベッドがあったらこのまま連れ込んでしまうのに…… 今はキスだけで我慢だな。

 チシャがじっと俺達を見てるので軽くキスをする。


「いいなー。二人はいつも仲良しだよね。わたしもライみたいな人を結婚したいなー」

「はは、チシャはかわいいからきっと引く手数多だぞ。でもな! いきなり結婚するとかは駄目だぞ! 結婚前に必ず俺に紹介するんだぞ! 

 そして俺はそいつに言ってやるんだ! チシャと結婚したければ俺を倒してからだってな!」


「ライトさん…… チシャを一生結婚させないつもりですか? 人族の中でライトさんに勝てる人なんていませんよ」


 え? マジで!? そんな自覚は一切ないのだが。


 でも思い当たる節はある。獣人の国サヴァントで森の主を倒してから一気に強くなった感覚があった。それにデュパから貰った剣を使った一撃…… 人のなせる業ではなかったよな。


「ご、ごほん。まぁ、それはいいとして、チシャ。お付き合いを始めたら必ず俺に紹介するんだぞ」

「なんでー?」


「心配だから!」


 かわいい娘に悪い虫がつくのを想像する。パパ心配! 娘を持つ男親の気持ちがよく分かる。


「うふふ。ライトさん、そんな先の心配してもしょうがないですよ。チシャならきっと素敵な人を見つけてきますから。休憩するんでしょ? ご飯はどうしますか?」


 いかんいかん。思わぬ展開に熱くなってしまった。どこかでテイクアウトしてもいいが、そういえば銀の乙女亭が近いよね。


「銀の乙女亭でランチなんてどう?」

「「賛成!」」


 はは、みんなもお腹が空いているようだな。しっかり食べて午後も頑張りますか。


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