観光 其の二
大型の乗合馬車に揺られてウファ近郊のトゥーラ鉱山を目指す。買い物に立ち寄ったこの町で採掘体験ツアーなるイベントを発見した。
俺も興味があったし、なによりチシャがやってみたいと乗り気だったので参加することにしたのだ。いい社会勉強になるだろう。
それにしてもチシャは強い子だ。奴隷として鉱石の見つけることを強要されていたのはずなのに。
彼女のトラウマになっていない、それどころかすごくウキウキしている。今もフィオナの膝に乗って終始ニコニコ笑顔だ。
馬車の先頭に乗っているガイドが説明を始める。
「今日は当体験ツアーにご参加いただき誠にありがとうございます! 受付で説明を聞いたとは思いますが、今からトゥーラ鉱山の採掘場へと向かいます。
そこは主要な鉱脈は既にありませんが、貴重な宝石や鉱石がまだまだ採掘されています。採掘された場合はその所有権をお客様のものになります!
先日アダマンタイトを掘り出したお客様がいました! なんとそのアダマンタイトは一億オレンで売れたそうですよ! 是非皆様も一攫千金を狙ってみてはいかがでしょうか!」
「「「おぉー……」」」
馬車の中からどよめきが聞こえる。
体験ツアーとはいえ、ギャンブル要素も加わり大人も楽しめるようだ。俺もちょっとワクワクしてるもん。
「何も採掘出来なかったお客様には残念賞としてこのウーファちゃんキーホルダーを漏れなく差し上げております! ウファの思い出としてお持ち帰り下さい!」
「「「ぶーーー!」」」
今度は参加者のブーイングが聞こえる。ウーファちゃんすごく気持ち悪い。
全体は白い布地。申し訳程度に生えた髪の毛。アンバランスに大きい瞳に耳まで裂けた口。妙に長い手足。いったいどこの妖怪ですか……
この人形を作ったやつのセンスが知れないな。
「やっぱり欲しいですね」
「ウーファちゃんかわいいねー」
あの人形を作った感性と同じものを持つ二人がここにいる。
どうしてアレをかわいいと思える!?
その後馬車に揺られること一時間。目的地のトゥーラ山の採掘場に到着した。
ガイドからツルハシとハンマーを受け取り、参加者は洞窟内へと入っていく。
俺達も行くとするかね。
「わー、楽しみだねー。ライ、フィオナ! 私、二人に綺麗な石をプレゼントするね!」
「おう! 楽しみにしてるぞっ! でも怪我しないようにね」
「うん! 分かった!」
俺達は勇んで洞窟を進んでいく。
参加者立は既に思い思いの場所で採掘を開始している。人族の一家だろう。お父さんが張り切ってツルハシを振るっている。
あっちは上品な服を着た獣人の母子が石をハンマーで砕いている。お? その石の中から透明な結晶が…… 割と鉱石は残ってるみたいだね。俺も張り切っちゃおうかな!
どこかにライバルのいない場所はないかな?
お、あそこなんか穴場なんじゃないの? 誰もいないし。
「みんな! あそこにしよう!」
「分かったー!」
俺が場所を指定するとチシャが元気よく走り出し、そして…… ツルハシを振りかぶる! ちょっと!? 危ないでしょ!
「待ちなさい! まずは俺が掘るから! チシャは金槌で石を砕く手伝いをしてくれない!?」
「えー。わたしこれ使ってみたいのにー」
いや、過保護って思われてもしょうがないが、彼女の身長ぐらいあるツルハシを持たせるのはちょっと怖い。
せっかくの楽しいイベントなのに怪我でもされたらねぇ。でもチシャの力で石を砕けるかな? 変に叩いて指でも潰したら……
「チシャ、金槌を貸して下さい。
付与魔法? フィオナの持つ金槌の頭の部分が薄っすら緑色に輝く。
「これで簡単に石が割れるようになります。試してください」
フィオナから金槌を受け取り、チシャは落ちている石を軽く叩く。コツンって感じで。すると石はパカッて二つに割れた。
「すごい! 全然力入れてないのに!」
おぉ! さすがはフィオナだ! これで怪我の心配はなさそうだな。
よし! では張り切っていきますか! ちょっと反則気味だが身体強化術を発動!
いつも通り視界から色が消える! せっかくだから
ツルハシを壁に突き立てる! さぁ宝探しの始まりだ!
―――ガキィンッ ガキィンッ
俺がツルハシを振るい、フィオナとチシャが砕けた石を割る作業が続く。
「ライ! また出てきたよ! 今度は赤いの!」
「おお! 小粒だけど宝石かな? フィオナ、この石って何か分かる?」
「ガーネットですね。ウファの町で買い物してる時にカーバンクルが売られてたんです。この鉱山は宝石が豊富みたいですね」
「カーバンクルって何?」
「丸く磨き上げられたガーネットのことです。魔法障壁の効果があるんですよ」
「よし! 俺らも鉱石を掘り出してカーバンクルを作るぞ!」
「ふふふ。張り切るのはいいけど上質なカーバンクルを作るには三十センチはある鉱石が必要です。ここではそれは望めないんじゃないかしら?」
「ライ頑張って!」
フィオナはあんなこと言っているチシャの応援がある! さぁ出てくるのだガーネットちゃん! 渾身の力を込めてツルハシを壁に突き立てる!
―――ガキンッ
手応えあり! もう少し掘り進めてから周りの石をどかしていく。そこには…… 黄金色に輝く鉱石が見える。これは!?
「おお! これは見事な銅鉱石ですね! 後で受付にお持ちください。いい値段で買い取らせていただきますよ!」
通りすがりのガイドに言われた。ぐぬう。銅であったか。金じゃなくて残念。
まぁそこまで貴重な金属は簡単には出てこないよな。
しかしまだまだ諦めない! 採掘王に! 俺はなる!
◇◆◇
一時間は経っただろうか。俺はツルハシを振るい続ける。もう腕パンパン……
「ぐおー…… 疲れた……」
「がんばり過ぎです。少し休んでください。ほら、横になって」
フィオナが正座をして膝をポンと叩く。
え? 膝枕してくれるの? ではお言葉に甘えて……
フィオナの太ももの感触を楽しみつつ一休み。ちゃっと触っちゃお。
「んふふ。ライトさんのエッチ」
「はは、そんなことを言われるとはね」
「お返しです!」
フィオナが俺の耳を噛んでくる。いかんな、こんなところでイチャイチャしていては。
「二人とも何してるの? それよりもこれを見て! いっぱいきれいな石が採れたよ!」
チシャが両手いっぱいの鉱石を見せてくる。どれも小粒だな。宝石についてはあまり知識はないが価値は望めないだろう。
でもチシャの嬉しそうなこの笑顔…… これを使って何かアクセサリーを作ってあげられるかな?
「この赤いのはフィオナのね。青いのはライにあげる! この緑のは私の!」
チシャは全員に分配してくれるようだ。優しいな。
「はは、ありがとね。チシャがくれるんだ。一生大事にしちゃうよ!」
「えへへ。ん? なにか変……」
どうした? チシャの様子が……
壁をジッと見つめる。チシャの緑色の瞳の光が強くなる。力を使ってるんだな。
「この壁の向こうに何かあるよ。でもすごく先の方」
名残惜しいがフィオナの膝枕は終わりだ。またやってもらおう。
俺はチシャが指差す壁の前に立つ。すごく先の方か……
ツルハシを使っては日が暮れてしまうだろうな。もうすぐツアー終了の時間だ。
「ライトさん、氷と風の混成魔法を使ってみてください。あのマナの矢は物を風化させる力があるはずです」
風化…… そういえばあの矢が命中した箇所は砂になっていったもんな。
弓を取り出しマナの矢を創造する。
「ライすごーい! 矢が出てきた!」
ふふふ。どうだ、すごいだろ! そういえばマナの矢はお披露目してなかったな。
「チシャ、どのくらい先に鉱石を感じたか分かる?」
「んーとね」
てくてくと洞窟を歩くチシャ。
「ここからライのとこぐらい」
十メートル先ってとこか。
鉱石を傷付けないよう一メートル手前で止まるようにして…… 放つ!
―――シュオン
静かに着弾するマナの矢。すると命中した箇所を中心に直径五メートルほどの穴が出来上がる。
使うのは久しぶりだ。相変わらずの威力だな。
「すごい! 石が砂になっちゃったよ! ライ、今度その魔法教えてね!」
教えられるかな? これって祝福の力だもんな。
でもチシャはいい子だ。地母神様もこんないい子なら気に入ってくれるに違いない。会ったことはないがお願いしてみよう。
「そうだね。でもこれはもっと大きくならないと使えない魔法なんだよ。今はフィオナに魔法を教えてもらおうね」
「うん! 私、がんばるね!」
かわいいなぁ。思わずチシャの手を取ってしまう。そのまま先に進む。
明かり用の蝋燭に火を灯し、ツルハシで丁寧に採掘を開始する。すると……
赤い鉱石が出てきた。
「フィオナ、この鉱石ってなんだか分かる?」
「これは…… ごめんなさい。初めてみる鉱石ですね。でもチシャが力を使って見つけた鉱石だもの。希少金属には違いないです」
「そうだね。じゃあ、これはデュパさんのところに持って行くとするか」
金属が傷つかないように丁寧に取り出す。重っ! 二十キロはあるな。
「ライー、こんなのも見つけたよー」
エメラダが丸っこい石を手渡してきた。受け取ると……
―――ムニュッ
うわ! 気持ちわる! 石なのにぐにゅくにゅした感触!
「こら! こんな気持ち悪いの捨ててきなさい!」
「えー、触るととっても気持ちいいよ。フィオナも触ってみて!」
今度はフィオナに手渡した。
「これも初めて見ます。でもこの石が持つオド…… 間違いなく希少なものでしょう」
ほんとに? なんか腐った果物を連想させるこの石が?
まぁいいか。これもデュパさんとこに持って行くか。
『時間でーす。参加者の皆さま、お集まりくださーい』
あらら。もうお終いか。少し残念。どうやら採掘王の道は断たれてしまったようだ。
帰りも大型馬車に乗ってウファの町に戻る。参加者は嬉しそうな顔をしている者、残念そうな顔をしている者と様々だ。でも子供達はみんな満足そうな顔をしている。
チシャは疲れたのか俺に抱かれて船を漕いでいる。チシャの体温が心地よくて俺もそのまま寝てしまった。
◇◆◇
「ライトさん、着きましたよ。チシャも起きなさい」
「んあ? 寝ちゃってたか」
「ライー、抱っこー……」
甘えん坊ちゃん。しょうがないな。チシャを抱っこしたまま馬車を降りる。
「ではこれでツアーは終了になります! お疲れ様でした! なお鉱石の換金をされる方はそのままウファ観光協会までお越しください!」
「ライトさんはそのまま待っててください。私は銅鉱石の換金に行ってきますね」
「あぁ、頼むよ」
フィオナはすぐに戻ってきた。喜びと哀しみが混ざったような複雑な表情をしている。
「ちょっと残念。二百万オレンになりました」
むう。結局は五十万オレンの出費か。でもチシャが喜んでくれたんだ。俺も楽しかったし。これで良しとしますか。
「それとお土産を買ってきました」
「…………」
フィオナの手には三体にウーファちゃんキーホルダーが握られていた。三体ってことは俺の分もあるのか……
今日は宿を取るのも億劫なので、狭いが三人でキャビンの中で寝ることにした。
明日は首都タターウィンに着くかな?
この旅も、もうすぐ終わりか……
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