サクラ 其の四
「さぁパパ。覚悟してね」
サクラは俺に向かい弓を引き絞る。つがえる矢は薄い光を放っている。
マナの矢だ…… さすがは俺の子。こんなことも出来るのか。
「すごいね。サクラは何でも出来るな。まさかマナの矢まで使えるとは思わなかったよ」
「ふふ。これはパパがくれた祝福の力だよ。ありがとね、こんな素敵なプレゼントをしてくれて!」
俺の力? そういえば昨日言ってたな。ちょっと見てみるか。
目にマナを送って分析を発動!
名前:サクラ
種族:???
年齢:5027
レベル:999
HP:99999 MP:99999 STR:99999 INT:99999
能力:双剣術10 弓術10 体術10 身体強化術10 魔術10
特殊1:マナの矢 理合い
特殊2:転移門 超級魔法
付与効果:父の加護 父の祝福
すご…… カンストしてるじゃん。俺、勝てるのか?
それにしても本当にすごいな。マナの矢に理合い、それに俺の加護と祝福か。
そういえば俺のステータスってどうなってんだろ?
魔物相手に苦戦することが無くなったから調べてなかったんだよね。
一応確認しておこ……
名前:ライト
種族:人族
年齢:15
レベル:284
HP:19880/25047 MP:1+6E STR:30029 INT:1+6E
能力:双剣術10 弓術10 体術10 身体強化術10 魔術10
特殊1:マナの剣 マナの矢
特殊2:千里眼 魔眼 理合い 分析
特殊3:混成魔法 超級魔法 神級魔法(黒洞)
特殊4:時空魔法 空間魔法 並列思考 異界の知識
付与効果:地母神の加護 地母神の祝福
色々増えてる…… それとMPとINTの数値がおかしなことになってるな。
1+6E? たしかEってのは10のことだ。つまり10の六乗…… 百万だって!?
驚いた。いつの間にこんなに強くなっていたのだろう?
だが油断は禁物。HPとSTRはサクラのほうが上だ。
「あはは。パパ、分析使ったでしょ? 相変わらずインチキくさいステータスだよね。私が勝てないのも納得だよ。でも今のパパだったら私のほうが有利…… それじゃ行くよ!」
ドヒュンッ!
サクラが矢を放つ! 避けるのが得策だがマナの矢は多少ホーミングするはずだ。ダガーを使い軌道を逸らす!
キィンッ
音を立て、マナの矢は上空へと軌道を変えた……けど、俺のダガーは……
シュワシュワ ボロッ……
泡を立て、根本から腐っていく。何属性だコレ!?
「毒か!?」
「少し正解。私のマナの矢は状態異常に特化した矢なの。それしか使えないんだけどね」
状態異常? 厄介だな。毒の他にどんな効果があるのだろうか?
「なぁサクラ。この矢を喰らったら俺はどうなる?」
「そうね。毒に侵され、スロウがかかって、封魔、石化、呪い、スタン…… えへへ。他にもあったと思うけど忘れちゃった」
あかん! これは絶対に喰らっちゃ駄目なやつだ!
威力云々じゃない。これがサクラの必勝パターンか。
マナの矢で対象の力を落としてからダガーで止めを刺す…… 超怖い……
サクラは次の矢をつがえる!
「ほら! どんどんいくよ!」
ドヒュンッ ドヒュンッ ドヒュンッ
「ちょっ!?」
悪い子だ! 遠慮無くマナの矢を連発してきた!
基本的にマナの矢は直進するように俺を狙ってくる。ホーミング性能は少しなので直前で避ければ問題無い。
(そんなことないぞ! 後ろ!)
後ろ!? 心の中の俺が警告する! 後ろって何だよ!?
ドヒュンッ!
うおっ!? 俺は地面に伏せることで後ろから迫るマナの矢を当たる寸前で避けることが出来た。
危なかった…… でもなんでだ!?
ホーミング性能が高すぎる。あれには完全追尾性能なんて無かったぞ!?
(後ろを見てみろ。転移門だよ)
心の中の俺が言う先には……
なるほど、俺の真後ろにサクラの転移門がオドの渦を巻いていた。
サクラは俺を狙うふりをして、転移門に向けて矢を放っていたのか。
そして転移門をくぐった矢は背後から俺を狙う…… エグいな。
「ふふ、やっぱりパパってすごい! この時代のパパなら楽勝だと思ったんだけどなー」
いやいや、避けるのに必死なだけだよ。
不味いな。今は避けられてはいるが、サクラの矢がかすりでもしたらアウトだ。そこで俺の負けが決まる。
どうするか…… 心の中の俺に話しかける。
なぁ、このまま戦って俺が勝てる確率ってどれくらいだ?
(四割だろうな。でも恐らくサクラは何か隠し玉を持っている。勝率はもっと下がると思うぞ)
四割以下か…… このまま後手に回っては駄目だな。速攻をかけるか。
俺は高速回転を発動し、サクラに突進する! サクラは俺を見て笑い、魔法を放つ……
【多重転移門!】
闘技場を囲うように多数の転移門が出現する。
サクラは弓を引き絞り、転移門の一つに向かって矢を放つ。どうする気だ?
(これは絶対やばいやつだ! 今は避けることに専念しろ!)
避ける? どういうこと…… なるほど、分かったよ。さっきと同じ攻撃だが、マナの矢が転移門をくぐり続けている。
シュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンッ
くそ、軌道がランダム過ぎる。その内、俺の死角を突いてマナの矢が俺に刺さるのも時間の問題だろう。
「どう? これが私の一番強い技。未来のパパもこの技を褒めてくれたんだよ!」
そうでしょうね! この縦横無尽に襲い掛かる凶悪なマナの矢! 避けるだけで精一杯だ!
しかもかすっただけで状態異常に陥り、サクラの勝ちが決まる。
くそ! どう切り抜ける!? おい、俺! なんか作戦を考えてくれ!
(おいおい! 人使い荒いな!? まぁいい! なんか考えておくけど、俺一人じゃ無理だ! 並列思考を増やすぞ!)
心の中で七人の俺が議論を始める! ギャーギャーうるさい!
お願いしたのは俺だ。我慢しなくちゃな!
俺はサクラのマナの矢を避け続ける。それしか出来ない。
まだか!? 早く何か打開策を教えてくれよ!
俺は焦りを感じつつも、並列思考の俺が答えを出すのを待ち続ける。
そしてやっと答えが出た……のだが、それがまた突飛な策だった。
(おい俺! 何とかなるかもしれないぞ! だけどこれは賭けだ! 詳しく説明してる暇は無い! とりあえずサクラの矢を喰らえ!)
何言ってんだ!? かすっただけでも俺の負けが決まるんだぞ! 封魔の効果とかスタンも付いてるんだ! 忘れたのか!?
(いいから! 俺達を信じろ!)
心の中の俺がそう言っているのだが…… くそ、やるしかないか。
どうせ、このまま避け続けてもじり貧になって俺が負ける。
(だけど避けるフリして矢を食らえよ! サクラを油断させろ!)
注文多いよ! 後ろからマナの矢が来る! これでいいか!
ほんと当っていいんだよな!? マジで信じるからな!
(くどい! さっさと喰らえ!)
ええい! ままよ! 迫りくるマナの矢を避けるフリをして腕にかすらせる!
シュッ
マナの矢が当たった瞬間……
目の前が暗くなる……
体から力が抜ける……
意識が……遠く……
俺は薄れゆく意識の中、サクラがゆっくり俺に近付いてくるのを感じた……
「ふふ。これで私の勝ち。パパごめんね」
サクラが俺の首にダガーを当てようと近づいてくる。
当てればサクラの勝ちだな。
当てればね……
パシッ!
サクラのダガーが喉に触れる瞬間、俺はその場から飛び起きてサクラの手首を跳ねのける!
「なっ!?」
サクラは不意打ちを喰らい、ダガーは宙を舞う。
ここからが勝負だな。俺は高速回転を発動、さらに並列思考でサクラがこの状態から避けられない位置を探る!
(右側面! 左下から掌底で顎を狙え!)
サンキュー、俺!
俺自身のアドバイスにより、最も効果的な打撃がサクラを襲う!
―――カポンッ
「ん……?」
かわいい音を立て、俺の打撃がサクラの顎を打ち抜いた。
ごめんな。サクラの緑色の瞳が白目に変わる。
そして崩れるように顔から地面に倒れ込む……
ドサッ
かわいい娘に砂を食わせるわけにはいかない。
地面に倒れ込む前に俺はサクラを抱きかかえた。そして優しく地面に寝かせる。
少し眠っててな。俺は静まり返るギャラリーを掻き分け、受付のもとに行く。
受付嬢は俺を恐れおののいた目で見ているのだが……
大丈夫。恐い人じゃないからね。
「なぁ。これって俺の勝ちでいいよな?」
「は、はい…… し、勝者はライトさん! あなたには一芸入試の合格者として無料でウェテナ大学に入学することを認めます!」
―――パチパチパチパチパチパチパチパチッ!
受付嬢の宣言の後、ギャラリーから歓声と拍手が! ちょっと照れ臭いが勝利の余韻に浸っている場合ではない。
俺は再びサクラのもとに。彼女の頭を膝に乗せ、軽く頬を叩く。
「サクラ、起きて」
「ん……」
サクラがゆっくりと目を開ける。よかった。ダメージは無さそうだな。
意識を刈り取る為だけの打撃だったが、未来の家族に向けての攻撃だ。
ちょっと心配だったんだよな。
「パパ……? ふふ…… また負けちゃった。あーあ、せっかくパパから初勝利をもぎ取れると思ってたなのに。でもどうして私のマナの矢を受けたのに動けるの? 普通だったら丸一日は状態異常で苦しむはずなのに」
たしかにあれをまともに喰らったらサクラの勝ちだっただろう。
でも俺はそれを逆手に取ったんだ。さて種明かしの時間だな。
「状態異常ってのはさ、基本的には一定時間で回復するだろ? 恒久的に状態異常になるわけじゃない。
だから俺は自分に時空魔法をかけたのさ。サクラのマナの矢が当たる前にね。体内時間を早くすることで状態異常になっている時間を一瞬に短縮したのさ。もちろん回復するまでの時間も計算した。その時間分だけ体内時間を早くしたんだよ」
「何それ!? そんな方法があったなんて……」
サクラは俺の作戦に驚いているようだ。でもそれだけじゃないぞ。
「それとさ、サクラは必勝パターンに固執し過ぎてると思ったんだ。多分今までそのパターンで多くの勝ちをもぎ取ってきたんだと思う。でも成功体験にしがみつき過ぎると足元を簡単にすくわれちゃうぞ」
「…………」
サクラは力無く笑う。ちょっと厳しいことを言ってしまったか?
「ふふ、未来のパパも同じことを言ってたよ。悔しい…… でも!」
ガバッ!
そう言ってサクラは突然抱きついてきた! どうした!?
「さすがは私のパパね! すごく強い! でもいつかはパパを超えてみせるからね!」
サクラは嬉しそうに俺に宣言する。ははは、そういうことか。
いいぞ、子供に抜かされるのも嬉しいものだからな。でもそう簡単には抜かせないぞ。
こうして俺は未来の我が子と対峙して、勝利を収めることが出来た。
これで俺はタダで入学出来るのだが……
「でもサクラ、お前はこれからどうするんだ?」
「どうするって?」
「いや、お前も大学に入学したかったんだろ? でも俺が勝っちゃったからもう入学は……」
「えっ?」
サクラは不思議そうな顔をする。
ん? 何か変なことを言ったかな?
「別に普通にお金を払って試験を受けるわよ。ちょっと過去に戻って一般受験してくるね」
「なんですと!?」
おまっ!? それが出来るなら俺と戦う必要無かったんじゃねぇか!
「あはは。ごめんね。どうしてもパパと勝負してみたくなっちゃてね。じゃあ、少し過去に行ってくるね。すぐに戻ってくるから!」
そう言ってサクラは転移門の中に消えていった。
はは…… まぁいいか。これでしばらくはサクラと一緒に勉強出来るしな。
俺の大学生活がスタートした。未来の娘と共に……
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