19987回目の転移

 ―――ドサッ



 私は草原の上に降り立ちます。そして自分の名を思い浮かべる……


 私はフィオナ。フィオナ ブライト。そして凪であり、フィーネでもあります。


 よし、今回も記憶の消失は無し。

 今度の世界はどんな世界なのでしょう? ライトさんがいればいいのですが……


 私は目にオドを送り、この大地を覆うマナの色を調べます。

 すると視界が紫色に変わりました。


 駄目でした。この世界は私のいた世界ではありません。

 ライトさんはこの世界にはいないでしょう……


 また二十五年間、一人でライトさんのいない世界で生きていかないと。

 ううん、がっかりしては駄目ですね。

 いつかきっと会える。そう信じて今まで生きてきたのですから。


 私は立ち上がります。ライトさんがいないとしても、時間を無駄にしてはいけません。

 強くならなくては。前よりもずっと。必ずライトさんを守れるように。


 以前の私はライトさんを守りきれませんでした。

 二度もアモンに煮え湯を飲まされたのです。

 一度目は森の王国で。二度目は王都で。


 ライトさんの命は救えたけど、私は一人で異界を彷徨うことになり、そしてもう五十万年が経ってしまいました。


 永い時が過ぎました。

 時々寂しさで気が狂いそうになります。

 でも…… 


 私は諦めません。


 立ち上がって自分のステータスを確認します。

 これも転移の度に毎回行っていること。分析を発動します。



名前:フィオナ

種族:トラベラー

年齢:???

レベル:999

HP:99999 MP:99999 

STR:99999 INT:99999

能力:剣術10 槍術10 体術10 魔術10

特殊1:超級魔法 神級魔法 分析 理合い

特殊2:五重詠唱 召喚魔術 並列思考 

付与効果:地母神の祝福



 これもいつも通り。問題無いみたいですね。

 それじゃ、どこに行きましょうか…… 

 オドを練り、そして宙に魔方陣を描きます。

 


santζasamonna召喚



 ブゥゥン



 魔方陣から召喚獣が飛び出してきます。八つの翼を持った燕です。


「いつも通り。最寄りの栄えた町を探してきてください」

『ピチチ。ピチチ』


 一声鳴いてから燕は飛び立っていきます。

 私はその場に座り、燕が戻ってくるのを待つことにしました。

 

 これからのことを考えます。

 ライトさんがいないとしても、時間軸を保つため、二十五年間はこの世界にいないといけません。

 ならばその時間を有効に使わないと。

 私は自分を鍛え続けました。そして、時折イレギュラーという世界にたどり着きます。

 今発動した召喚魔術もイレギュラーの世界で学んだ魔法です。


 この世界は恐らくイレギュラーに属する世界。

 私にとって有効な魔法や能力があればいいのですが……

 


 そして三時間後……



 燕が帰ってきません…… 

 遅いですね。迷子になっているのでしょうか? 

 ちょっとお腹も空いてきました。何か食べる物あったかな?


 私は鞄の中を漁ります。

 あった! リンゴが一つ!

 私は口を大きく開けてリンゴをかじ……?


「うわー! 助けてくれー!」


 悲鳴!? 私はリンゴを地面に置いて辺りを見渡します!

 遠くの空に一つの影が見えました。あの姿は…… 飛竜? 


 飛竜の下には頭を抱えて地面に伏せる人影が…… 飛竜はその人に向かって急降下を始める! 助けなきゃ!



santζasamonna召喚!】




 ゴゴゴッ



 地面がせり上がり、ロックゴーレムが襲われていた人を守り始めました。


『ギャウッ? ギャアッ!』


 飛竜は鋭い爪をゴーレムに突き立てます。ふふ、ゴーレムにそんな攻撃通じると思ったのですか? 


 今度は私の番。ゴーレムは飛竜の足を掴みます。


『ギャアッ!? ギャアッ!』


 そのまま逃がさないでくださいね。オドを練りながら宙に魔方陣を描きます。そして……



aireaηvalt風爆!】



 シュォォォォォンッ

 ドシュッ ドドドドシュッ



 五つの魔法が同時に放たれます。五重詠唱です。

 口頭で行う二重詠唱で二つ、そして並列思考で一つ、更に両手で宙に魔方陣を描くことで二つ。


 飛竜は五つの魔法の直撃を喰らって、胴体に大きな穴を開けます。

 何があったのか理解出来ないように一声鳴いてから動かなくなりました。


 ふぅ、よかった。襲われてた人も無事みたいですね。

 その人のもとに駆け寄ると涙を流しながらお礼を言ってきました。


「助かった! あんたは命の恩人だよ! ありがとう! 本当にありがとう!」

「ふふ、よかった。怪我は無さそうですね」


「あぁ、何とかな…… でもせっかく仕入れた食材が全部やられたよ。くそ、これで儲けがパァか……」

「命あっての物種ですよ。そんなこと言わないでください。ん? これって……?」


 男の人の足元には袋から飛び出た食材が。パンに野菜、そしてお肉。でもただのお肉ではありません。挽き肉ですか?


 突然心の声が聞こえてきます。そして過去の記憶でしょうか。声が聞こえたと共に思い出したのです。


(これがあればハンバーガーが作れる…… ふふ、来人君とよく食べに行ったな……)


 ん…… この声は私の前世の一人、凪という女性のものですね。凪とライトさん……いえ、来人と呼ばれたその人は二人でパンを食べています。

 あれ? ただのパンではありません。

 パンの中には葉野菜とトマト、そしてお肉が……


 分かりました。これがハンバーガーというのですね。

 その光景を見て、なんだかとってもお腹が減ってきました。


「悪いんですけど、この食材を少し譲ってくれませんか?」

「これを? ははは、いいぞ。あんたは命の恩人だ。それにこれらはもう売り物にならないしな。好きなだけ持っていってくれ」


 やりました! 私は散乱している食材の中から比較的綺麗な物を取りだし、調理を始めます。


 挽き肉をこねて、味付けをしてフライパンで焼きます。



 ジューッ


 

 香ばしい匂いが漂い始めます。野菜を洗って、トマトを切って。パンを二つに切って具材を挟んで……


「出来ました! ハンバーガー!」


 男の人は目を丸くしています。

 ふふ、あなたの分もありますよ。私は彼にハンバーガーを手渡します。


「こ、これは……」

「ハンバーガーという料理です。よかったら食べてください」


 私はハンバーガーを一口。



 ガブッ



 んふふ。美味し。懐かしい味。

 あれ? こんな食べ物、初めて食べたのに。私、また懐かしいって思ってます。

 そうか、凪は言ってましたね。来人君とよく食べたって。

 私は笑顔でハンバーガーを頬張りますが、男の人は驚いた顔をしています。


「う、美味い…… なぁ、あんた。これの作り方を教えてくれないか?」

「いいですよ。まずは挽き肉を……」


 青空の下での料理教室が始まってしまいました。

 一通り作り方を教えたところで……


『ピチチ、ピチチ』


 燕が戻ってきました。

 ん? 北に行けば大きい町があるって? ふふ、ありがとね。


 それじゃ行かなくちゃ。

 私は男の人と別れ北に向かって旅立ちます。





 そして時は流れ……


 



 数百年後…… この世界の王都にて……


「おっちゃん! ハンバーガーを二つちょうだい!」

「おう! ライトか! 今日はサクラちゃんも一緒か! デートか?」


 まぁ、傍目から見たら俺とサクラは同い年だからな。本当は親子なのだが。

 今日は大学が休みなので、サクラと二人で商業区に遊びに来たのだ。

 お昼は何を食べようか話してたら、ハンバーガーが食べたいってサクラが言ってな。


 その場でハンバーガーを頬張る。一口噛む度に溢れ出す肉汁…… 美味い!


「相変わらず美味しいね! それにしてもこの料理っておっちゃんが考えたの?」

「前にも言わなかったか? ハンバーガーは俺のご先祖様が不死人から教えてもらったんだとよ。それから俺達一族はずっとハンバーガーを作り続けてるんだ」


 不死人…… トラベラーのことだよな? そういえば言ってたかも。忘れてたよ。

 はは、人に料理を教えるトラベラーか。まるでフィオナみたいだな。


 サクラはあっという間にハンバーガーを完食してから……


「おじさん! もう一つちょうだい!」

「おう! サクラちゃんはかわいいからサービスだ! 肉を二倍にしてやる!」


「やった! おじさん大好き!」


 むぅ、羨ましい。二個目のハンバーガーを頬張るサクラ。


「んー、美味しい! でも不思議だね。このハンバーガーってママが作ってくれたのと味付けが似てるんだよね」

「え? フィオナが作ってくれたのか!?」


 更に羨ましい…… サクラは俺の知らないフィオナの一面を知っているのか。

 俺もフィオナと会ったら作ってもらおうかな。

 フィオナのハンバーガーか。きっと美味しいんだろうな。


 俺はハンバーガーをかじりながらフィオナのことを思い出す。早く会いたいな……


「もうパパったら。また泣いてるよ」

「え? ほんとに? ごめんごめん」


 目を拭う。いかんな。今日はサクラと楽しむって決めたじゃないか。

 しんみりしていてはダメだ。


 俺はハンバーガーを食べ終えサクラに話しかける。


「ふー、美味かったな。サクラ、次はどうする?」

「カレーを食べに行こうよ! 美味しいお店見つけたの!」


 おいおい、食べてばかりじゃないか。

 でもいいか。よくフィオナとも食べ歩きはしてたもんな。


「分かった! 今日は美味いものを食い倒そうぜ!」

「うん!」


 サクラは俺と腕を組んできた。

 俺達はそのままカレー屋に向かうのだった。

 カレーをたらふく食ってから店主にどうやってカレーを知ったのか聞いてみた。

 ここもご先祖がトラベラーの女から作り方を教わったらしい。


 ははは、食い意地の張ったトラベラーがいたもんだ。

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