決戦 其の二

「行くぞ!」

vaggauratal!】


 俺は魔物の群れに向かい属性付きの矢を放つ。フィオナはお得意の超級魔法だ。よかった。魔力枯渇症は治ったみたいだな。

 雷魔法は発動から着弾までの速度が異常に早い。威力も彼女が使う魔法の中ではトップクラスだろう。


 雷が魔物の群れに落ちる。大きな音を立て、雷に打たれた魔物は黒焦げになって弾け飛んだ。

 はは、相変わらずエグイ威力だな。雷撃が命中してすぐに俺の矢も魔物を襲う。


 そういえばこれって何の属性だったんだろ? 聞くの忘れちゃったよ。まぁトラベラーお手製の矢だ。強力なのは間違いない!


 

 ギリギリ…… ヒュンッ!

 


 放たれた矢が魔物の群れ目掛け飛んでいく。そして…… 

 命中した魔物を中心に光の柱が天から降り立った。


 これは……聖滅光のミニチュア版みたいだ。半径にして十メートルほどだろうか。光の柱の中にいた魔物は消滅していた。

 すごいな…… 付与魔法をかけてくれたトラベラーが説明してくれた。


「聖属性を込めました。これはどの魔物に対しても有効なはずです」


 聖属性か。付与魔法ってすごいな。

 おっと、よそ見してる暇はなかったな。下ではクロイツ将軍率いるアルメリア軍が魔物との戦闘を開始している。


 援護しないと。味方に被害が及ばないように…… 矢を放つ!



 フォンッ

 


 簡単な音を立てて光の柱が落ちてくる。後続の魔物がいなくなったことで少し前線は押し進む。

 さぁ、どんどん行くぞ!


 俺とフィオナ、トラベラーはそれぞれ魔法と付与魔法が付いた矢で援護する。


 最前線の味方を巻き込まないように気を遣わなくてはいけないが、今のところ俺達が優位だ。

 そんなことを思っていたのだが、事態が急変する。


 

 ―――ドォンッ!



 轟音!? 城壁が大きく揺れる! なんだ!? 下を見ると大きな杭が城壁に刺さっている。

 それは赤く白熱するように光り、そして…… 弾けた。



 ―――ドカンッ!



 うわっ! 衝撃で立っていることが出来なかった。大爆発が起こり、粉塵が舞う。

 一体なんだ!? 視界はぼやけるが千里眼を使って群れを探ってみる。


 すると……


 弩砲バリスタ! かなり大きい! しかも爆発したってことは、付与魔法付きってことかよ。

 まずい。敵は攻城兵器まで出してきたか。ぼやけた視界の中、ゴブリンが次弾を装填しているのが見える。


「フィオナ! バリスタだ!」

「魔法では迎撃出来ません! ライトさん、撃ち落としてください!」


 うはっ! 無茶なことを仰る! 

 バリスタから撃ち込まれる矢はかなり速い。あれだけの速度を持つ飛翔体を撃ち落とすとなると…… 


 千里眼が必要になる。今の俺はそれが使えない。

 いや、使えない訳ではないのだが、黒い雪に含まれるオドがその性能を大きく落としている。


「ライトさん、ちょっと来てください」


 ん? こんな時にどうした? 

 フィオナは懐から羽ペンを取り出した。


「ごめんなさい。ちょっと痛いですよ。でも目は閉じないでくださいね」


 俺の顔を押さえて左目に羽ペンで魔法陣を書く。いでで。


「これでよし。バリスタの矢に反応するよう魔眼の魔法陣を書いておきました」


 右目を閉じてみる。視界に映るのはモノクロームの世界。

 まぁ普通に見ても今は黒い雪のせいで色のない世界なんだけどね。その中で赤い点が光り輝いている。


 懐かしい感覚だ。フィオナと出会った当初、一人の少女を不治の病から救うべく、封魔草を探したんだ。

 封魔草のオドに反応する魔眼の魔法陣を書いてもらったんだったな。


 はは、あの時はびっくりしたよ。なんの説明も無くペンで俺の目を抉ってくるんだもの。


 思い出に浸りながらも、敵陣を見つめる。

 ん? 赤い点が…… 次第と大きくなる。射出したか! 

 俺は付与魔法付きの矢をつがえ……放つ!


 

 フォンッ



 矢は弧を描いて飛んでいき、そして……



 ドカンッ!



 矢が命中し、空中で大きな爆発が起こった。迎撃成功!

 だが喜んでばかりはいられない。弩砲には火系の付与魔法がついているのだろう。

 あれが多数城壁に撃ち込まれたら……



 ―――ゴォォォンッ……



 遠くから何かが崩れる音がする……

 恐れていたことが起こった。拡声器を使った伝令兵の声が下から聞こえてくる。


『報告! 東門城壁が崩壊! 魔法部隊は修復に向かえ!』


 マジかよ…… これは西門、北門も同様に弩砲が使われてると思ったほうがいいな。

 フィオナは魔法詠唱をしている。何をする気だ?


rocaθwalta岩壁!】



 ゴゴゴッ



 轟音と共に下から地面がせり上がり城壁を包む。


「城壁を強化しました! しばらくは耐えられるはずです! 私は東門に向かい城壁を直してきます!」


「分かった! 気を付けろよ!」

「ライトさんも!」


 フィオナはマジックポーションを抱えて東門に向かって走り出す。

 がんばれよ! じゃあ、俺は自分の仕事をするかな!


 矢を二本同時につがえる。赤い点がこちらに向かい近づいてくる。弩砲だな。狙いをつけて…… 放つ!



 俺の矢は一本は弩砲の矢目掛け飛んでいく。二本目は適当だ。敵陣のどこかに当たればいい。



 ドォンっという轟音と共に宙で爆発が起きる。迎撃成功! 

 その直後、聖属性の矢は命中し、天から光の柱を降らせる。


 よし、この矢があれば守りは完璧だな。バリスタに注意を払いつつ、下の援護をしていればいい。そういえばクロイツ将軍は大丈夫かな?


 下を眺めると…… 少しずつ前線が下がってきている。押されてるんだ。


 バリスタの次弾装填には時間がかかるはず! 俺は矢をつがえる! 五本同時だ! 弓を引き絞り、放つ!


 味方を避けるように矢は扇状に飛んでいく。命中した直後に光の柱が敵を襲う。

 よし、後続の動きが止まった! 


「今です!」


 下に向かい指示を出す! クロイツ将軍に聞こえたかな? 

 味方の動きに勢いが出てきた。少しずつ前線を押し返している。



 ―――ゴォンッ



 東門から轟音が!? 視線を東に向けると地面から土が盛り上がってくるのが見えた。

 フィオナの岩壁だ。よかった。城壁の修復は終わったか。とりあえずは安心だな。

 じゃあフィオナが戻ってくるまで南門を守るのみ!



◇◆◇



 矢をつがえて放つを繰り返す。それを何度繰り返したことか。弓弦を引く右手が痺れてきた……


「くそ…… いったい何体いるんだよ……」


 魔物が減っている気がしない。腕が上がらないほどの疲労感だ。

 身体強化術を発動しているのだが、運動量はそのキャパを超えているのだろう。


 フィオナはまだ戻ってきていない。東門の修復が終わった途端に、北門と西門が半壊したとの報告が入ったのだ。彼女はその修復に向かったのだろう。


 下からクロイツ将軍の声がした。


「一番隊の負傷者は下がれ! 三番隊、四番隊は出陣! 前線を押し返せ!」


 四隊同時に!? それだけの戦力と投入しないといけないとは…… 相手も本気なんだ。こっちも死ぬ気で行かなくちゃ。


 下を気にしつつ矢で援護する。が、状況は悪くなる一方だ。


「五番隊! 六番隊! 前へ!」


 下ではバタバタと兵が倒れている。まずいな、前線がどんどん後ろに下がっている……


 手持ちの矢が少なくなってきた。矢に付与魔法をかけ続けてくれているトラベラーに指示を出す。


「じいさん! 次の矢を頼む!」

「契約者殿。次の千本で最後です」


 うそだろ!?


「そんな驚いた顔をなされるな。あなたは既に一万本以上の矢を撃っているのですぞ。常備していた矢が無くなるのも必定」


 マジかよ…… どうするか?


 いや、考えても仕方ない。選択肢は一つ。下に降りて戦うのみだ。ここで王都を落とされるわけにはいかないからな。


 でも矢を撃ち尽くす前にフィオナに会いたいな。もしかしたら死ぬかもしれないし。



 俺は残り少ない矢をつがえる……

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