叙爵 其の四
「んぅ……」
フィオナの寝息を聞こえる……
朝日が窓から差し込んでくる。
目を覚ますと…… フィオナが裸で俺に抱きついて寝ていた。
最近は毎晩してるなぁ。つい二ヶ月前まで女を知らなかったこの俺が。
はは、人生分からないもんだ。
寝ているフィオナを見ると悪戯心が湧いてくる。シーツの中に潜ってフィオナの体を観察してみよう。
モゾモゾとシーツに潜ると……
形のいい胸にくびれた腰。思わずフィオナの体にキスをしたくなる。
いかんいかん。それをすれば朝から戦いが始まってしまう。
彼女は性欲が強いわけではないようだが、必ず三回以上求められてしまう。一つになれる喜びを感じていたいそうだ。
でもなるべく大声は出さないようにね…… 他にも泊ってる人がいるんだから。
俺も大人だ。朝から盛ってはいかん。キスをしたい衝動を抑えてシーツから顔を出すと……!?
「…………」
「…………」
ベッドの横にオリヴィアが立っていた……
「覚えたてって頃はいくらやっても物足りないだろうけど、ある程度は自重しなよ。ほら、あんたに手紙が来てるよ」
「はい……」
オリヴィアは手紙をベッドに投げ入れる。
ノックもせずお客様の部屋に入ってくるのは止めていただけないでしょうか……
フィオナを起こさないようベッドを抜け出し、封を切って手紙を取り出す。
これは……書状だ。王宮からの呼び出し? 叙爵の日程が決まったようだ。
急だな、明日行われるのか。
他にも書いてあることが…… どれどれ? 同伴者は一名。妻、もしくはそれに準ずる女性がいたら連れてきても良いと……
お! これはフィオナを連れて行っても良いということだな! せっかくだ。先日買ったドレスのお披露目といきますか。
「フィオナー。ほら、起っきしてー。書状が来たよー」
シーツの上からゆさゆさしてフィオナを起こす。今日はギルド職員の仕事が無い完全オフの日だ。いつまでも寝ていてはもったいない。
どうせ爵位を貰ったらすぐにサヴァントにとんぼ返りだ。忙しい日々がまた始まる。
「んむぅ…… ライ……トさん……」
―――グィッ
フィオナは俺の手を取ってベッドに引き込む。寝ぼけながらも深いキスをされた。
朝から? 彼女のなすがままに蹂躙されてしまった。
「じゃあ、明日は私も叙爵式に出るんですね?」
フィオナは裸でうつ伏せになったままだ。そろそろ服着なさいな……
「そうみたい。妻もしくは恋人は連れてきていいって書いてあるしね。あのドレスのお披露目にちょうどいいんじゃないの?」
「恋人? そうでした。私、ライトさんの恋人という立場になったんですね」
「え!? 今更それに気付く!?」
「長い時間を生きていますが、その立場になったのは初めてですから。んふふ、でもなんだか嬉しいです」
仰向けで寝ている俺の上にフィオナが乗ってくる。
嬉しいのは分かるけど、今はもうだめだよ。一日が終わっちゃう……
「ほら、そろそろ起きて。ダブレットを取りに行かなくちゃ。そうだ。帰りにお風呂の寄っていかないか?」
「行きます。でもその前にもう一回……」
そのまま俺を抱きしめキスをしてくる。
もういいや。このままもう一回戦といきますか。
結局ダブレットを取りに行くのは午後になってしまった。
二人でミルキさんの店に続く道を歩く。
「んふふ。ごめんなさい、遅くなってしまいましたね」
「別にいいさ。ダブレットは逃げないしね」
「ライトさん、手を繋いでもいいですか?」
「もちろん」
お互いの手を握る。少し恥ずかしいがそのままダブレットを取りに向かう。ミルキさんの店に到着すると……店は行列が出来ていた。
お客さんは世間話をしながら自分の番が来るのを待っている。こんな会話が聞こえてきた。
「あら、奥様。貴女もあの黒いドレスがお目当て?」
「そうなの! 話によるとサンドクローラーの繭から作られてるんでしょ? そんな高い生地でも無いのに、あんなに見事に仕上げるなんて!」
話を聞いていると、どうやら行列はフィオナの着たドレスが目当てのようだ。ははは、ミルキさんの作戦勝ちってことか。
俺達も列に並んでいると、ミルキさんが中から出てくる。
「本日はご来店、ありがとうございます! お待たせして申し訳ございません! 順次ご案内させていただきます! もう少々お待ちくだ……? フィオナちゃん!」
ミルキさんが駆け寄ってきて、フィオナを抱きしめる! すごく嬉しそうな顔だ!
「わわっ? どうしたんですか?」
「もう! どうしたもこうしたも無いわよ! 本当にありがとうね! フィオナちゃんがドレスを着て歩いてくれたから、いい宣伝になったのよ! もう忙しいったら無いわ! そうだ! お給料払うから手伝ってくれない!?」
おぉ…… これは突然の展開だな。しかし、ミルキさんはフィオナにドレスをくれた恩人でもある。断るわけにはいかん。
「いいですよ! 何をすればいいですか!」
「ライト君、フィオナちゃん! ありがとね!」
ミルキさんの手伝いをすることになった。
店が落ち着く頃には日は暮れており、ダブレットを受け取り、風呂に向かう。
宿に帰る頃にはすっかり夜になっていた。
叙爵式前に疲れたな……
◇◆◇
叙爵式の当日は朝早くに起きた。グウィネの理髪店に行かなければいけないからだ。
王族や国のお偉いさんの前に立つんだ。それなりの髪型にしなくちゃ失礼だからな。
朝霧が立ち込める町を歩く。店は閉まっているが、唯一グウィネの理髪店は明かりが灯っていた。
ドアをノックすると……
「ふぁぁ。おはようございます…… ライトさん、今日は頑張ってくださいね」
グウィネがあくびをしながら出迎えてくれた。悪いな、無理言って朝早くに店を開けてくれて。隣にはグリフもいた。
「ライト、今日上手く事が運べば俺達は結婚出来る。俺達の人生なのにお前に苦労をかけてしまってすまない。でも頼れるのはお前だけなんだ!」
「心配すんなよ。どうせ王様の前に跪いて、適当なセリフ言ってれば終わるって。それよりもお前、俺をお義父さんって呼ぶ覚悟は出来てんのか?」
「う…… それは勘弁してくれないか?」
「はは! 冗談だよ。俺もお前が息子だなんて気持ち悪くってしょうがないわ。お願いだからいつも通りに接してくれよ」
「ほらほら、時間無くなっちゃうわよ! 二人とも椅子に座って!」
ここからはプロにお任せしよう。俺は簡単な散髪をした後、髪型を整髪料を使ってセットしてもらう。
オールバックっていうのかな? 俺らしくない髪型に仕上がった。
「次はフィオナさんね。はい、男衆は出て行って。着付けもしなくちゃですからね」
俺達はグウィネに追い出され、理髪店二階のグリフ達の愛の巣で待機することにした。
グリフが淹れてくれたお茶を飲みながら談笑すること一時間。ノックの音と共にフィオナ達が部屋に入ってきた。その姿たるや……
髪型は先日と同じ。後ろにウェーブがかかっている。普段のフィオナは長い髪を下しているだけなので、全く雰囲気が違う。そして肌の色が違う。
どちらかと言えばフィオナの肌は少し日に焼けた感じの健康的な色をしている。白粉を付けているんだろうな。そして化粧も施してある。
なんと言えばいいのか…… ただ、美しい。それしか言葉が出てこない。
「へ、変じゃありませんか?」
「き、綺麗だよ……」
「うふふ。ライトさん驚きましたか? やっぱり素材がいいんですね。メイクしててフィオナさんの美しさに嫉妬しちゃいました」
グリフもフィオナの姿に言葉が無いようだ。我に返ったように口を開く。
「そ、そろそろ行かないと不味いんじゃないのか? 式って何時からだ?」
「正午からだ。あと三時間か…… じゃ、そろそろ行ってくるわ!」
俺もダブレットを身に着け、美しく着飾ったフィオナと王宮に向かう。途中すれ違う人はフィオナの姿を見ては足を止めていた。
ふふ、俺の恋人は美人だろう。優越感に浸っちゃったりして。
王宮正門に着いて衛兵に書状を見せると初めて正門から通される。いつもは裏門だからちょっと嬉しい。
目に入るのは大きな庭。そしてその先には天高くそびえる城が見える。
俺はあそこに行くのか。ちょっと緊張してきた。
城の前まで行くと衛兵が中に通してくれる。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
城の中は一階が大広間になっており豪華な椅子が多数並べられている。
兵士とメイドさんは準備に大忙しといった感じだった。
「ライト殿!」
聞きなれた声がする。ナイオネル閣下だ。
「この度は貴殿に士爵の位が授けられることになった。おめでとうを言っておこう。式の子細を話すので場所を変えよう」
俺達は二階に上がり、閣下の私室に通される。薫り高い紅茶が出された。
一口飲むと…… 美味いな。いい茶葉を使ってる。お土産に貰えないかな?
そうそう、聞きたいことがあったんだ。
「ナイオネル閣下。書状に書いてあったとは思いますが、異種間結婚の件、大丈夫ですかね……?」
「心配いらん。全ての手続きは終わっている。養子縁組についても私の方で処理済みだ。この式典が終わったら、早々にサヴァントに行ってもらうことになる」
「願ってもないことです。お手数おかけして申し訳ございません」
「いや、貴殿には苦労をかけたからな。あ、それと首都ラーデに着いたらカイル殿には書状の件、決して他言無用と伝えておいてくれ……」
閣下の顔が青くなった。何を書いたのか気になる。
「それと一つ伝えたいことがある。政略結婚についてだが、君達が候補になったことを不満に思う者がいる。ロスマン男爵だ。
実は彼の家は次の異種間結婚の候補だったのだ。彼を押しのけ君達が選ばれたのが気に入らないらしい。かなり粘着質な性格だ。気を付けてくれたまえ」
そうか。そうだよな。そりゃぽっと出の若造が出世の手段をかっさらっていくんだ。気に食わなくて当然だろう。
直接危害を加えられなければ、いくら憎んでくれても構わないさ。
「ある程度は覚悟していたことです。問題はありません。別にグリフが結婚出来れば爵位を返上したって俺は構わないので」
「それは困る! 止めてくれ! もしそれがカイル殿に知られたら私は破滅だ!」
閣下がアワアワと慌てふためく。あの書状は脅迫文だな……
―――トントン
ドアをノックする音が聞こえた。
『閣下、お時間です』
「そうか、ライト殿。準備はよろしいか?」
俺は黙って頷く。グリフ達の為だ。しっかり爵位を受け取ってこよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます