王都の危機
「むふふ…… もう食べられないよ……」
サクラはどんな夢を見ているのだろう?
未来から来たという私の妹のサクラは私のベッドで涎を垂らして寝ている……
あ、もう枕がびちょびちょだ。後で洗いなさいよ?
幸せそうに眠るサクラの顔を見てみると……
ふふ。やっぱりパパとママによく似てる。
全体の作りはママに似てるけど、目元はパパにそっくりね。この子を見てるとパパとママに会いたくなっちゃう。
私がサクラに出会ってから、もう半年が経つ。
サクラは見分を広げるため、そして私に会うことを目的として異界を旅してきたんだって。
私達は出会い、そしてそのまま一緒に暮らしはじめた。
サクラは私を姉として慕ってくれる。
ふふ、不思議だね。まだ出会って半年なのに小さな頃からサクラを知ってるみたい。
やっぱりサクラがパパとママに似てるからなんだろうな。
サクラは今、私の助手兼荷物持ちとして冒険者の仕事を手伝ってくれている。
Sランクの仕事はかなりの危険が伴う。大型の魔物の討伐だったり、反政府勢力の殲滅だったり……
でもそれはサクラが全部解決してくれた。
この半年、私は一度たりとも剣を振るってはいない。
気付いたらサクラが全部退治してくれていた。
こないだも王都領のシュメンの町で変異種のワーウルフの大群が町に迫っていると報告を受けた。
その報告を聞いて転移門というサクラしか使えない魔法を使い、一瞬でシュメンに辿り着く。
目の前にはワーウルフが迫っていた。
サクラは弓を取り出して、パパが得意としたマナの矢でワーウルフを次々に撃ち抜いていった。
その数は数百を超えていただろう。
変異種のワーウルフの大群だよ!? 一国の軍隊にも相当する戦闘力を誇っているはずなのに……
でもこの子はパパとママの子なんだよね。そう考えると馬鹿みたいに強いのも頷ける。
恐ろしいまでの力…… ふふ、かわいい顔して寝てるこの子がね。
このままサクラの寝顔を見ていたいけど、そろそろ起こさなくちゃね。
「サクラ、起きて。行くわよ」
私はサクラの体を揺さぶると、寝ぼけ眼でサクラが朝の挨拶をする。
「ふぁあ…… おはよ、お姉ちゃん」
「ふふ。サクラはお寝坊さんね。ほら、早く着替えて。ギルドに行くわよ」
サクラが着替え終わると私達は冒険者ギルドに向かう。
サクラは歩きながらオリヴィアおばさんに持たせてもらった大きなおにぎりを齧りながら歩く。
「お姉ちゃん。今日は何をする予定なの?」
「昨日と一緒。はぐれ竜の捜索ね。まずはギルド長に会いに行くわよ。何か新しい情報があればいいんだけど……」
「うぇー。はぐれ竜退治か。ドラゴンを相手にするのはいいけど、探すのがめんどくさいのよね」
今の私に宛がわれた仕事。それは竜の討伐だ。サクラは乗り気じゃないみたいね。
でもそれは身の危険があるからじゃなくて、ただサクラは面倒くさがっているだけ。
サクラの力があれば竜の一匹や二匹、簡単に討伐しちゃうんだろうな……
はぐれ竜は臆病で常に人目を避けるように行動する。
なのに性格は獰猛で、多くの家畜や旅人がその歯牙にかかり命を落としている。
目撃情報はまちまちだけど、かなり大きい竜らしい。
竜の討伐依頼を受けて三ヶ月が経とうとしているのに、私達は未だに手掛かりの一つも得られていない。
「ねぇお姉ちゃん。はぐれ竜ってどこにいるんだろうね」
「それを探すのも私達の仕事よ」
「分かってるよ…… でも当てもなく討伐対象を探すのってすごくめんどくさいよね。そう考えるとやっぱりパパとママってすごいよね……」
「ふふ、そうね。いつ出会えるか分からないのにお互い転生を繰り返したんだよね」
サクラの話によると二人は三万回の転生の後に出会うことが出来たらしい。
もし私が同じ立場だったら…… きっと途中で諦めちゃうだろうね。
そんなことを考えているとギルドに到着する。ギルド長室を訪ねアレクおじさんから新しい情報を聞く。
「ギルド長。おはようございます。はぐれ竜の件ですが……」
「チシャか。まぁ座れ」
私達は部屋の中央にあるソファーに座る。ここに座るのは久しぶり。
小さい頃、時々ギルドに遊びにきた。パパがこの部屋にも連れていってくれたんだよね。
パパはギルド長と楽しそうにお話をしてたけど、私は退屈でこのソファーで寝ちゃったんだ。
ふふ。懐かしい思い出……
サクラと二人で座ってると、ギルド長が紅茶を出してくれた。
「わー! 嬉しいな! ギルド長! このお菓子も食べていいですか!?」
サクラはギルド長の答えを聞く前にテーブルに載っているお菓子を摘まみ始める。
ちょっとは遠慮しなさいよ……
「がはは! 好きなだけ食べろ! 紅茶のお代わりもあるからな」
ギルド長はサクラに甘い。まるで孫を可愛がるおじいちゃんね。
最初サクラをギルド長に紹介した時はすごく驚いてたけど、サクラからパパの話を聞かされるギルド長の顔…… すごく嬉しそうだった。
ふふ。みんなパパとママが生きてるって聞いてすごく喜んでたな。
「それじゃ仕事の話だ。今朝小型の竜が討伐された。恐らくはぐれ竜の子供だろう」
「子供ですか? ちょっとまずいですね」
竜は他の魔物に比べ知能が高い。それがゆえ、二つの可能性が考えられる。
一つは同族が殺されたことで身の危険を感じ、近辺からいなくなること。そうなってくれればいいんだけど。
二つ目の可能性…… それは同族の仇を討ちに来ることだ。
怒りに狂った竜は手が付けられない。
小型の飛竜でも怒りに我を忘れて暴れ回ればAランク冒険者でも手こずることになる。
「ギルド長。周辺の町に警戒をするよう通達を出しておいて下さい」
「分かった。俺達に出来るのはそれくらいだからな。お前達はどうするんだ?」
「引き続きはぐれ竜の捜索にあたります。発見した時は速やかに……」
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
サクラが私の言葉を遮る。どうしたの?
お菓子のお代わりとか言わないでよ?
「むふふ。ちょっといいアイディアがあるんだけど」
「何?」
「このまま闇雲に探したって竜は見つからないよ。少し時間をくれたら竜を見つける魔道具を持ってきてあげる」
ん? そんな魔道具は聞いたことが無い。
魔道具の生産で有名な獣人の国サヴァントでも、そんな都合のいい魔道具なんてあるはずは……
「そんな心配そうな顔しないで。私ね、この世界より魔道具の生産が進んでる世界に行ったことがあるの。そこでその道具を買ってくるから」
「そう…… サクラは異界に渡ることが出来るんだったよね。それじゃお願いしようかな?」
「うん、お願いされちゃって。でもね、多分帰って来るのは一月くらい後になるかも」
「え? すぐに帰って来れるんじゃないの?」
「私ね、繊細な魔力調整は苦手で…… これでもかなり上達したんだけどね。今の私じゃ時間軸を合わせても一月は誤差が出ちゃうのよ」
そうだった……
魔法が苦手なのはパパ譲りだったよね。まぁしょうがないか。
「分かったわ。サクラが帰って来るまで待ってるから。でもなるべく急いでね」
「了解! じゃあ善は急げだね! 転移門!」
ブゥンッ
サクラは転移門を発動する。
テーブルの上にオドの渦が発生し、サクラは中に入っていく。
「じゃあね、お姉ちゃん!」
サクラは元気よく旅立っていった。
ギルド長はあきれ顔で消えゆく転移門を見つめている。
「はは…… さすがはライトとフィオナの娘だな……」
「ふふ、そうですね。じゃあ、サクラも行ってしまったことだし、私は王都周辺の見て回ってきます」
「そうか。さすがにこの近辺に竜が現れることは無いと思うが注意するんだぞ」
「はい。それでは失礼します」
私が部屋から出ようとするとギルド長が話しかけてくる。
「待て。チシャ、お前変わったな」
「変わった? そうですか?」
「あぁ、いい意味でな。サクラと出会う前のお前はいつ死んでもいいって顔をしてたぞ。でも今は違う。まるで昔に戻ったみたいだな。やはりライトが生きてることを知ったからなんだろうな……」
「そうですね。サクラの話だと私が生きているうちに会うことは出来ないかも知れませんが…… 二人が生きていることだけで私は満足です」
嘘をついてしまった。
本当は会いたい。すごく会いたい。二人のことを考えると気が狂ってしまいそうになるほどに。
確かに私は以前より明るくなったと思う。
でも二人と別れた時から私の時計は止まったままなんだ。私が前に進むためには……
「では仕事に戻ります……」
私はギルドを出て王都周辺の捜索を開始する。
それにしても竜か…… 前に体長二十メートルぐらいのドレイクを退治したことがあるけど、かなりてこずったのよね。
それ以上の大きさだったら……
王都周辺には多くの森が繁っている。
もし竜が姿を隠すとしたら森が可能性が高いだろう。王都から一番近い森は北にある。
昔パパとママによく連れてってもらったっけ……
スレイプニルのマーニを走らせること数十分。私は北の森に到着する。
そこには薙ぎ倒された木々が……
え? 倒れた木々の幅は百メートルを遥かに超える……
嘘でしょ……?
「マーニ! 戻るわよ!」
私はマーニを王都に向かわせる!
まずい! あの大きさははぐれ竜じゃない!
昔パパから聞いたことがある。
パパは獣人の国サヴァントにある竜の森で、とても大きな竜を退治したことがあると。
それは森の主で全長は百メートルを超える赤竜だったはず……
恐らく、それと同等の竜が王都に現れたんだ……
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