妹の話
「ふふ、それじゃ最初から全部話すね。落ち着いて聞いてね。私のパパは…… ライト ブライト。ママはフィオナ ブライトだよ」
サクラの言った言葉…… その言葉を聞いて私の頭は真っ白になった。
「…………」
「あ! お姉ちゃん! 帰ってきて! 意識飛んでるよ!?」
サクラが私の頬をパシパシと叩く……
あれ? 私どこかに行ってたみたい……
気を取り直して……
「サ、サクラ…… もう一度言ってくれる?」
「うん。私のパパはライト。ママはフィオナ。以上です」
「詳しく!」
「ちょっ!? パパと同じ反応しないでよ! あはは! 血は繋がってないけど親子なんだね!」
サクラは笑いながら私がかけた手を払い、言葉を続ける。
「えーっとね。先に結論から話すね。パパとママは生きてるよ。だから安心して話を聞いて欲しいの」
「パパとママが!? 本当なの!?」
私はサクラに掴みかかる! 興奮を抑えられない!
しょうがないでしょ!? だって私、二十年も二人を探してきたんだよ!
「だから! 落ち着いてって! パパもママも元気にしてるから! いつもチシャお姉ちゃんのことを話してたよ! だから私、お姉ちゃんに会いたくなって、お姉ちゃんを探す旅に出たのよ!」
あはは…… サクラの言葉を聞いて力が抜ける……
パパとママが生きている……
「う…… ぐす…… うぇぇーん……」
「あはは。お姉ちゃん泣いちゃった。よしよし。血は繋がってないのにお姉ちゃんはパパにそっくりだね。特に泣き虫なところとか」
サクラは私を抱きしめる。サクラからはパパとママの匂いがした……
トントン
「ほら、夜食を作ってきたよ…… ってどうしたんだい!?」
おばさんがサクラの胸で泣く私を見て戸惑っている……
ごめんね、説明しないといけないのに。涙が止められなくて泣くことしか出来ないよ。
「オリヴィアおばさん! ありがとね! そうだ、おばさんも私の話、聞いてく?」
「い、いや今日は遠慮しとくよ。ちょっといいかい」
オリヴィアおばさんは私のところに来て耳元で囁く。
「あの子一体何なんだい? おかしな子には違いないが…… 間違いなく強いよ。恐らくライト以上だ。もし危なくなったら逃げるんだよ……」
おばさんは私に忠告して部屋を出ていった。私は嗚咽を抑えながらサクラを見ると……
「んふふ。美味しー!」
幸せそうにおにぎりを頬張っている。
ふふ…… その顔、パパにそっくり。おばさんはサクラに得体の知れない物を感じたんだろうけど、私には親しみしか感じない。
やっぱりサクラの言ってることは本当なんだろうな。
サクラは用意された食事を食べ終え、満足そうにお茶を飲む。
「ふぁー、美味しかったー。この世界のおばさんも料理の天才だね」
私は既に泣き止んで、少し落ち着くことが出来た。
さぁサクラの話を聞かないと……
「サクラ…… さっきは取り乱してごめんね。で、話の続きなんだけど……」
「うん、どこから聞きたい?」
それはもちろん……
「最初から全部よ」
「いいよ。でも少し長くなるから途中で寝ちゃだめだよ」
「この状況で眠れると思う?」
「あはは。そうだね。それじゃいくよ。この世界ではたしかパパは自分の家でみんなを集めて転移魔法陣に飛び込んだんだよね?」
そう。二十年前、パパはママを助けてくるって言って姿を消した。
そしたら次の日には黒い雪が止んでお日様が顔を出したんだっけ。
「ここまでは良さそうだね。パパが飛び込んだ転移魔法陣。それは一方通行でもう戻ってこられない世界に辿り着く魔法陣だったの。
そこは約束の地って言ってね。パパは本当はそこで世界を管理しなくちゃいけない運命だったんだよ」
「管理って?」
「それはよく分からないけど…… でも約束の地で世界を管理するってことはママのことを諦めなくちゃいけないってことなの。パパはママも、お姉ちゃんも、友達も、世界も全部救いたくなったみたい。ふふ、パパったら欲張りだよね」
えーっと……
ここまででも少し話についていけない。でも続きを聞かなくちゃ……
「じゃあ次ね。パパは世界を救った後、なぜか他の世界で生まれ変わっちゃってね。それを転生っていうんだけど、不思議なことに同じ人生を歩き続けることになったって言ってた。パパはそれを因果律って言ってたかな?」
「同じ運命? それってどういうこと?」
「言葉の通りだよ。パパは辛い思い出だからって、あんまり話してくれなかったけど……
でも転生を繰り返せばママに会えることを信じて何回も転生を繰り返したんだって」
「転生を? それってもしかして…… 何回かママに聞いたことがあるの。この世界は三千世界っていう世界で作られてるって。つまりパパは転生を繰り返すことで世界を渡り歩いてたってこと?」
「正解! さすがはお姉ちゃん! 理解が早い! パパもママも頑張ったんだよ。出会うまでに三万回も転生したんだって。ママの場合は転移かな?
でも二人が生きてきた時間は同じだね。パパはママに出会うまでに七十五万年もかかったんだって。すごいよね」
「あはは…… 話が大きすぎて理解が…… でもとりあえず二人は元気なのよね?」
「うん、すごく元気。もう元気過ぎて困っちゃうよ…… 思春期の娘がいるのにさ。ちょっとは気を使って欲しいわよ……」
「あ…… もしかしてそれって……」
「うん。想像の通り…… 仲がいいのはいいことだけどさ…… ママったら声が大き過ぎるのよ……」
サクラが顔を赤らめてる。
あはは…… パパったら変わらないね。
思い出すな。私もヤルタの町で宿に泊まってる時に二人が仲良くしてるところの声を聞いちゃったんだよね。
当時は何をしてたのか分からなかったけど……
「あははは! パパったら! 仲良しが過ぎるのも変わらない! サクラ! 私も二人の声を聞いたことがあるのよ!」
「ほんとに!? パパとママったら、私だけじゃなくてチシャお姉ちゃんにも迷惑をかけて…… お姉ちゃん! 今度二人に会ったら怒っていいからね!」
「ふふ、会えたらね。そういえばサクラはどうやってこの世界へ? パパとママは来ることは出来ないの?」
「えーっとね、これって私にしか出来ない力でね…… 異界に任意で転移するのは今のパパとママでは無理なの。私なら出来なくはないけど…… 他の人と一緒に転移すると狙った場所と時代には転移出来ないの。
繊細な魔力行使が苦手なのが原因なのかなぁ…… ごめんね。だからお姉ちゃんをパパ達の所には連れていけないかもしれないの」
「そう…… じゃあパパとママには会えないんだね」
「お姉ちゃん、そんな顔しないでよ…… あ! 忘れてた! お姉ちゃんに渡すものがあったんだ!」
サクラはバックから包みを取り出した。それを私に渡してくれる。
包みを外すと……
「これはダガー? どこかで見たことがある…… これって!?」
「ふふ、パパからの贈り物だよ。ヒヒイロカネ製の最上級品。これ以上のダガーはどの世界にも無かったよ」
この形、パパが使っていたものと同じだ。
私のダガーもヒヒイロカネ製だけど、練習用のものに刃入れをしたものだ。攻撃力はこちらのほうが確実に上だろうな。
「パパがこれを私に……」
「それとね、言付けがあるの。パパは言ってたよ。必ず会いに行くって」
「パパ……」
その言葉を聞いて私の目から再び涙が溢れ出した……
「あはは。ごめんね、また泣かせちゃった。大丈夫だよ。パパは努力家だから絶対にお姉ちゃんに会いに来る。今頃転移門の練習をしてる頃じゃないのかな?」
「パパ…… ママ…… 会いたいよ……」
「よしよし。妹の胸でお泣きなさい。でもパパを信じてあげてね。パパは必ずお姉ちゃんに会いにくるから、もう少し時間をあげてね。大丈夫だよ。パパに不可能の文字は無いんだから」
「ぐす…… そうだね。パパは昔からすごかった…… 分かったよ。パパを信じて待ってるね」
「そうそう。あ、そうだ! お姉ちゃんもパパに会ったら加護をつけてもらいなよ! 何か新しい力を貰えるかもしれないよ!」
「ん? 加護? 何のこと?」
「あぁ言ってなかったね。パパはね、私の世界では神様をしてるんだよ。管理者の指示で人々に加護だったり祝福を与える存在なのよ」
「え? パパが神様? あはは…… もう何でも信じるわよ……」
パパが神様か……
もう何でも来なさいよ……
私はパパとママの話を聞き続けた。
東の空が少し白く色付く頃、サクラが船を漕ぎだす。
「お、お姉ちゃん…… そろそろ寝ない……?」
「もう寝るの!? まだ聞きたいことがあるのに! 根性出しなさい! 人間、二日三日寝なくても死なないわよ!」
「ご、ごめん。もう無理…… 続きは少し…… 寝た後でね……」
サクラはそう言ってベッドに倒れ込む。もう、もっと話を聞きたいのに。
ふふ、まぁいいか。
私はサクラに毛布を掛ける。
そしてサクラの隣に横になって彼女を抱きしめた。
サクラからは…… ふふ…… やっぱりパパとママの匂いがする。
私はサクラを抱き枕にして眠りにつく……
でも起きたら丸二日も質問攻めだったよね
ふふ、懐かしい思い出よね
私は辛かったんだけど……
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