1746回目の転移

 私はフィオナ。そして凪であり、フィーネでもある。


 そう自分に問いただします。

 よし、今回も記憶の消失はないみたいです。


 私は1745回目の転移を終え、新しい世界にやってきました。

 転移の度に記憶を奪うという光の中を通るので、毎回怖い想いをしています。


 その光…… どうやらアカシックレコードと呼ばれているもののようです。

 それ自体を神とあがめる世界に転移した時にその存在を知りました。

 記憶層とも呼ばれ、原初からの記憶の全てがあの光の中に記録されています。


 トラベラーが異界に転移する度に記憶を失う理由。あの光が原因だったのですね。

 だけど、どういう訳か私は記憶を保ったまま転移を繰り返しています。

 そしていつものようにオドを探る……


 愛しい人…… ライトさんのオドを……


 目を閉じて、その時を待ちます。

 時が経ち、胸に温かい火が灯りました。

 いつも通りの優しい火。 


 やっぱり……


 ライトさんは今、この瞬間に産まれました。


 未だに答えは分かりません。

 私が転移してすぐにライトさんはどこかの世界に誕生して、その二十五年後に死を迎えます。

 そして…… 再び産まれるのです。


 私は一回目の転移の時、ライトさんが遠いどこかで死を迎えるのを感じました。

 悲しみが私の胸を支配します。


 もう死にたい…… ふふ。死ぬことなんて出来ないのに。

 でも私は意識することなく、短刀を手に取り、己が喉を突いてしまいます。


 これでライトさんのそばに行けるかな……?


 分かっていたことですが、その期待は裏切られます。

 新しい世界に転移するだけでした。そこでライトさんが再び生を授かったことを知ったのです。


 一つの仮説を思いつきました……


 何らかの理由でライトさんは【転生】しています。

 そして二十五年という時間を経て死を迎え、再びどこかで生を授かるのです。


 つまりライトさんが死を迎えた瞬間に転移を行えば、そのうちライトさんに会えるかもしれない……


 その想いを胸に私は無限とも思える世界を旅し続けています。


 どうやらライトさんの死と同時に転移することが大事だということも知りました。


 ライトさんの転生に気付いた私は、すぐに転移を試しました。だけど……

 転移した先ではライトさんを遠くに感じたのです。何となくですが時間軸がずれてる。そう感じたんです。


 ライトさんと同時期に生き、そして転生する同時刻に転移する。

 こうすることで、私達が生きる時間軸は保たれるのです。


 ライトさんと会えなくても、私は二十五年間を愛する人がいない世界で耐え抜いていかなければいけない。


 辛い…… ライトさん、会いたいです……


 でも……


 私には分かります。

 ライトさんは私を探してくれています。

 ライトさんも辛い想いをしているはず。

 見つけてあげなくちゃ。


 私は強くなる。

 このまま泣いて過ごすだけではライトさんに出会えた時にがっかりされてしまうかもしれません。


 私は記憶を保ったまま、1745回の転移を行いました。

 その中で多くを学んできました。

 剣術、武術は言うに及ばず、更にイレギュラーと呼ばれる世界で特殊な魔法を学ぶことが出来たのです。


 今の私は五重詠唱が使えます。

 口頭で行う二重詠唱で二つ、並列思考で一つ、両手で魔法陣を宙に描きそれを放つことで二つ。

 同時に五つの魔法を放つことが出来ます。


 他にも魔術師として有用な技術を覚えました。オドの内包量を増やす技術です。

 体内に存在するオドは上限は決まっています。

 それを一度圧縮し、丹田に保管します。そのオドを使用する際は解凍を行うのです。


 この技術を覚えてから、私は魔力枯渇からは無縁になりました。


「行かなくちゃ」


 その前に……


 魔法陣を描き、使い魔を呼び出します。

 召喚魔術も覚えました。


 八つの翼を持った燕が私の周りを楽しそうに飛び回っています。


「いつも通りです。この地に産まれた契約者を探してきてください」

『ピチチ。ピチチ』


 私の命令を聞いた燕は、その場から猛スピードで飛び去って行きます。


 ふふ。頼みましたよ。


 こうして私は再びライトさんを探す旅に出ます。


 いつの日か、きっと会える……


 そう信じて、私の三千世界を巡る旅は続くのです。

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