因果律をぶっ壊す 其の二

 スタンピードが起こる日。俺は代行者アモンと対峙している。

 俺を縛る因果律により転生の度、代行者に家族を殺されることになるのだが…… 


 しかし、この世界は何かが違った。

 不思議な世界だ。俺に関わる全ての人が最初の世界のそれと寸分違わぬ姿をしてはいるが、今までの因果律とは違う人生を辿っているのだ。


 もしかしたら…… 俺は一つの可能性にかけてみることにした。

 アモンに向かい声をかける。いや、アモンではないな。こいつの目を通して俺を見ている管理者に対してだ。


「アーニャ! 話をしてもいいか!?」


 アーニャ…… 恐らくはこの世界を約束の地で管理している女性、俺が最初に倒した管理者だ。


『なぜその名前を……? 貴方は一体?』


 よし、乗ってきたな。ここからが本番だ。


「俺の名はライト。次の管理者になる者だ。お前が何者でこれから何をするかも全て知っている。だから……」

『だから……?』


 そう、俺がこいつに言おうとしていること。それは……


「五年でいい。しばらく大人しくしていてくれないか?」

『…………』


 アモンはポカーンとした表情で俺を見つめる。

 そして怒りでその顔を歪めた。


『貴方…… 何を言ってるの!? そんなこと聞ける訳ないじゃない! 貴方は私のことを知ってるみたいね。それなら私の目的も知ってるはず』


 代行者の目的。それは契約者に憎しみを与え、それを以って契約者を約束の地に誘うことだ。


「ああ、知ってるよ。お前の目的は俺を約束の地に連れていくこと。でもさ、五年後必ず俺が約束の地に行くとしたら? ここで俺に憎しみを与える必要も無いんじゃないか?」

『その約束を必ず守るという保証は無い。悪いけど信じられないわ』


 そう言ってアモンは殺気を放ち俺に近付いてくる。

 じゃあ次の言葉をかけるか。


「待て、どうせ時が来れば黒い雪を降らせるんだろ? そうなったら俺に残されてる選択肢は約束の地に行くことだけだ。どうだ? これなら納得してくれるんじゃないか?」

『…………』


 アモンの動きが止まる。

 不思議そうに俺の顔を見ているな。


『貴方、そんなことまで知ってるのね…… 本当に何者なの?』


 こいつを信じさせるためだ。全て正直に話そう。


 俺は今までのことをアモンに話すことにした。



◇◆◇



『そんな…… 転生者が存在するなんて……』


 アモンは俺の話を聞いて驚きを隠せないようだ。


「でも今までの話を聞いてたら辻褄があうだろ? 俺は必ず約束の地に行く。必ずだ。だから村を襲うのは止めてくれないか?」


 アモンは少し考えているようだ。そして口を開く。


『話は分かったわ。でもね、私の役目は貴方を約束の地に誘うこと以外にもあるの。貴方を強くしないと。これから無限とも思える時を一人で過ごさなくちゃいけないのよ。心も体もそれに耐えられるほど強くする必要がある』


 強さか。まぁそれなら自信がある。

 でもこいつを納得させるには俺の強さを見せつける必要があるか。


「なぁ、アーニャ。よかったら手合わせしないか?」

『え? 何を言って…… ふふ、なるほどね』


 俺がやろうとしていることが分かったみたいだ。

 アモンは構えを取る。徒手空拳での手合わせだ。

 これでアモンに勝てば…… アーニャは俺の言うことを聞いてくれるかもしれない。



 ―――スッ



 俺はアモンの前に右手を差し出す。

 アモンも同じように右手を出しお互いの甲を付ける。

 対手だ。力を図るにはこれが一番手っ取り早い。


 だが油断は大敵。一応アモンのステータスを確認しておこう。

 目にマナを込めて分析を発動。



名前:アモン

種族:亜神

年齢:???

レベル:999

HP:99999 MP:99999 STR:99999 INT:99999

能力:体術10 魔術10

特殊1:超級魔法 神級魔法 

特殊2:呪詛 

付与効果:管理者の息吹



 ほう。強いな。だが想定内。

 俺も自分のステータスを見ておくか。MPとINTは継続しているようだが、HPとSTRは一からやり直しだからな。どれどれ?



名前:ライト

種族:人族

年齢:20

レベル:306

HP:33069 MP:1+8E 

STR:38750 INT:1+8E

能力:双剣術10 弓術10 体術10 身体強化術10 魔術10 

特殊1:マナの剣 マナの矢 

特殊2:千里眼 魔眼 理合い 分析

特殊3:混成魔法 超級魔法 神級魔法(黒洞)

特殊4:時空魔法 空間魔法 並列思考 異界の知識

付与効果:地母神の加護 地母神の祝福



 相変わらずとんでもないことになってるな。久々に自分のステータスを見たわ。

 さて戦いの時だな。


 アモンの右手が俺の手の甲に触れる。


 俺達はそのまま動かない。


 静かに時が流れる……



 ―――ピクッ



 僅かにアモンの右手に力が入る。


 この力の流れは…… 

 はは、そのまま右手を滑らせて喉を狙う気だな。殺す気まんまんじゃないか。


 でもそうはさせない。俺は喉に貫手が刺さる瞬間、力を上方へと逃がす。

 このまま投げにいってもいいのだが、それでは戦いが長引いてしまうだろう。


 一撃だ。


 一撃で決める。


 力が上へと逸れたのを確認した俺が狙う攻撃は…… 



 ドスゥッ!



 肩口をアモンの胸に叩きこむ! 


『くぁっ!』


 この技は相手の力が強ければ強いほど威力を増す。

 アモンは俺を殺すつもりで攻撃してきたのだろう。

 その力が何倍にもなって自身を襲う……


 アモンは大きく吹っ飛んでいった。


 並大抵の相手ならこれで絶命するところだろう。

 だが相手は代行者。バケモノだ。

 ダメージは負っているもののフラフラと立ち上がり再び俺と対峙する。


「まだやるの?」

『…………』


 俺の問いかけにアモンは殺気を以って応える。

 しょうがない…… もう一つの技をお見せしよう。


 この技はホムンクルスを作った世界で知った。バラケルススが研究の合間で俺に教えてくれたのだ。

 彼は知恵の探究者としてだけではなく武人としても一流だった。


 俺とアモンは再び対手の構えを取る。今度は俺からだ。


 手の甲が触れる。


 狙うは甲の触れたアモンの右手。


 全身の力を抜く。


 俺はイメージの中で流体になる……


 流体になった俺は踵から足首、足首から膝、膝から腿…… 


 体の至る所を使い速さを甲へと伝達させる。


 速さが甲に達した時……


 全身の関節を硬直させる!



 バスンッ!



 力の塊が俺の右手から発せられる! 

 その一撃を喰らい、アモンの右手は肩口から吹っ飛んでいった。


 アモンは何が起こったのか理解出来ないように無くなった右手を見つめている。


「もういいかな?」


 俺の問いかけに我に返ったように言葉を発する。


『何なの、この力は……? 私が手も足も出ないなんて……』


 はは、そりゃ三万回も転生して強くなったからね。

 俺が本気で戦えばアモンは塵一つ残さずにこの世から消え去るだろう。

 でも俺の目的はそれじゃない。


「じゃあ俺の勝ちってことでいいよね?」

『う…… うん…… この力があれば管理者として問題無いはず……』


「そうか、それじゃ俺の言うことを聞いてくれるよね?」

『…………』


 アモン、いやアーニャは黙って頷いた。


「ありがと…… ならこのまま帰ってもらえるか? 俺がお前のところに行くのは五年後。約束する。その時が来たらアーニャを解放してあげるから。それまで我慢しててな」

『ふふ…… 不思議な人ね。普通は管理者の役目を知っていたら逃げ出すはずなのに。分かったわ。約束通り五年待ってあげる。でも黒い雪が降ったら必ず来てよ……』


 アモンはそう言って転移魔方陣を作り出す。

 帰ってくれるのか。

 安心したところでアモン……いや、アーニャが話しかけてきた。


『ねぇ、最後に一つ聞かせて。貴方は辛い想いをしながらも三万回以上転生を繰り返してきた。普通では耐えられないわ。どうして? なぜそんなにも転生を繰り返してきたの?』


 なぜだって? そんなの決まってる。


「またフィオナに出会うためさ」


 それが俺の生きる理由だ。それ以外の答えなど無いさ。


『え? 一人の女の人に会うためだけに? それが理由なの?』

「そういうことだ」


 その答えを聞いてアーニャは笑う。

 そして転移魔方陣の上に立ち……


『ふふ、貴方なら世界を任せられそう…… じゃあね、ライト。また会いましょう……』

「あぁ。またな……」


 魔方陣が起動し、アーニャは消えた。


 アモン……代行者が去った……


 は…… ははは…… 


 やった…… やったぞ! これで村のみんなは生き残る! 

 やった! 俺は因果律をぶっ壊したんだ! 


 俺は瞬間移動を発動し村へと戻る! そこには……


 いつも通り平穏な村の風景が広がる。


 鍛冶屋のバートンさんが忙しそうに鉄を打っている。


 シスターが子供達の手を引いてお散歩をしている。


 幼馴染のクロンが彼女を連れてデートをしている。


 父さんが忙しそうに村の中を走り回ってる。はは、村長だから大変だ。


 そして母さんが……


「あら? ライト、もう帰ったの? 今日は狩りに行くんじゃなかったの?」


 母さん…… よかった…… 生きていてくれた…… 

 俺は母さんを抱きしめる。


「ちょっと!? ライト、どうしたの!?」

「う…… ぐす…… 母さん…… 生きていてくれて…… ありがと……」


「え? あはは、変な子ね。母さんはそう簡単には死なないわよ! まだライトのお嫁さんも見てないしね! ほら、今日はもう遅いから帰りましょ!」


 母さんは泣きじゃくる俺を連れて家に帰っていった。


 こうして俺を縛る因果律は三万回を超えた転生の後、終わりを告げることになった。


 そして数日後……


 彼女が現れることになるなんてね。














 この時は予想もしてなかったよね


 そうですね 私も驚きました 


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