何もない休日 其の一

 夏のとある日。私とライトさんは貯まりに貯まった有休を消化すべく一週間の休暇を取ることになりました。


 久しぶりに家族で旅行に行こうとしたのですが……


「パパー、ママー、いってらっしゃーい」

「ふふ、行ってきます。でもサクラは本当に行かないんですか?」


「そりゃ行きたいけどさ…… でも私も今日から遊びに行くの。エリナさんがアヴァリに帰ってくるの。グリフィンに乗せてもらう約束をしてるんだよ」

「グリフィンですか…… たしかに魅力的ですね。しょうがありませんね。サクラ、ちゃんとエリナさんの言うことを聞くんですよ」


「うん!」


「夜は八時に寝るんですよ」


「早くない?」


「歯を磨くんですよ」


「分かってるよ」


「寝る前にトイレに……」


「うるさいよ! 早く行って!」


 怒られてしまいました……


 サクラに見送られ出発することに。

 でも目的地は決まっていません。どこに行きましょうか……


「ライトさんは行きたいところありますか?」

「俺? んー、そうだ! よかったら海に行かないか?」


 海! 懐かしいですね。

 最初の世界では私とライトさん、そしてチシャの三人で海に行ったことがあります。


 カイルさんの別荘に泊まりましたね。

 美味しいお魚をいっぱい食べて……


「いい考えです! 私も海に行きたいです!」

「ははは、いいよ。それじゃ水着を買いにいかないとな」

 

 そうだ。私達、この世界では水着を持っていないんです。唯一水着を持っていたのって、ライトさんに最初に出会った世界だけですから。


 水着か…… どこに売っているのでしょう?


「取り合えず王都にでも行ってみようか。ミルキさんの店なら水着も取り扱ってるんじゃないの?」

「そうですね。では早速……」


 私はライトさんの手を取ってからオドを練ります。


 目を閉じてイメージする……


 心の中でこの場所とミルキさんの店を繋ぎ合わせて……



 ―――シュンッ



 ん…… 目を開けると、目の前にはミルキさんの店があります。


「さすがフィオナ。瞬間移動もお手の物だね」


 ライトさんが誉めてくれました。

 んふふ、もっと誉めてもいいんですよ。


 二人でミルキさんの店に入ります。ここに来るのは久しぶり…… 

 店の中は大勢のお客さんで溢れかえっていました。


「いらっしゃいませ。今日はどんな服をお探し…… あれ? フィオナちゃんじゃないの!」


 声をかけてきたのはミルキさんでした。会うのはすごく久しぶりです。

 この人には色々と良くしてもらいました。

 叙爵式のドレスや私の花嫁衣装を作ってくれたり、時にはただで服をくれることもありました。


「ミルキさん、お久しぶりです!」

「本当に久しぶりね。でもフィオナちゃん…… あなた全然変わってないわね。あ、そうか。フィオナちゃんはトラベラーだったもんね。忘れてたわ」


 そう、ミルキさんは私が異種族であることを知っています。

 ミルキさんだけではなく、ある程度親しい人には私の素性を話すことにしたのです。


「それで今日は服を見にきたの?」

「はい! でも服じゃなくて水着なんですけど…… 取り扱ってますか?」


 ミルキさんは私を見て、ちょっと悪そうな笑みを浮かべます。私の手を取って……


「お薦めの商品があるわ! ちょっとこっち来て!」

「ミルキさん? って、わわっ」


 ミルキさんは私を更衣室に連れていきます。


「ちょっと待ってて! 水着を持ってきてあげるから!」


 そう言ってミルキさんは出ていきました。

 でもよかった。ここでも水着を取り扱っているんですね。

 この店にある服はみんなかわいいものばかりです。

 きっと素敵な水着があるのでしょう。


 少し更衣室で待っているとミルキさんは水着を持って帰ってきました。


「これよ! 是非着てみてちょうだい!」


 手渡された水着を見てみると…… 

 すごいデザインですね。ほとんど裸です。

 これ、ほんとに着るんですか?


「大丈夫よ! きっと似合うから! ふふ、これでライトさんもイチコロよ!」


 着るのは恥ずかしいけど、ライトさんが気に入ってくれるなら…… 

 ちょっと見てもらいたいかも。


 私は勇気を出して、この水着を着ることに。



 パサッ スルッ



 水着に着替え、更衣室に備え付けられている全身鏡に映る自分を見ます。

 すごい恰好ですね。お尻は丸見え、胸も谷間がくっきりです。

 これを着て人前に出るなんて……


「フィオナちゃん、綺麗よ…… ごめんね! そのままこっちに来てちょうだい!」


 わわっ!? ミルキさんは私の手を引いて売り場に向かう! 恥ずかしいです! 

 お店にいるお客さんの視線が私に刺さります! 

 ミルキさんはお客さんに向かって……


「皆様! いかがでしょうか! こちら、夏の一押し商品となります! 生地はモスマンの繭からとった絹糸を使用! 最高の肌触りです! デザインしたのは新進気鋭のソーニャ オベンハイマー! 値段もお手頃、三十万オレンとなっております!

 これを着て、意中の殿方を悩殺してみてはいかがでしょうか!? 在庫には限りがあります! お求めはお早めに!」


 その言葉をきっかけにお客さんが従業員に詰め寄っていく!


「あの水着をちょうだい!」

「私が先よ!」

「彼女にあの水着を着せるんだ! そして…… むふふ……」


 なんだか変な人が混じってるような気もしますが、売り場は私の着ている水着を求めてごった返しています。

 ふふ、またミルキさんの作戦勝ちですね。


「フィオナ……」


 あれ? ライトさんが恥ずかしそうな顔をして話しかけてきました。

 私も少し恥ずかしいです。ちょっと顔が熱くなる。  

 で、でも勇気を出して……


「ど、どうですか? 似合いますか?」

「…………」


 ライトさんは黙ったまま私の手を取って……



 ―――シュオンッ



 わわ!? 目の前が閃光に包まれます!

 これは…… 瞬間移動? 


 ゆっくり目を開けると…… 

 ここは私の家です。王都にある私達の家。


「ど、どうしたんですか? 何で私達の家に…… って、きゃあん!」

「フィオナー!」


 ライトさんに抱きしめられキスをされました!? そのまま寝室に連れていかれます!



 ドサッ



 私をベッドに押し倒すライトさんの目…… 血走ってます……


「ラ、ライトさ……んー!?」


 再びキスをされて、そのまま……













 

「もう…… いきなり過ぎですぅ……」

「ごめんな、でもその水着は反則だよ」


 ライトさんに求められてしまいました。

 窓を見ると夕日が差し込んでいます。


「んふふ、もうこんな時間ですね」

「すまん…… どうする? 今から海に行くか?」


「ううん…… 今日はこのままここで過ごしましょ」

「そうだな。海には明日行けばいいか。休暇はまだあるしな。それじゃフィオナ……」


 ライトさんは私を抱きしめます。

 キスをして耳を噛まれました。


 んふふ。ライトさんのエッチ。


 今日は二人きりで王都の家で過ごすことにしました。



 ライトさん、明日はいっぱい海を楽しみましょうね。


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