家族の時間 其の二
「ん…… ふぁあ…… おはよパパ」
「はいよ」
サクラは眠そうに目を擦る。ほら、シャキッとして。
お茶を飲ませると完全に目が覚めたみたいだ。
さぁ、今度は俺の出番だな。
「サクラ、今度はパパと遊ぼうか」
「うん! なにをするの!?」
サクラは乗り気だ。
手加減はするつもりだが、これから組手なんかをしてみようと思うのだ。
俺は地面に円を描き、その中に入る。
「おいで、今からお相撲をしよう!」
相撲とは言ったが、これでサクラの実力を測りたい。
以前、未来のサクラと戦ったことがあるが、その時は辛くも勝利出来た。ギリギリの戦いだった。
あの時は地力だけだったらサクラの方が上だっただろうな。
サクラも円の中に入る。俺は構えてから……
「来い! 全力で受け止める!」
「うん! いっくよー!」
ドヒュンッ!
そう言ってサクラは突っ込んでくる! 単純なタックルだがものすごく速い!
身体強化術でも使ってんのか!?
ドスゥッ! ズズズズッ
弾丸となったサクラを受け止める! うお!? 円の端まで押し出されてしまった!
危なかった…… いきなり負けるところだったよ。
サクラは楽しそうに俺を見上げて……
「わー、パパつよーい。もう一回やってもいい?」
「おう! いいぞ!」
サクラは満面の笑みを浮かべ距離を取る。そして再び俺に突っ込んできた。
うーむ。このまま受け止めるのもなぁ……
そうだ、理合いを使おう。
怪我をさせないように……
受け流す力は最小限……
サクラの体が俺に触れた瞬間、力を地面に向けて受け流す。
クルンッ コロリン
サクラは可愛く一回転。でんぐり返しする感じで地面に転がった。
何が起こったか分からないような表情を浮かべている。
「サクラ、お相撲をする時は力に頼ってはだめだよ。どう力を受け流すかも考えるんだ」
「よく分かんないけど…… でもパパすごい! 私もやってみたい!」
ははは、さすがに五歳のサクラに理合いは無理だろ……なんて思っていた時もありました……
一回だ。ただ一回説明しただけなのに、サクラは理合いを習得しやがった。
俺の手を掴んだと思ったら、まさか俺の体が宙を舞うことになろうとは……
俺は予想外のことに受け身を取ることも出来ず、地面に叩きつけられる。
ドスンッ!
「ぐはぁ!?」
「やったー! パパに勝っちゃったー!」
俺はまともに息をすることも出来ずに思う……
この子何なの……? 我が子ながら恐ろしい……
その後も対手だったり、武器の使い方なんかも教えたのだが、サクラは乾いた地面に水が吸われるが如く、全てを習得していった。
フィオナが驚愕の表情で俺達を見ている。
「サクラはどちらかと言ったら武術の才能があるみたいですね。ライトさんに似たのかな?」
最後に弓を持たせてみたのだが、これはやはりと言ったところ。
マナの矢を作り出した。
「パパー。矢が出てきたよー」
嬉しそうに言ってくるのだが、この矢には苦しめられたんだよな。
俺は魔法の練習で使った的を地面に立てる。
「サクラ、あの的に向かってその矢を放ってごらん」
「うん! それー!」
サクラは弓を引き絞り放つ……のだが、矢は大きく的を逸れて飛んでいく。
だが矢は軌道を変えて的の中央に突き刺さった。
そして的はシュワシュワと音を立てて腐っていく……
フィオナは的を見て更に驚いている。
「これは……? サクラ、もう一度矢を作ってみて」
「うん!」
フィオナはサクラの矢を受け取る。
目にオドが集中しているのが分かる。分析だな。
「これは…… この属性は状態異常ですね。毒にスロウ、封魔にスタン、呪いなんかもある…… サクラ、私達の許可なくこの矢を使っちゃ駄目ですよ」
「なんでー?」
「危ないからです! 他の人に当ったらどうするんですか! 分かりましたか!?」
サクラがちょっと悲しそうな顔をしている。
なんでもかんでも駄目ではサクラが可哀そうになってきた。
「もう暗くなってきましたね…… 今日はもうお終いにしましょう。サクラ、ライトさん、帰りますよ」
もう夕方か。何気に時間が経ってしまったな。
俺達は家に帰ることにした。行きと同様にサクラが転移門を開いていたが、歩いて帰ることにした。
夕食を終え、サクラが一足先に眠りに着く。
俺とフィオナは二人でサクラの今後について話し合うことにした。
「これからどうしようか?」
「そうですね…… あの子が持つ力は強すぎます。もしそれが原因で周りの子に怪我でもさせたら……」
後悔先に立たずか…… 俺がうかつに加護なんか与えてしまったがためにサクラは普通の子として生活が出来ないかもしれない。
俺達がサクラの将来を心配していたところ、母さんがそんな俺達を見て声をかけてきた。
「ライト、そんな悩むことはないのよ。サクラちゃんはとってもいい子よ。あなた達が仕事に行ってる時もお友達といっぱい遊んでるのよ」
ん!? それってヤバくないか!?
「母さん! そんなことして大丈夫なの!? 他の子に怪我とかさせなかった!?」
「あはは。心配し過ぎよ。子供ってのは私達が思ってるよりも賢いの。あれぐらいの年は少し放っておくぐらいがちょうどいいのよ。
子供は伸び伸び育てればいいの。子供の将来を心配するのは親の仕事だけど、もしサクラちゃんが迷った時に導いてあげるぐらいがちょうどいいのよ」
たしかに…… 俺はそうやって育てられたもんな。それにどの世界の両親も俺のしたいようにさせてくれた。
悪いことをしたら怒られたけどね。
フィオナは母さんを尊敬の眼差しで見ている。
「お義母さん…… ありがとうございます。私もサクラのことが心配で視野が狭くなっていたみたいです。それにサクラがお友達を作って遊んでいたことも知りませんでした……
母親なのに、サクラのことは何も分かってなかったんですね……」
ちょっとシュンとしてる。
そんなことないよ。フィオナはよくやっている。
俺以上にサクラのことを見てくれているんだ。むしろ親として何も分かってないのは俺の方だよ。
「だからサクラちゃんの心配はいらないわ。あの子は真っ直ぐに育ちます。ふふ、ライトを育ててきた私が言うんだから間違いないわよ!」
「ふふ…… そうですね。お義母さん、ありがとうございます」
こうしてサクラのことはあまり悩まず、したいことをやらせるよう伸び伸び育てることにした。
更に五年が経ち、サクラは十歳になる。
俺達は相も変わらずギルド職員として働いている。
俺はその傍ら、神様としての仕事もこなしていた。
今日は日光日なので仕事はお休みだ。
午前中に遊びに出かけていたサクラが泥んこまみれになって帰ってきた。
「パパー! ただいま! お腹減ったー!」
「お帰り! っていうかなんだその格好は! ママに怒られるぞ! 早くお風呂入って! ちゃんと着替えてこいよ!」
サクラはお風呂に駆け込んだが、戻ってくるとまた汚れた服を着ていた。
「着替えないのか?」
「この格好でいいの! また川に行って遊ぶんだもん! どうせまた汚れるんだからこのままでいいでしょ!?」
「川遊びか…… あんまり深いところにいっちゃ駄目だぞ! ほら、しっかり食べて!」
「わー! おにぎりだ! これ大好き!」
俺が作ったおにぎりを美味しそうに頬張る。
はは、わんぱくだな。まるで男の子だ。
大きなおにぎりを三つ完食したらサクラは家を飛び出す。
「じゃあね! 行ってきます!」
「おう! お土産に魚なんか期待してるぞ!」
「うん! 分かった! じゃあね、パパ!」
そう言ってサクラは再び遊びに行ってしまった。
サクラの座った椅子にびっしりと泥がこびりついている。まったくもう……
バタンッ
おや? ドアが開く音が聞こえる。なんだ、忘れ物かな?
いや、フィオナだ。買い物から帰ってきたな。
「ただいま…… ってなんでこんな泥だらけなんですか?」
はは、一応言っておくか。
サクラはいつもやんちゃしてはママに怒られている。
それを見るのはとても楽しいので俺はあえてフィオナに報告しているのだ。
「もうあの子ったら! 勉強もしないで遊んでばかり! お洗濯だって大変なのに服を汚して! ライトさんも何か言ってあげてください!」
「まぁまぁ。サクラも楽しそうだったしさ。いいじゃないの」
フィオナは姿は出会った頃と変わらないがすっかり中身はお母さんだ。こういった変化はとても嬉しいものだ。
「もう…… サクラには甘いんですから」
「はは、ごめんね。今日は何買ってきたの?」
「カレーの材料です。一緒に料理しますか?」
「喜んで、奥様」
二人で夕食の支度にかかる。
こうして幸せな家族の時間が過ぎていった。
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