家族の時間 其の一

 今日は日光日。完全オフの日だ。

 俺達親子は朝ごはんを食べた後、村の外れにある広場に出かけることにした。


 サクラはピクニックだとはしゃいでいたが、ちょっと違うんだよね。


「パパー! 早く行こうよ!」


 サクラに急かされて家を出ると……



 ―――ゴゴゴゴゴッ



 外には既に転移門が音を立て渦を巻いていた。サクラの魔法だな。


「えへへ! すごいでしょ! このグルグルに入ればすぐに広場に着くよ!」


 いや、すごいのは認めるけどだな。

 フィオナがサクラに諭すように話しかける。


「サクラ、広場には歩いて行きます。それと魔法を使う時は必ずパパかママに一言言ってから使うこと。分かりましたか?」


 サクラはなんだかよく分からないって顔をしている。

 やっぱり危ないな。こんな幼い時分から超級魔法だったり、転移門を使いこなすのは。

 万が一、誤爆でもした日にには誰かしら死ぬことになるだろう。


 今日はただのピクニックではない。

 サクラに魔法の練習をさせるためにこの日を企画したのだ。


 転移門を使わずに移動を開始する。

 十分もするとサクラは疲れたのか俺に抱っこを求めてきた。


「サクラ、ちゃんと歩きなさい」

「ふぇーん……」


 ママは厳しい…… 

 だが俺はサクラのウルウルした眼差しに負けて抱っこしてしまった。


「もうライトさんったら…… サクラに甘いんですから」

「そう言うなよ。こうして甘えてくれるのも今のうちだけなんだから」

「きゃー、たかーい。パパー、今度はかたぐるまー」


 俺はサクラを肩に乗せて目的地の広場に向かう。


 広場に到着すると他には誰もいなかった。

 実は父さん達に頼み込んで広場を貸切にしてもらったのだ。


 だって今から魔法の練習をするわけだしね。

 誰かがいたらサクラが怪我をさせてしまうかもしれん。


 サクラは広場を駆け回るのだが、今日は遊びではないのだ。

 フィオナが広場の中央に棒を一本立て、先端に的を付ける。

 サクラはそれを楽しそうに見ているな。


「ママー、それなーに?」

「ふふ、これを使って魔法の練習をします。今からサクラにはmaltaηfremeaщ火球を使ってこの的を狙うんですよ」


「なんだかおもしろそう! やってみるね!」


 サクラは至近距離で的に向かい魔法を放とうとするが、フィオナがそれを止める。


「サクラ、まずはお手本を見せます。一緒にいらっしゃい」


 地面に立てた棒から二十メートルというところだろうか、フィオナはその距離まで離れるとオドを練り始める。

 生成したのは極小のファイアーボール。それを的に向けて放つ!



 キュオンッ パスッ



 ファイアーボールは鋭い音を立て的に命中! ど真ん中に当たった。

 すごいな、ファイアーボールというよりファイアーバレットだ。

 命中した箇所に綺麗な穴が開いてるよ。


「サクラ、今からこれをやってもらいます。魔力が強すぎると的を全部燃やしちゃうから気をつけるのよ。狙うのは的の真ん中だけ。さぁやってごらんなさい」


 なるほど。これから繊細な魔力調整の練習をするんだな。これは俺も苦手なんだ。

 先日とある赤ちゃんに加護を与える仕事をしたのだが、与えるマナの量と調整するのに半日かかったからな……


 サクラはオドを練り始める…… 

 娘の晴れ姿だ。よく目に焼き付けておこう。


 ん? サクラの足元が薄っすら光っている。

 サクラめ、マナを使うつもりだな。


「あの子ったら。でも使うのは初級魔法だし、大丈夫ですよね……」


 フィオナが心配そうにサクラを見つめる。

 その後サクラはマナをに取り込み…… 

 さらに取り込み……

 ん? まだ取り込むの?

 止めた方がいいかな? ちょっとヤバイかも……


 俺がサクラに話しかけようとした時……


「準備出来たよー! じゃあいくね! せーの、【maltaηfremeaщ火球!」



 ゴゥンッ!



 サクラが魔法を放つ。

 放たれたのは家一つを飲み込もうかという極大の火球だった……



 ドカーンッ!



 的に着弾すると同時に爆音が響き渡る! 

 爆風が俺達を襲うのだが、サクラはそれを見てとても喜んでいる。

 これは超火炎クラスの威力だな……


 噴煙を上げる地面を眺め、サクラはとても満足そうだ。


「やったー! 当たったよ!」


 ちがう、そうじゃない。

 狙うのは的だけで、全てを吹っ飛ばすのを君には求めていないのだ。

 フィオナはサクラと目線を合わせ諭し始める。


「サクラ…… 今からママの許可が出るまでマナを使うのは禁止です。体内の魔力、オドだけ使いなさい」

「オドってなーに?」


 小首をかしげるサクラ。とてもかわいいのだが、そんなことを思っている場合ではないな。


 これは大変だぞ。この子は才能が有り過ぎる。

 下手に魔法を使ったら対象を塵に変えてしまうだろう。

 別に相手が魔物だったら問題無い。

 だが対象が人であったり、一緒に行動する者がいて、サクラの魔法の巻き添えを食らったとしたら……


 フィオナはオドの説明を始め、サクラに実戦させる。

 何度かファイアーボールを撃ってもらったが、サクラが内包しているオドはフィオナ以上なんだろうな。

 先程と同等のファイアーボールが生成されては的を爆散させ続けていた……


「ママー、疲れたよー…… それにもう飽きちゃった……」


 サクラはそう言って地面の土を弄りだす。

 見ていてとてもかわいいのだが…… 


「もう…… しょうがないわね。じゃあ少し休憩しましょう」


 フィオナは収納魔法を使い、亜空間から敷布とお弁当を取り出した。

 この魔法は最近出来るようになって、食材を新鮮なまま保存出来るとすごく喜んでいた。


 因みにフィオナは空間魔法、空間の断裂なんかも使える。

 俺が教えた……いや、説明しただけなのだが、彼女はそれを理解し、翌日には最強の刃を作り出すに至ったのだ。流石は俺の嫁だ。


 お弁当は今朝作ったサンドイッチ。俺はお茶を淹れるべく小さなやかんに火をかける。

 フィオナはそれを見て一言。


「先にお茶を作って収納魔法で持ってくればよかったのに」


 違うんだな。そういうことじゃないんだ。


「いやね、確かに魔法は便利だけどさ、そればかりに頼るのはどうかなって思ってさ。それにお茶ぐらいはその場で淹れて飲みたいじゃない?」


 そう、気分の問題なのだ。

 今日はサクラの魔法の練習ではあるが、ピクニックも兼ねているし。


 フィオナお手製のサンドイッチと俺が淹れた紅茶でお昼ごはんをいただく。

 サクラは美味しそうに食べていた。二つのサンドイッチを完食したところで眠くなったのか、俺の膝に頭を乗せてきた。


「少し眠ってていいよ」

「うん……」


 サクラは寝息を立て始めた。

 俺はタオルをサクラのお腹にかける。

 フィオナは愛おしそうに、そして心配そうな顔でサクラの頭を撫でる。


「どうしましょう…… この子、魔法の才能はあるけど、魔力調整はライトさんに似たんですね。センスがありません……」


 ん!? センスが無いだって!? 

 今日の嫁はなんだか毒舌だな!


「何だか俺の悪口も言われているような……」

「あはは、ばれましたか? でもちょっと心配なんです…… 力がある者はそれを管理する責任が伴います。今のままではサクラは力に振り回されることになりますから」


 確かにそうだ。

 でも修行はまだ始まったばかり。諦めるのはまだ早い!


「これからもこういった練習を続けていけばいいさ。初めから完璧に出来る人なんていないしさ」

「そうですね。ライトさんだって諦めず頑張ったんですから。そういえばライトさんって攻撃魔法はどれくらい使えるんですか?」


「あんまり意識したことはないけど…… 超級魔法なら無詠唱で使えるよ」

「すごいですね。脇からレインコールを出しちゃうライトさんが立派になって……」


 ははは、懐かしい思い出だ。

 まぁ俺が魔法を使えるようになったのはレイのおかげなんだけどな。

 ともあれ、習得には修練が必要だろう。

 でもサクラはまだ五歳。少し気分を変えてあげよう。


「なぁフィオナ、サクラが飽きちゃってるからさ、魔法の練習は一旦終わらせて今度は俺にやらせてもらえないか?」

「やるって何をですか?」


「少し摸擬戦をね。大丈夫だよ。俺もサクラに力の使い方を教えたいしね」


 久しぶりにサクラに戦い方を教えてあげるつもりなのだ! 

 さぁサクラ! 起きたらパパと修行だぞ!


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