プラチナギルド職員

 いい天気の中、フィオナと一緒にギルドに向かう。

 今日の掃除……いや、仕事の計画を立てる。


 今日はどんなことをしようかな。

 いつものルーティンをこなしてから受付嬢の座布団でも干すか。

 そういえば受付嬢の連中、最近俺に肩もみ要求してくるんだよな。

 デスクワークは肩が凝るって。

 フィオナがみんなに俺の指圧の事を言ったのだろう。


 面倒くさいので、俺みたいに派遣登録して運動してこいって言ったら殺す気かって怒られた……

 俺は月に何度かAランクの仕事の手伝いをしている。

 最初は弓使いの派遣に嫌な顔をしていたが次第と実力を認められ今ではご指名がかかるように。


 冒険者連中とも仲良くなって居心地は悪くない。

 オド集めも順調で無属性のマナの矢一本で中型のドラゴンを退治出来るようになった。

 でも今のままではアモンに届かないらしい。

 どんだけ強いんだよ、あいつ……


 でも諦めるつもりはない。

 あいつに対する恨みは未だ胸にくすぶっている。


 アモンのことを考えている内にギルドに到着する。

 今やこのギルドはアルメリア王国一綺麗なギルドとして評価されている。

 そりゃ一日中俺が掃除してるからな。


 中に入ると、ギルド長と目が合った。

 ニヤニヤしながら寄ってくる。


「おう! ライトか! 相変わらず早いな! 今日はお前向きの依頼も派遣先も無い! 掃除日和だな! そうだ! お前のおかげで冒険者ギルド組合から感謝状が届いた! ギルドのイメージを向上させたことが評価されたんだろうな。

 なのでお前には特別職員としてプラチナギルド職員の名誉を与える!」


 そう言ってギルド長は銀に光るバッジを俺の胸に付けてくれた。

 なにこれ?

 

「あ、ありがとうございます! ところでプラチナギルド職員になると何かいいことがあるんですか?」

「いや、何も無い。今まで通りの待遇だ。金一封も出ない」


「プラチナの意味は……?」

「なんかかっこいいだろ? だってプラチナだぞ?」


 そうだね…… 

 キラキラしてるもんね……


 くそが! なんも意味無いんかい!

 こんなメッキのバッジ貰っても嬉しくないわ! 

 いいように遊ばれている気がしてならん。


 ぶつくさ言いながらも掃除を始める。

 フィオナも受付カウンターでお仕事だ。

 最近は配置替えがあったようで今は新人受付カウンターで受付嬢をやっている。

 クールな美人受付嬢として新人の間で有名になっているそうだ。


 午前中の仕事を終えお昼休みだ。

 受付嬢は交代制で休憩を取る。

 今日はグリフ達が休みなので一緒に昼ご飯を食べる約束をしている。

 いつもの噴水広場で待ち合わせだ。


 噴水広場にあるベンチに座り昼食を食べ始めるが……グリフ達がベタベタしだした。

 最近こいつらのイチャイチャが留まるところを知らない。

 グウィネがグリフにあーんとかしてやがる。


 別に羨ましくなんてないんだからなっ! 

 グウィネに食べさせてもらいながらグリフが俺に訊ねてくる。


「そういえばギルドでスタンピード関連の依頼は出ていないか?」

「ん? いや見たことないな。前に獣人の国の宰相が襲われたやつは国からの緊急依頼だったし」


「そうか、よかった。いやな、最近各国でスタンピードが発生したとの報告があってな。俺達も警備を強化するように言われたんだ。最近では森の王国でスタンピードが発生したらしい」


 森の王国か。エルフの国だな。

 国って言っても南の大森林をことで正式な国名は無いらしい。

 なのでアルメリア王国とは正式に国交を結んでおらず、交易などもあくまで個人として行っている。


 国境線も無く森林の増減で不可侵領域が変わるそうだ。

 人口も少ないので特に国土に拘っていないとエリナさんは言っていた。

 そういえば元気にしてるかな…… 二年は会ってないだろうか。


 俺とグリフの会話を聞いていたグウィネが心配そうな顔をしている。

 ん? どしたん?


「グリフさん…… 魔物が出たら守ってくれる?」

「もちろんさ。どんな敵が来ようとも君だけは守り抜いてみせる。心配はいらない」


「グリフさん……!」

「グウィネ!」


 と言って抱き合う。

 イチャイチャしたかっただけかよ…… 

 グウィネは耳をへにょらせグリフにキスをした。


 こいつら…… 砕け散ってしまえ!



 ◇◆◇



 ギルドでの仕事が終わり、帰宅前に城外に出てマナのコントロールの練習をすることになった。


 もう二ヶ月前になるか。

 俺はまた女神に認められたとのことだ。

 グリフとグウィネをくっつけたことが善行とみなされたらしい。


 フィオナはこれで俺のオドを使うことなく復活出来るそうだ。

 復活に際して膨大な量のマナを使うらしいのでそれをまず体に取り込むところからだ。


 マナの矢を作る時のように足元から大地のマナを吸い上げる。

 寿命十年分の魔力ってどんなものなのだろう? 

 分からないので取れるだけマナを取ってみよう。



 イメージしてみる……



 マナの矢一本を寿命一日として……



 一年は四百日……



 四千本分のマナの矢を作ることを想像してマナを取り込……!?



 ギュォォォォォォォォォォォンッ



 息が…… 出来な……い…… 

 苦し……い……!


「ライトさん! マナを大地に返して下さい!」

「わ、分かった……」


 両手を地面につけてマナを放出する! 

 体から圧迫感が抜けて楽になった。

 死ぬかと思った…… 立っていられない…… 

 フィオナが俺の背を擦ってくれる。


「魔力過多症ですね。少し休みましょう。いったいどの程度のマナを取り込んだのですか?」

「マナの矢四千本分……」


「多分その一割でいいと思います。今のライトさんのマナの矢って無属性でも私の魔法と同じくらいの威力ですから」


 やり過ぎたようだ…… 

 それにしても俺ってある程度は強くなったんだろうけど結構ピンチになったりするよな。

 今回もそうだし、ワイバーンの時だってそうだ。

 決して最強にはなれないんだ。だからこそ日々努力だよな。


 少なくともマナを使ってフィオナを復活させるようなことはしたくない。

 そもそも復活するってことは一度フィオナが死ぬってことだろ。

 そんなことは絶対させない。


 もっと強くならないとな。

 日が暮れてきたので、宿に帰ろうとするが…… 



 クラッ……



 あれ? まだ目眩が……


「大丈夫ですか? ここからだと宿よりギルドが近いです。少しギルドの休憩室で休みましょう」


 そうだな。俺はフィオナに肩を貸してもらいながらギルドに戻ると…… 

 受付は閉まっている時間なのに、カウンターがずいぶん賑やかだな。

 ギルド長と受付嬢がはしゃいでいる。

 俺に気付いたギルド長がいい笑顔で話しかけてきた。


「お! ライトじゃないか! どうした? そんな青い顔をして」

「いえ、何でもありません…… 少し休ませてもらおうかと」


「具合が悪いのか? そうだ! ならちょうどいいものがある! これを試してみろ!」


 ギルド長は俺を強引にカウンターに連行する。

 気持ち悪いんだから優しくしてよ…… 

 おや? カウンターには見慣れない水晶玉が。


「これ何ですか?」

「ふふふ…… これはな! 獣人の国サヴァントで発明された魔道具だ! 最新鋭の物だぞ! これの名はスカウターと言う! 人が持つ強さを数値に置き換えることが出来るんだ! それをステータスと言うらしい! これがあれば業務が楽になると思って、大枚叩いて買ったんだ!」


 へー、ちょっと興味があるな。

 ギルド長はスカウターに手をかざす。


「見てろよ。まずは俺からだ……!」


 水晶が光り始め、そして眩い光を放つ! 

 しばらくすると、水晶に文字が浮かび上がる。どれどれ?



名前:アレクサンダー フロイライン

種族:人族

年齢:52

レベル:60

HP:425 MP:241 STR:307 INT:107

能力:剣術6 斧術8 魔術2


 

「どうだ! これが俺の力だ! むふふ。まだ現役でいけるな!」


 何だかよく分からない数字が並ぶ。

 たしかギルド長って引退前はAランク冒険者だったんだよな? 

 俺の強さも知りたい…… 


「ギルド長、俺もやってみてもいいですか?」

「おう! もちろんだ!」


 許可が出たのでスカウターに手をかざす。 

 先程と同じように水晶が光り始め、そして文字が浮かび上がる。

 そこには……



名前:ライト

種族:人族

年齢:22

レベル:145

HP:12085 MP:4129 

STR:9985 INT:8542

能力:双剣術10 弓術10 体術5 身体強化術9 魔術1 

特殊:マナの剣 マナの矢 千里眼 魔眼 理合い

付与効果:地母神の加護 地母神の祝福

状態:呪い 魔力過多症



 うぉ…… 凄いことになってる。

 俺も驚いたがギルド長なんて青い顔をしてアワアワしてる。


「ねぇライトさん、私もやってみてもいいですか?」


 フィオナが? 

 そうだな。俺もフィオナの強さを知っておきたいし。


「ギルド長。フィオナもやってみてもいいですか?」

「か、勝手にしろ……」


 ちょっと機嫌が悪いな。

 はは、強さで俺に負けたのが悔しいんだな。かわいいところあるじゃん。


 では今度はフィオナの番だ。

 スカウターに手をかざす……



名前:フィオナ

種族:トラベラー

年齢:???

レベル:205

HP:8952 MP:15780 

STR:6525 INT:18725

能力:剣術10 槍術10 体術10 魔術10

特殊:超級魔法 ???



 凄いな。

 腕っぷしなら俺の方が上みたいだけど、魔法に関しては逆立ちしても敵わないな。  


 色々と気にところがある。

 年齢は人ではないので、俺より長生きしているのは理解出来る。

 フィオナは一体何歳なんだろうか? 

 それに特殊欄で明かされていない能力があるみたいだ。


 フィオナの隠された能力か。今度聞いてみよう。


 いつの間にか具合が良くなったので、ギルド長にお礼を言って帰ることにした。

 それにしてもスカウターか。

 買ったら幾らするんだろ? 

 あれを戦闘に使えば、楽に戦えるかもしれないな。



◇◆◇



 ところ変わって、王都正門にて。

 そこにはライトの友人であるグリフが今日最後の仕事を終えようとしている。



「うー…… 疲れたな」


 日が傾いてきたな。そろそろ今日の仕事は終わりだ。

 交代の引継ぎをすればグウィネに会いにいける。

 六時の鐘よ、さっさと鳴ってくれ。


「先輩、まだ仕事は終わってないんですよ」


 むむ? 後輩のアルに注意されてしまった。真面目だねぇ。少しは肩の力を抜けって。

 まぁ、アルの言う通りだな。まだ仕事中だし、最後までしっかりと職務をこなすとしようか。



 ザッ…… ザッ……



 ん? こちらに向かってくる者がいるな。

 今日最後の仕事だ。いつも通りの監査をす…… 


「先輩、あれ……」

「あぁ……」


 遠目からでも分かる。横に飛び出た長い耳。エルフだ。王都にエルフが来るなんて珍しいな。

 ずいぶんゆっくり歩いてくる。早くしてくれ。俺はさっさと帰りた…… 


 エルフはフラフラと城門に近づいてくる。

 その姿は…… 血まみれだ!? 



 ダッ!



 俺はエルフのもとに駆け付ける! 

 俺の姿に気が付いたのか、エルフは倒れるように俺に体を預けてくる!


「大丈夫か!? 何があった!?」

「お願い…… 冒険……者ギルドに…… 連れて……いって……」


 女だな。彼女はそう言って気を失った。

 この傷は魔物にやられたか。

 俺は彼女を医務室に連れていった。

 冒険者ギルドか……


 まずはライトに報告してみるか。

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