12439回目の転生 其の一
『ライトー。起きてー』
うーん。もうちょっと寝ていたいのだが……
ふぁぁ。おはよ、レイ。これまた久しぶりだな。お前に起こされるってことはまたイレギュラーな世界か?
『ははは。すっかり慣れてきたみたいだね』
まぁね。これって何回目の転生になるの?
『12439回目だよ。僕らってずいぶん長く生きちゃったね』
ははは、違いない。で、今回はどんな世界なんだ?
『それがね…… よく分からないんだ。分かるのはオド、マナの流れが他の世界より感じられないってことだけなんだよ』
オドとマナが? それって俺に有用な魔法が無い世界なんじゃないの? 俺が起きる意味ってある?
『それは分からない。でも魔法が全てじゃないんだよ。もしかしたら他の世界に無い知識を得られるかもしれないし』
そうだな。せっかくお前が起こしてくれたんだし。
きっと何か俺のためになる物があるはずだ。
『そうそう。じゃあ、体を返すね。準備はいいかい?』
あぁ。いつでもいいぞ。
光が一筋、天から降ってくる。
俺は光の下に立つ……
『じゃあね。行ってらっしゃい』
レイが手を振って見送ってくれる。
一からの転生は……久しぶり……だな……
ん…… 目の前には母さんがいる。
あれ? 今度の母さんは犬耳がある。獣人だ。人族タイプだな。
どの世界の母さんも美人だが、今回の母さんは特に綺麗だな。なによりおっぱいが大きい。
獣人は他種族に比べ、身体能力が高い。それゆえか、女性はグラマラスな人が多いのだ。グウィネ、ルージュなんかもボンキュッボンだったもんな。
「irela? mnnnn」
母さんは俺におっぱいを飲ませた後、体に何かを塗る。香油かな?
あはは、くすぐったいよ。俺は尻尾をぱたぱたと振ってしまう。
ん? この香り……
これは香油じゃない。
体を巡るオドの流れが速くなるのを感じる。オドが体の老廃物を押し出しているような感覚。
これって……
状態異常回復魔法をかけられた時と同じ感覚だ。ポーションの類かな?
どの世界でもポーションはあった。でも状態異常を回復する効果のあるポーションはかなり高価なはず。
俺の家はどの世界でもそこまで裕福ではなかった。
父さんは村長をしていたが、所得の少ない人にすぐに分け与えてしまうので、貯金は無かったはずだ。
なのに高価なポーションを俺に惜しみなく使う……
ごく一般的に出回っているということなのだろうか?
分からない。今回は一体どういう世界なんだろうか? まだ世界を見ていないのだが、恐らくは獣人が多い世界なのだろう。
レイが言ってたもんな。マナ、オドの流れが少ない世界って。
獣人は総じて魔法があまり使えない。その代わり身体能力が高いので、特に困っていることはないようだが。
ま、とりあえず今は大きくなることが先決だな。
「だー、まー」
俺は母さんにおっぱいのお代わりを求める。いっぱい飲んで大きくならなくちゃ。
「boiubakasyitavi? mnnnn」
再び母さんのおっぱいを頂く。一応フカフカの巨乳を堪能しておいた。
うむ。いいものである。
そして時は流れ……
俺は五歳になっていた。一番最初の人生でもそうだったのだが、俺は五歳になったら一人歩きを認められた。
今世でもそうだ。そういう因果律なんだろうな。
さて、今日は何をするかな。出来ればこの世界に俺にとって何が有用かを見つけ出したいのだが。
とりあえず村を散策するところから始めるか。
俺が家を出ようとすると母さんが俺を呼ぶ声がする。
「ライトー。ちょっと手伝ってー」
おや、母さん。なんの御用でしょうか。声がするのは裏庭だな。
庭に行くを母さんは鍋を火にかけて大きなお玉で中をぐるぐるひっかき回している。
「何してるの?」
「ちょっとお手伝いお願いね。このお玉で鍋の中を混ぜておいて。手を止めちゃ駄目よ」
料理の手伝いかな? 俺は母さんからお玉を受け取り……
って、なんだこれ?
うん、確実に料理ではないわな。紫色のドロっとした液体が、ボコボコと沸騰している。
とてもヤバい匂いがしていた。これは一体なんだろうか?
鼻を押さえつつ、鍋を混ぜ続ける。
母さんは鮮やかな緑色の葉っぱをちぎって鍋に放り込む。すると……
段々と鍋の中の謎の液体の色が消えていく。液体は粘性をも失い、完全に無力透明のものになった。
母さんはハンカチで額の汗をぬぐい驚愕の一言を言い放つ。
「よし、エリクサーの出来上がり!」
うそ!? 一般家庭でエリクサーが出来ちゃうの!? なんだこの世界!?
「お、お母さん…… 今、何やったの?」
「ん? 何ってただの錬金術よ。ふふ。そうね。錬金術をライトに見せるのは初めてだもんね。びっくりした?」
そんな軽く言われても……
え? 錬金術?
そうか! この世界では錬金術が盛んなのか!
一応他の世界でも錬金術はあった。だがそれは異端が行う学問として、日の目を見ることはなかったのだ。
実際大した成果も出せずにいたみたいだし。
それにしてもエリクサーを作るとは恐れ入った。母さんはどの世界でも一般的な主婦に過ぎなかった。
それなのに、まさかエリクサーを作るとはねぇ…… やはりイレギュラーな世界ということか。
たしかに俺の今後にとても有用な知識のようだ。
だがそこまで決定打に繋がるような知識ではない。あったら便利程度のものだな。
なんたって俺は回復魔法は使えるし、マナを体に貯めておくことも出来る。特に薬に頼る必要は無い訳だ。
どうするかな。あまりここで学ぶ必要は無い。レイに代わってもらおうかな?
思案していると母さんが……?
「ふふ。ライト、ありがとね。お手伝いしてくれたおかげでお仕事が終わったわ」
優しい笑顔で俺を撫でてくれる。親の温かさか……
やっぱりもう少しこの世界にいてもいいかな。それに久しぶりに親孝行もしたいし。
そうだ! 俺は母さんを見上げる!
「僕、もっとお母さんのお手伝いしたい! それとね、もっと錬金術のことが知りたい! ねえ、僕に錬金術のこと教えて!」
―――ギュッ
母さんは俺を抱きしめる。ふわふわの巨乳に顔が埋まってしまった。
おおう。我が母ながらいいものをお持ちで。
「うふふ。ライトは本当にいい子ね。いいわよ。それじゃ私とお勉強しましょうね」
母さんは俺を抱っこして家に戻る。
こうして母と二人三脚で錬金術の勉強を行うことになった。
その三年後……
俺は台所で鍋を温めている。料理をしてるのではないぞ。
今作っているのは……
母さんが興味深そうにこちらにやってくる。
「ライト、何を作ってるの?」
むふふ。これはですね……
「これはね。ハイエーテルっていう新しい薬だよ。これを飲めば体内のオドの内包量を一時的に上げることが出来るようになるよ」
「ライト…… 本当なの……?」
本当ですとも。既存のエーテルを基にこの薬を作ったのだ。
今の俺は鑑定が使えるからな。散歩と称し、様々な植物を採取した。
そしたらシロツメクサによく似た葉っぱが薬品の効果を高めることが分かったのだ。
これを秘伝の調合量で混ぜて……
丁寧に灰汁を取り……
鶏ガラスープを加えて待つこと数分……
ハイエーテル、上手に出来ましたー。
それをコップに掬い、母さんに渡す。
「飲んでみて。これで僕らも魔法が使えるはずだよ」
「魔法? そんなこと出来るはずは……」
母さんは信じられないって顔をしているな。
因みに魔法が使えない獣人でもちょっとした生活魔法は使える。
とは言ってもかまどに種火をつける程度しか使えないが。それにすぐに魔力枯渇症になってしまうのだ。
「いいから。美味しく飲めるように作ったから大丈夫だよ!」
「い、いや、そういう問題じゃ…… あ、でもいい匂い……」
むふふ。効果もさることながら味には特に気を使ったからね。
コカトリスの骨を三日三晩煮込んで作った特製鶏ガラスープの威力を見よ!
母さんはゴクリと一口……
「美味しい…… エーテルっていうよりは既に料理として完成されてるわっ!」
母さんは俺のスープ……もといハイエーテルに夢中だ! 喜んで頂いたようでなによりです。
ハイエーテルを飲み終えた母さんに変化が起こる。
「あれ? ああん!? あ、熱い! お腹の中が熱いのぉ!?」
身をよじらせる母さん…… 何だろうか、今回の母さんはやけにセクシーなのだが……
ごほん、さて気を取り直して効果を試してみるとするか。
「母さん、火の生活魔法を使ってみて。全力でね」
「はぁはぁ…… え? 全力で?」
母さんはちょっと妖艶に息を荒げながら詠唱を開始する。狙いはかまどだな。
あそこなら安全だろう。詠唱を終え、火を放つ……
普段だったら指先くらいの種火が着く程度なのだが……
出てきたのは特大のファイヤーボールだった!
爆音と共に台所がはじけ飛ぶ!
ドカーンッ!
「きゃー! 何これー!?」
「ご、ごめん! ちょっと効果が高すぎたみたい!」
やばい! 台所はすでに火の海だ! このままでは家が全焼してしまう!
俺は台所全体に水魔法を放つ!
「
ポツ ポツ サァァァッ
俺が一言唱えると天井から雨粒が滴り落ちて、無事に鎮火したのだが……
家は水浸しになってしまった。
茫然と立ち尽くす俺と母さん……
「ライト…… とりあえずお片付けよ……」
「はい……」
「終わったらお話があります……」
「はい……」
あかん。絶対怒られるやつだわ、これ。
俺と母さんは無言で掃除に取り掛かるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます