凶戦士

「ぐ…… がぼ……」

「…………」


 フィオナが胸を貫かれていた。

 ゴボゴボと口から血を吐いて痙攣している。

 俺達の無事を祝ってフィオナを抱きしめ、キスをした。そして急に投げ飛ばされた。

 そしたらこれだよ。何が起こった?


 美しい顔を歪め血を吐き、白目を剥いたフィオナの顔の後ろに見えるのは…… 

 逆立つ黒髪。

 頭から生える山羊の角。

 ウロコに覆われた身体。

 赤黒い皮膚。

 トカゲの尾。

 猫のような目。


 一度しか会っていないが、その姿を忘れたりなどしない。

 俺から全てを奪った憎き相手。


 アモンだ。

 奴はニヤニヤと笑っている。


『…………』


 

 ブォンッ

 ドサッ……



 アモンは腕をフィオナごと振りかざす。

 フィオナが俺に向かって飛んできた。

 受け止め、そのまま地面に寝かせる。


「…………」


 物言わぬ愛しい人にキスをする。

 フィオナ、ごめんな。少し待っててくれ。

 

 今アモンを……



 ―――コロシテクルカラ



 終わったら、すぐに復活してあげるからな。

 俺は怒りすぎると、どうも冷静になってしまう。

 ふふ、今からお前を斬り刻んでやる……


 全身に力を込める。視界から一つずつ色が失われていく。

 視界から完全に色が消え、脳が微振動を始める。



 アモン、会いたかったよマナの剣を発動し、アモンに斬りかかる

 あの時の恨みは忘れてないからな薙ぎ払いを避けてアモンの手刀が俺の首をねらう

 お前は俺の大切なものを奪った避けきれなかった

 そのお礼をしなくちゃな手刀が頬を掠める


 お前は俺をどうしたかったんだmastdalma? 

 なぜ呪いをかけて俺を生かした回復魔法を発動? 

 でもお前の呪いのおかげだな傷は消え去り

 エルフを救えたんだ血は一瞬で止まる

 逆にお礼を言っておこうか今度は俺の番だ


 悔しそうな顔をしているもう一本マナの剣を発動する

 今の一撃で殺せると思ったのか二刀流だ 避けられるか?

 甘いよ。以前の俺と思うなよ死ね! 微塵切りにしてやるよ!


 俺はお前を許さない左手に持つマナの剣を

 お前は俺から全てを奪った振り下ろす途中で手放す

 愛する人はみんな死んだ唖然としている。ふふ、フェイントだよ

 俺はお前を絶対に許さない右手の剣で首を狙う

 そして今日がお前が死ぬ日になる化け物め。首を半分斬ったのにピンピンしてやがる



 ―――コォォッ



 ん? 両手で空に魔法陣を描いたアモンが魔法を放つ。避けられない!…… 

 器用なやつだな。羨ましいよマナの剣で魔法を打ち消す!

 俺、魔法が使えないんだくそ、左手が消し飛んだ


 勝った気でいるのか残る右手で斬りかかる?  

 そんな笑うなよこれもフェイントだ

 戦いはこれからじゃないかmastdalma

 もっと楽しまないとな回復魔法だ。失った左手が生え、放したダガーを掴む


 ふと友人の顔を思い出す虚を突かれたアモン

 グリフ、グウィネ下段からの一撃が

 オリヴィア、ローランドアモンの右腕を斬り落とす

 他にもいっぱい友人が出来たどうだ? お返しだよ

 そしてフィオナにも出会えたまだ終わりじゃないんだろ?


 不思議だな地面に落ちているダガーを

 お前との出会いが蹴り上げる

 みんなに繋がったってことか受け取った右手で大上段から振り下ろす

 なら感謝しないとな避けると分かっていた

 でもな、今のでお終いだカウンターで貫手が放たれる

 これからお前を殺す手首を掴み投げ飛ばす

 なんだかぞくぞくしてきた顔面から叩きつけてやった

 ははは。俺って変態かもなチャンス! ぶっ殺してやる!


 さぁ、終わりにしよう。

 串刺しにしてやる。

 アモンの顔面を突き刺そうとした時……

 


 ―――ゴゥンッ



 うわっ!? 炎を吐いてきた!

 避けられなかった。

 高熱が俺の顔を焼く。


 

 ―――バスゥッ

  


 鈍い音が聞こえた瞬間、激痛が走る。

 足を攻撃された……って、右足が無い。


「くっ!? mastdalma超回復!」

 

 回復魔法を発動。

 一瞬で足は元通りになる……が、ヤバいな。

 このままでは……


 その後も思考しつつ、攻撃を繰り返す。

 まるで頭と体が別々に動いていているように。

 だが実力は僅かだがアモンの方が上だ。

 このままだとジリ貧になって俺が負ける。

 どうする?

 今の俺にやれること……


 あれしかないか。

 

 思い出す。

 アモンと初めて出会った時、俺は身体強化術をめいいっぱい発動した。

 発動すれば死は免れない最終段階だ。

 

 あの時は死を覚悟したが、今の俺の体ならそのリスクに耐えられる可能性がある。

 筋肉痛も無いし、寿命が縮むってこともない。


 やってみるか。距離を取って身体強化術をかける。最終段階までな。全身に力を込める……



 ―――ドクン


 …………


 ……………………


 あれコロス? なんともないぞコロスコロスコロス


 頭はすっきりと冴え渡っているコロシタイコロシタイダレカヲコロシタイ

 だが何故か思うように体を動かせないキリキザミタイオレハシヲモトメテイル

 俺は意識せぬまま、マナの剣を発動するチガミタイコイツノチガミタクテシカタナイ

 現れたのは見たこともない漆黒の剣だフヒヒ、コノケンデオマエヲォォォォ


 か、体が勝手に動くブッコロシテヤルカラナァァァァ

 アモンが襲いかかってくるがオソイオソイオソイオソイ!

 俺は避けることなくヌルインダヨォォォォ!……


 

 ―――ズバァッ



 アモンの腕を斬り落とすフヒヒワラエルイタイカモットイタミヲカンジロォ!…… 

 いや違う。細切れにしたナケヨイノチゴイヲシロ

 指先から肘までを一気にミンチにしたコノテカフィオナヲコロシタテハ

 

 お、俺は何をしたオシオキダァァァァァ

 動いているのは俺なのにユックリイタミヲカンジロォォォォォ

 太刀筋が全く見えなかったスグニハコロサナイィィィ

 

 俺の攻撃は止まらなかったアハハハハハハハハハハ

 信じられない速さでアモンに近づくイタミヲカンジロォォォォ

 剣ではなく、目潰しを食らわすオカエシダヨォォォ

 そのままアモンの眼球を抉り出しアヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!……


 握り潰している。


 分からない。理解出来ないモットダァァァァァァ

 意識はあるのに、無意識に体が動くオマエノヒメイヲキカセロォォォ

 だがこのまま戦えば勝てるイイコエデナイテミセロォォォ

 

 アモンは回復魔法を発動したようだアリガトウ! オレヲモットタノシマセテクレルンダナ!

 失った右腕が生えてきたツギハドウイタブッテヤロウカ!

 先程までニヤニヤ笑っていたがアハハハハ! ソウゾウシタラ

 今はその顔は恐怖に歪んでいるタッチマッタヨ!


 次の瞬間、アモンは宙に魔法陣を描く。

 反撃だろうか? 



 ―――カッ!



 うっ!? 目潰しかオイオイ、ナニヲシテルンダ!?

 眩い光が辺りを包むコザイクナンテヒツヨウナイ

 くそ、警戒しないと!モットオレヲタノシマセロォォォォ



 ―――バササッ



 羽音ソンナ……? 

 光が弱くなり、ゆっくり目を開けるとチクショウ、モットアソビタカッタノニ……

 アモンが飛んでいくのが見えたアレ? イキバノナイサツイガ……

 ま、まさか逃げたのかクルシイィィィィィ

 俺は弓を構え……られなかったダレデモイイィィィ コロシタイィィィ



 ―――ドクンッ ドクンッ ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクッ


 

 心臓の鼓動が早くなる。

 は、早すぎる……

 くそ、あの時と同じだ……


 身体強化術の最終段階は諸刃の剣。

 発動を終えれば、心臓は爆発し、全身から血を噴き出して絶命する。

 俺は強くなった……

 耐えられると思ったのに……

 俺はここで死ぬのか……? 

 

 意識が遠くな……

 嫌だ……

 死にたくない……

 父さん、母さん……

 フィオ……


 

 


















  コロシタイ


  ダレカヲコロシタイ


  イキバヲナクシタサツイガアフレダス


  チカクニダレカイナイノカ


  モウアモンデナクテモイイ


  ン? ダレカガチカヨッテクル

 


「ライト様……」

 


  アイシャ?


  チョウドヨカッタ アイシャデイイカ


  ナァオマエヲコロシテイイカ


  ヒヒ、ソウゾウシタラタッチマッタ


   アイシャハテヲヒロゲテチカヅイテクル? 


   アハハハハ! サスガハトラベラーダ! オレヲササエルソンザイダ!


   オレノシタイコトニキョウリョクシテクレルンダナ!


  アリガトウ!

 















 アイシャを抱きしめた。



 右手のダガーで彼女の胸を貫いた。



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