アイシャの覚悟

 ライト様は生きていた。

 フィオナの聖滅光に耐えたのですね。安心しました。  

  


 砂だらけですね。

 肩を貸していたフィオナがライト様に駆け寄ります。

 二人は抱き合い、口付けを交わしました。



 やはりフィオナはトラベラーとしては異質な存在ですね。

 彼女の存在がライト様にとって吉を出るか凶と出るかは分かりません。

 ですが今はこの戦いに勝ったことを祝いましょう。

 そうだ、またライト様にラーメンを作ってもらいましょうか。



 ―――ゾクッ



 辺りに邪悪な気配が漂いました。

 二人の背後にアモンが出たのです。

 彼はどこに隠れていたのでしょうか。

 今の今まで気配は感じられませんでした。



 危ない! アモンが二人を狙います!

 フィオナは咄嗟にライト様を逃がしました。

 その代わりフィオナはアモンの手刀に貫かれてしまいます。



 良い機転です。彼女は復活出来る。

 今のライト様は消耗しています。ここは撤退しましょう。

 一度引いて体制を立て直すのです。

 しかしライト様は戦うことを選びました。

 激しい攻防でした。

 今私が援護してもライト様の邪魔になるだけ。それほどの攻防です。



 ですが互角に見えた戦いも時間が経つに連れ、ライト様が不利になっていくのが分かります。

 このままではまずい。



 突如ライト様の動きが変わりました。

 ライト様が持つ剣の色が赤から黒に変わります。

 禍々しいマナの気配を感じました。



 これは……魔剣ですね。このマナは知っています。

 ティルヴィング。一度鞘を抜けば誰かを殺さなくてはいけない呪いがかかっています。



 異界でのティルヴィングの持ち主は、この魔剣を抜き狂戦士となって戦いました。

 しかし相手を殺すこと叶わず戦いが終わると魔剣に魂を喰われ死んでしまいました。



 ライト様も…… 恐らくそうなっているでしょう。

 でも大丈夫です。ライト様はアモンを圧倒しています。

 アモンを倒せば、剣の呪いは解けるでしょう。

 しかしアモンは魔法を使って撤退してしまいます。勝敗は次に持ち越しですね。



 問題が発生しました。アモンは撤退したのですが、魔剣がまだ血を求めています。

 それが叶わない時は……魔剣は持ち主の魂を喰らうでしょう。

 困りました。周りには魔物どころか生き物の気配を感じられません。

 このままではライト様が……



 しょうがないですね。トラベラーとしての責務を果たすとしましょう。

 ライト様。気に病んではいけませんよ。私は不死の存在。この世界からいなくなるだけです。目が覚めれば次の世界が待っています。

 だから私をその手にかけても気にしてはいけません。



 少しだけ心配ですね。



 私は貴方のことを覚えていられるでしょうか?



 貴方に頂いたラーメンの味を覚えていられるでしょうか?



 それだけが心残りです。



 時間がありません。さぁライト様、どうぞ来てください。



 ―――ekunokunno ekunokunno omiurexuxuooie



 歌? 歌が聞こえてきます。

 突如、辺りが光に包まれました。歌だけではなく、精霊達が泣く声も聞こえます。

 私達の隣に一人の女性が現れました。彼女もまた泣いています。

 彼女から感じるマナ…… 女神のものですね。

 なんでしょうか。胸が温かいです。自然と口角が上がります。

 これは笑顔? ここにきて私も祝福を得たのでしょうか。

 この温かさ。これはきっと喜びというものでしょうね。



 私の胸は喜びで満たされました。

 なぜなら私はトラベラーとしての責務を果たし、ライト様の支えになれるのです。

 これ以上の喜びはありません。



 ライト様が私を抱きしめます。

 最後の時が来ました。















 フィオナ…… 

 これからもライト様を支えていくの……ですよ……



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