勝利の代償
森の都アヴァリ。
王女リリは聖樹の下で祈りを捧げてライトの無事を願う。
ライトの死はアヴァリの死を意味する。
彼女は自分を蔑む。自分達の幸せを外部の人間に託すのだ。
しかも大事な情報を秘匿したままで。
しかし彼女は統治者。この選択は正しい。
自国の安全、繁栄を願うのは当然なのだ。
それが友を見殺しにするものだとしても……
カッ
突如、南の空が閃光に包まれる。
フィオナの神級魔法が発動したのだ。
その刹那。夢を見ていないのに彼女は、とあるヴィジョンを見る。
燕だ。
三羽のうち二羽が死んでいる。
鷹は傷付き逃げていく。
安心していいのか分からなった。
しかし、前回の夢見の結果を変わっていなかったことに安堵した。
そして彼女は泣き崩れる。
「ライト……! ごめんなさい! ごめんなさい!」
◇◆◇
ん……? 俺は一体どうした?
なんでアイシャを抱きしめている?
フィオナがやられて…… それからアモンと戦ったことは覚えている。
分が悪くなったので身体強化術の最終段階を発動した……はずだ。
そこからの記憶が無い。
何か黒い殺意のようなものに包まれたのは覚えている。
「アイシャ? 俺に何があっ…… アイシャ!? アイシャ!」
「…………」
アイシャの胸にはダガーが突き刺さっている!
彼女は何か言いたげに口を動かしている。
でも言葉の代わりに血がゴボゴボと噴き出るだけだ。
「ライ…… ゴボッ……」
彼女は笑っていた。
まさか喜びの感情を……?
違う! 今はそんなこと考えてる場合じゃない!
どうする!? そうだ! 契約だ!
契約すれば、死んでも復活させることが出来る!
アイシャを地面に寝かせる。
フィオナ、許してくれ!
俺はアイシャを救うため契約を行う。
間に合え! アイシャに口付けをした瞬間……
―――ゴボボッ
彼女は口から大量の血が噴き出してきた。
「げほっ!?」
アイシャの血が気管に入った! 苦しい! もう一度だ!
アイシャにキスをしようと……
―――ギュッ
アイシャは微笑んだ。
俺の首に手を伸ばし、抱きしめられた。
口を俺の耳元に、そして囁く。
消えそうな声で。
「ライ……ト様…… 気に病んでは……いけませんよ……」
―――スルッ
アイシャの腕から力が抜ける。
瞳は虚空を見上げている。
アイシャが死んだ。
どのくらい経っただろうか。夕日が砂になってしまった大地をオレンジ色に染め上げている。
俺は彼女の躯の前に座っている。動けないんだ。
アイシャは短い間だったが仲間だった。
彼女なりに俺を心配してくれていた。
こっそり契約しようとしたり、中々かわいいところがあったな。
初めての出会いはびっくりしたよ。
だって裸だったんだし。
フィオナがいなかったら惚れてたかもな。ふふ。
夕日が沈む。その刹那……
―――シュゥゥ
アイシャの体が光に溶ける。
そうか、旅立ちか。
この子はトラベラー。絶対的な死は存在しない。
新しい世界に行ったんだな。
なるほど、
でも、もうアイシャには会えないんだよな。
そう思うと涙が溢れてきた。
完全にアイシャの体が消えた時、刺さっていたダガーが音も無く地面に落ちる。
これは俺のダガー……?
―――ゾクッ
右手にアイシャを刺した感触が蘇る。
思い出した。
おれがあいしゃをころしたんだ……
オレハナカマヲコノテニカケテ……
「ライト殿! 大丈夫ですか!?」
「フィオナは聖樹の下にいるわ……」
翌日から体が動くようになった。
だが今日は一日アイシャのために泣こう。
俺が彼女を手にかけた事実は変わらない。
受け入れなくちゃ。これは俺の罪だ。
目を背けてはいけない。
忘れてはいけないんだ。
翌日、俺は目を覚ます。
涙はもう渇れ果てた。
「行かなくちゃ……」
フィオナの亡骸は聖樹の下に安置してある。
まだ夜が明けきらない内に宿を出た。
フィオナは布に包まれて俺を待っていた。
ごめん。少し時間がかかった。今復活してあげるから。
やり方は分からないんだけどな……
キュォォォンッ
取り敢えず体にマナを取り込む。
マナの良し悪しなんて分からないが女神様にお願いした。
フィオナのために、いいマナをくださいってね。
はは、女神様に怒られちゃうかな。
優しい熱が足元に集まってくる。
フィオナを包んでいる布を外す。
現れたのは真っ白になったフィオナの顔。
その口元は血で汚れていた。
後で綺麗にしような。
そのまま冷たい彼女にキスをした。
口を通じてマナを流し込むイメージを込める。
フィオナの唇が熱を帯びてくる。
目が開く。見慣れた緑がかった瞳に光が宿る。
口がゆっくり開き、そして……
「ライトさん……」
「おはよう、フィオナ。待たせてごめん」
―――ギュッ
彼女を抱きしめる。
温かい。
あれ? 昨日泣き尽くしたと思ったのに。
また…… 涙が溢れてきた……
「フィオナ…… アイシャが……」
「大丈夫ですよ。泣いてください。ずっとそばにいますから」
フィオナを抱きしめて泣いた。
彼女もしっかりと俺を抱きしめてくれた。
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