フィオナVSパズス
私はかつての諜報員、今は快楽で殺しを行っているパズスという猫獣人と対峙しています。
―――スラッ
パズスはナイフを抜きました。見たこともない形状ですね。
先端が内側に湾曲しています。
「これはククリというかたなです。いいぶきですよ。すこしのちからでかんたんに、あいてのくびをおとすことができます。ですがあなたがたをかんたんにころしはしません。まずはあなたのうつくしいかおを、ずたずたにきりさいてあげましょう」
―――シャキンッ
パズスの指の無い右手から仕込み針が飛び出ました。短めの針なので殺傷力は低いはずです。つまりこれは拷問用ですね。
パズスの顔は皮を剥がれており表情が読み辛い。でも膨らんだ股間で私を切り刻むことが出来るという期待に溢れているのが分かりました。
パズスは構えます。
―――息を吐く。
―――吸う。
―――体の力が抜ける……
来ます。一瞬でパズスは距離を詰めてきました。
仕込み針が目の前に迫っています。
まずは私の顔を狙うのでしょう。
速い動きですが、目標が分かる以上避けるのは……
シュパッ
容易ではありませんでした。予想以上に速い。
パズスの一撃が私の頬を掠ります。私は距離を取り、右頬を触ると……
ヌルリとした血の感触。
「まずはいちげき。なかなかよいかおになりましたね」
「下手な化粧ですね。これではライトさんは喜びません」
「おや? たたかいのさなか、おもいびとのことをかんがえてらっしゃる? なかなかよゆうがあるよう……ですね!」
ダッ!
再びパズスは距離を詰めてきます。狙いはやはり私の顔です。
私を傷付けることが目的とする攻撃。致命傷には至らないでしょう。
私は自分の右側の攻撃を気にしていればいい……と思っていました。
ザクッ
左目の視界を奪われた?
私が甘かったようですね。パズスの左手には既にククリは無く、代わりに右手と同じような仕込み針が飛び出ています。
顔に痛みと熱が走ります。
「これでわたしとおなじ、せきがんになってしまいましたね」
「…………」
パズズはカチカチと歯を鳴らしていました。笑っているのでしょうか。
彼は馬鹿正直に戦って倒せる相手ではありませんね。
ならば……
私はナイフをしまい、両手をパズスの前に出します。
手の平は軽く開いたままで。
「おや、もうこうさんですか?」
「そんな訳ありません。いいからかかって来なさい」
この構えは防御に特化した構え。攻撃をいなしてから隙を作って攻撃の起点を作る。
乗ってきてくれるでしょうか?
「いいでしょう…… かくご!」
パズスは歯を鳴らしてからこちらに突っ込んできます。
かかった。この構えならばいかに速かろうと全ての攻撃に対応出来ます。
パズスの右手仕込み針が私の顔を狙います。私は左手を回し……
―――パシッ
パズスの攻撃を逸らします。
一瞬パズスの顔が歪むのが見えました。そして左での二撃目が来ます。
私は右手を下に振り下ろすようにパズスの左拳の軌道を変えました。
―――パシッ
これで彼の両の手は私の攻撃範囲外にあります。
今度は私の番ですね。体格で劣る私がこの状況下で与えられる最大の攻撃。
頭突きです。人の骨で最も固い場所で顔の急所である人中を狙います。
ブンッ! グチャッ!
顔面の骨を砕く音が私の頭蓋を通して聞こえてきました。
血を噴き出しながらパズスは距離を取ります。
その顔は予想通りというべきか前歯が全部無くなっていました。
「まずは一撃です。中々いい顔になりましたね」
「…………」
パズスは返事をしませんでした。
しかし、彼の尻尾は垂れさがり股の内に潜り込んでいます。
驚きや恐怖を感じた時の動きです。
攻撃が通用しないと分かるれば、彼はククリを使って私を始末にかかるでしょう。
その前にもう一撃与えたい。
「どうしたのですか猫ちゃん。私を傷付けたいのでしょう? ならこうしてあげます」
―――シュルッ パサッ
私はローブを脱いで下着姿になり靴も脱ぎます。
防御力は無いに等しいでしょう。
「今なら好きなだけ傷つけられますよ。さぁ、来てください」
「ふふふ…… ははははは! あなたはよほどのおろかもののようだ! ではそのようにさせていただきましょう!」
かかりました。
パズスは両の手で同時に斬りかかってきます。
先程と同じように回し受けで攻撃をいなします。
隙が出来ましたが、今度の狙いは頭突きではありません。
足です。パズスの親指を狙います。私がローブを脱いだのは挑発の為ではありません。
挑発するふりをして自然と靴を脱ぐ為ためだったのです。
私は自身のつま先に力を込め……
ズンッ!
パズスの親指の関節を踏み抜きました。
「ぐぁぁぁっ!?」
ここは人体の急所の一つ。激痛のあまり一瞬ですが、動きを止めることが出来ます。
正確に狙いをつけるためには靴を脱ぐ必要があったのです。
狙い通りパズスの動きを止めることが出来ました。
次の狙いはこめかみです。
両手の親指に最大限の力を込める。そして左右のこめかみに……
ズンッ グリッ!
親指を打ち込みます。
私の親指は根元までパズスの頭蓋に突き刺さり、そのまま手を回せるところまで回し、脳内部を傷つけます。
パズスの残った目がグルンと裏返り白目をむきました。
ズッ……
私は親指を抜きますが…… やはり折れていましたね。
パズズは糸を失った人形のように顔から地面に倒れました。
勝ちました…… パズスの死体を後にし、振り向いてルージュ達に声をかけます。
「ルージュさん、スースさん、もう大丈夫ですよ」
私の戦いを無言で見ていた二人が我に返ります。
「フィオナさん、強いのね…… 見たことのない技ばかりだった……」
「長い時間生きていますから。今回は異界で習得した技を使いました」
とは言ってもどうやって習得したかは覚えていないのですが。
体が技と動きを覚えているのに過ぎないのです。
フラフラとスースがこちらにやってきます。
「酷い怪我じゃないか…… 座りなさい。簡単であるが治療しよう」
そうでした、スースは医師でしたね。
顔の切り傷は軟膏を塗ってもらい、折れた親指には添え木をしてもらいました。
城から出れば回復魔法が使えます。それまでの我慢ですね。
強敵も倒しました。早々にライトさんと合流しないと……
「フィオナさん! 後ろ!」
後ろ? 何のことで……
―――グサッ
突如左肩に熱を感じます。
肩を見るとナイフの先端が貫通しているのが見え、次の瞬間その熱が痛みに変わります。
「うあぁぁっ!?」
後ろを振り向くとパズスが立っていました。
口からは血の泡を噴いて、瞳孔は開いています。
死ぬ寸前ですが、その体は殺気で溢れていました。
「身体強化術の最終段階…… 私達を道連れにする気ね……」
ルージュはナイフを構えます。
パズスと戦う気でしょうか。止めなければ。
彼女はまだ戦える状態ではありません。手負いの私よりも戦闘力は低いでしょう。
「下がっていてください」
「何言ってるの!? あなた重症なのよ! 任せられる訳ないじゃない!」
「大丈夫です。私はまだ使っていない技があります。それを使いますが……とどめを刺す体力は残っていないと思います。私がパズスの動きを止めます。その後は任せていいですか?」
「…………」
私はルージュの返事を聞くこともなくパズスと再び対峙します。
左腕は使えないので構えを変えました。
右半身を前に出す正中線を敵に晒さないような構えです。
右手を前に出し、掌は開いたまま。
パズズの左手にはククリが握られていました
どうくるでしょうか……
いきなり首を刈りにくるなら横薙ぎ。
腕を落としにくるなら縦斬りでしょう。
私の状態を鑑みるに、パズスに勝つチャンスは一回のみ。
パズスの動きを見つめます。
―――息をしている。
―――吸う。
―――吐く。
―――吸う。
―――パズスの足に力が入ります。
―――吐く。
ダッ!
来ました。袈裟懸けです。
良かったです。受け流しやすい斬撃ですから。
パズスの狙いは私の右肩。そのまま私を斬り裂くつもりですね。
反撃に移るため避ける動作は最小限に抑えます。
ククリが私の右頬を掠めました。
私が負った傷はそれだけだです。
勢いが死なないうちにパズスの手首を掴み、外側に向かって大きく回します。
するとパズスは横回転をして宙を舞いました。
地面に叩きつけられる前にパズスの頭に手を添え……
ゴスッ! メキィッ!
一気に地面に叩きつけます!
鈍い音が主寝室に響き渡りました。ですが……
目の前が暗くなります…… 血を失い過ぎましたね。
最後の力で声を出します。
「ルージュさ……」
「…………!」
言葉も無くルージュが飛び出してきました。
私が意識を失う前に見た光景は……
ルージュによって首と胴体が泣き別れたパズスの姿……でした……
ライトさん…… 今は助けに行けません……
どうか無事で……
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