グウィネ
「……という訳だ。彼女はお前のことを覚えている。お前は忘れているんだろう、この朴念仁。女心が分からんお前に彼女は任せられん。諦めろ」
「…………」
理髪店を出て、グリフに報告に来たのだが……
ヤバい。冗談半分で言ったつもりだがグリフは泣きそうになっていた。
いかん。ふざけ過ぎた。
「そんな顔すんじゃねぇよ! 俺だって女心は分からんがこれはチャンスだぞ! さっさとデートに誘うとかして来い! このまま何もしなければ誰かに盗られちまうぞ!」
「おまっ!? 簡単に言うなよ! 初めて女に惚れたんだ! どうしていいか分かんねぇよ!」
そうか。何となく同族の匂いがしていたが、グリフ、お前もだったか……
フィオナ? いや、彼女とは正式なお付き合いに至ってるわけではない……
なんか悲しくなるから止めよう。今はグリフのことが優先だ。
しかしヘタレだなこいつ。これは友人として俺が何とかしてやろう。
「お前、グウィネと二人になったら話を続ける自信はあるか?」
「無い…… 終始黙ってしまいそうだ……」
こいつならやりかねん。デートを設定してやっても会話が続かずグウィネが気まずい雰囲気に耐えられなくなる絵が浮かぶ。
「もし、俺とフィオナ、お前とグウィネの四人なら話は出来そうか?」
「そ、それなら何とかなるかも……」
そう、俺が考えたのはダブルデートという手法だ。これなら口下手なグリフを近くでカバー出来る。
四人いれば会話の内容にも事欠かないだろう。
「お前、グウィネの趣味とか知ってるか? 好きな食べ物とかでもいい」
「すまん。何も知らん……」
こいつ……!? 予想以上の使えん!
仕方ない。まずは情報収集からだな。
少し日を置いた三日後に、俺は再び理髪店を訪れることにした。
お客の少ない時間を見計らって店に入る……
カランカラーンッ
「あら、ライトさんとフィオナさん、いらっしゃいませ!」
グウィネが笑顔で出迎えてくれる。店内を見渡すと……
よかった。他に客はいないようだ。
では作戦開始!
「嬉しいな! もう名前を憶えてくれたんですか!?」
「はい、印象に残るお客様は全部覚えていますよ。フィオナさんはもともと髪が綺麗でしたし。ライトさんは…… うふふ。面白い方でしたしね」
「ははは、そうだったんですね。今日もお願いします!」
トリートメントをお願いしつつ、彼女から情報を聞き出す。あわよくば遊ぶ約束も取っておこう。
でも俺は既に洗髪の段階で夢の国へ行ってしまいそうになっていた……
いかん! 耐えろ俺! 意識を強く持ってグウィネに色々聞くのだ!
「グウィネさんってお休みの日は何してるんですか?」
「んー。家でゴロゴロですね。午後からカットの練習とかしますよ。基本的にお店は火竜日にお休みです。たまに仕入れとかで月二回ほどお休みを貰ってますね」
火竜日の固定休か。予定は立てやすそうだな。
これはいい情報だ。もう少し攻めても大丈夫だな。次の作戦に移ろう。
フィオナには何をするのか伝えてある。自然なタイミングで俺に話を振り、話題を作るのだ。
俺はフィオナに視線を送る。彼女は黙って頷いてくれた。
頼むぞ……
「ライトさん、お腹空きましたね。この後どこか食べに行きませんか? 銀の乙女亭が最近人気らしいですよ」
「お、いいねー。終わったら食べにいくか!」
よし、自然な会話だ!
フィオナ、よくやった!
すると俺達の会話にグウィネが乗ってくる!
「いいなー。羨ましいです。私もそこ知ってますよ。行ってみたいんだけど、すごく怖い人が女将さんやってるって噂で。怖くって行けないんですよ……」
大丈夫。女将のオリヴィアは怖くないよ。ちょっと脳みそが筋肉で出来てるだけだから。
ふふ、作戦は上手くいってるぞ。
どんどん話を進めよう。
「じゃあ、今日俺達が行って調べてきますよ。どんな料理を出したか教えますから。よかったら今度一緒に行きません?」
「わー、嬉しいな。私美味しいものに目がないんです! いっぱい食べるんですよー。うふふ」
「でもいいんですか? 彼氏さんに悪いのでは?」
「もー、私一人です。ライトさんの意地悪っ!」
きた! これはいい情報だ!
今は一人なんだな!
ダメ押しのもう一手!
「うそ!? そんなかわいいのに。そうだ。さっきの話ですけど、確かグリフも食べに行きたいって言ってたな。あいつも誘ってもいいですか?」
「本当ですか? グリフさんとはお話したかったんですよ。だってあの人ずーっと黙ってカットされてるだけなんですもん。あぁ、とか、おぅしか言わないんですよ。私嫌われてるのかも……」
あのバカ……
しかし今日は有益な情報を手に入れることが出来た。これで大きく話が進むだろう。
グリフに報告して次の作戦を考えないとな。
翌日、グリフの家で作戦会議だ。
寝る時間を削って考えた俺の渾身の作戦の説明を始める。
作戦はこうだ。銀の乙女亭に行った話をする。一緒に行く日にちを決める。当日はみんなで公衆浴場に行く。ダンス教室に行く。銀の乙女亭で楽しくお食事。次に会う約束をする。
これらをループし次第とグウィネと親しくなる。
俺とフィオナのいつものデートコースではあるが、慣れてるのが一番だ。
「以上だ。質問はあるか?」
「ライト……! お前が友達でよかった!」
グリフは力強く俺を抱きしめる。
うーん、気持ちだけでいいよ。さっさと離して欲しい……
◇◆◇
さらに三日後、俺達は理髪店に足を運んだ。作戦の第一段階に進むためだ。
「こんにちは! グウィネさん、今日もトリートメントお願いしてもいいですか?」
「ライトさん、いらっしゃいませ。もちろんですよ。うふふ。すっかりうちのお得意様ですね」
グウィネに促され、椅子に腰かける。
さて作戦スタート!
「そういえば銀の乙女亭に行ってきましたよ! 最高でした! 料理も酒も一級品で値段もそこそこ安いし。来週の火竜日、予定あります? よかったらみんなで行きませんか?」
「行きます! 連れてってください! わー、楽しみだなー。王都に来てから誰かと遊びに行くことなんて、あんまりなかったんですよ」
よし! 第一段階クリアー!
次はデートコースを教えて、彼女の趣味に合わないものは排除する。
「よかった! そうだ。その日はグリフと公衆浴場行ってからダンス教室も行く予定なんですよ。もしよかったら一緒に行きませんか? 楽しいですよ!」
「んー、お風呂は行きたいんですけどダンスはやったことがなくて…… 私に出来るかな?」
「それなら大丈夫ですよ。初心者のクラスでも充分楽しめます。それは俺とフィオナが保証しますから!」
「分かりました! それならご一緒させていただきますね。あー、どうしよう! 今から楽しみになってきちゃった!」
グウィネがウキウキしてる。
よかった。作戦は成功だ。後は何度かこれを繰り返してゆっくりと親密度を上げていけばいい。
◇◆◇
ダブルデートの当日、俺達はいつもの噴水広場で待ち合わせた。
レディを待たせては失礼なのでグリフには十分前には来るよう伝えてある。
「ライトさん、来たみたいですよ」
「やっとか。って、どうしたんだ?」
グリフは青い顔をしていた。なんでそんなにげっそりしている? 寝られなかった? 子供か……
少し待っているとグウィネがパタパタとこちらに駆けてくる。
「みなさーん、お待たせしましたー」
おぉ! かわいい!
グウィネは白のワンピースに身を包み軽く髪を結わえている。
彼女の健康そうな褐色の肌に白のワンピースが映える。
やはりグリフにはもったいないな。
ふふ、上手くいくはずだ。
それじゃダブルデートを始めよう!
「俺たちも今来たところですよ! じゃあ、まずはお風呂ですね! ほら、グリフも挨拶!」
「よ…… よろしく……」
だめだこいつ。あとでお説教だな。
◇◆◇
私達は公衆浴場にやってきました。人間の恋愛事情には詳しくないのですが、ライトさんがグリフとグウィネを交際させるために作戦を立てたのです。
隣でグウィネが服を脱いでいます。
やはり大きいですね。
ライトさんはグウィネに洗髪をしてもらう間、彼女の胸を堪能していました。
なぜかグウィネの胸に触れる度に喜ぶライトさんを見ていたら怒りを覚えてしまいました。
自分でもどういう時に怒りが湧くのか分かりません。
人間とはすごいですね。こんな感情を飼いならしているのですから。
私も服を脱いでお風呂に入る準備をします。
ん? グウィネが私の体をまじまじと見ていますね。
「わー、フィオナさんのスタイル素敵! 出るとこは出て、あとは引き締まって! かっこいい体ですね!」
胸を触らないでください。くすぐったいです。
グウィネも準備が出来たようですね。
頭は洗わないのか、タオルを巻いています。
私達は二人、体を洗い湯船に浸かる……
チャポッ……
「はー、気持ちいい。私王都に来て初めてお風呂のこと知ったんですよ。以前は布で体を拭くか、水浴びでしたし」
それは私もです。この公衆浴場にはほとんど毎日来ています。
ふふ、慣れたとはいえ、笑顔が出てしまいます。やはりいいものですね。
「フィオナさん、頭洗ってあげましょうか?」
いいのでしょうか? ここはお言葉に甘えるとしましょう。
グウィネは慣れた手つきで私の頭を洗い始めます。
ゴシゴシ ゴシゴシ
手練れの技ですね。彼女もまた一流なのでしょう。
その後再び湯船に浸かります。
ゴーン ゴーン
二時を告げる鐘が……
待ち合わせの時間ですね。
名残惜しいですが、行かないと。
「ふー、気持ち良かったです!」
ふと体を拭くグウィネを見ると……
やはりグウィネの胸は大きいですね。私より二回りは大きいでしょう。
ライトさんはあれぐらいが好みなのでしょうか?
チクッ
う…… 小さい怒りが私の中で暴れました。
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