第一層
俺達は竜の森の中にある遺跡の洞窟の前にいる。これからこの中に入るのか……
前衛は俺だ。足を踏み入れようとするとフィオナが俺の袖を掴む。
「気を引き締めてください。中には多分魔人か邪神がいます」
ある程度は予想していたけど…… 中にいるのは強敵か。注意していかないとな。
「分かった…… それじゃ行こうか」
中には驚異が待っている。たがそれは行かない理由にはならない。
―――ズシャッ カツーンッ
洞窟に入ると、足音や何かが落ちてくる音が響く。中はかなり狭いな。縦横三メートル前後ってところか。
この狭さなら長物は不利だ。俺はダガーを構え、中衛の二人はショートソードを抜く。
数メートル進んだところで完全に暗闇に包まれた。
「ちょっと止まってください。
―――ポウッ
フィオナの魔法だ。光の玉が辺りを照らす。ありがとな。さて行くか。
俺は魔物の襲撃に備え、千里眼を発動しておく。
いつも通り目にオドを込めると……?
グニャアッ
あれ? 視界が歪む。まともに歩けない。
う…… 気持ち悪い…… 何だこれ?
フィオナが前に出て俺を支えてくれた。
「千里眼を解除してください。ここは魔素が濃すぎるみたいですね。邪悪なオドの大気に阻まれて千里眼が機能しないのでしょう」
マジかよ…… 俺の主力能力の一つが封じられたか。
慎重に行かないと……
しょうがないので千里眼を解除。視界が戻ったところでルージュが話しかけてくる。
「迷宮は初めてですか?」
「もちろん。アルメリアにはありませんからね。知識として知ってるだけなんですよ」
「そうですか。なるべく摺り足で歩いてくださいね。迷宮内部は様々な罠が仕掛けられています。床には落とし穴。壁には槍が飛び出してくる仕掛け。他にも色んな罠があると思います。
足元はもちろん、辺りを不用意に触れないように注意してください」
恐ろしい…… 誰だ、こんな趣味の悪い迷宮を作ったやつは。
俺は不満を感じながらも摺り足でズリズリを先に進む。
くそ、思うように前に進めない。
ん? 前方から何か聞こえる……
カシャン…… カシャン……
ゆっくりと一歩ずつ何かが近づいてくる。その正体は…… なんだ、スケルトンか。確認出来るのは三体。大して強い敵ではない。心配して損した。
「ルージュさん、俺が行きます。みんなは下がっていてください」
「分かったわ。苦戦することはないと思うけど気を付けてね」
この程度なら身体強化術を使うまでもない。一応マナの剣を発動しておくか。
閉鎖空間でも使いやすい長さに調整する。
ブゥン ダッ!
空を切り裂く音と共にマナの剣が現れると同時に俺は魔物に向かって走り出す!
「ライトさん! 下がってください!
フィオナが叫ぶ! な、なんだ!? 足を踏ん張って勢いを殺す! 目の前に天井まで届く岩の壁が出現した!
―――ゴォンッ
轟音と共に壁の横から炎が漏れる! 熱っ! 髪が焦げる匂いがする!
「詠唱無しだから防げて後一回です! みんな、構えてください!」
―――ゴゥンッ ガラガラッ
再び轟音が遺跡内に鳴り響く。フィオナの作った壁は音を立てて崩れ去った。開けた視界の先には薄っすら光る幽霊のようなものが宙を舞いながら魔法詠唱をしている姿がある。
「レイス!?」
ルージュは叫びながら前に飛び出していった! 速い! 人ならざるスピードだ!
身体強化術だろうか? レイスと呼ばれた魔物はアイーシャに向かって火の玉を撃ってくる。詠唱の途中だったのか、小さめなファイアーボールだ。
彼女は遺跡側面を駆け、火の玉を避ける。さらに壁を蹴って今度は天井を駆け始めた。
すごい…… レイスがルージュの攻撃範囲に入った。彼女はショートソードを捨て、腰から短剣を抜く。
その刀身は薄っすら白い光を帯びている。属性武器か?
天井を蹴って地面に降り立った彼女はレイスの胸に短剣を突き立てる。
―――ドシュッ
『オオオオオォン……』
レイスは叫び声を上げ、虚空へと消え去る。凄い攻防だった……
だがルージュは平然と俺達のもとに戻ってくる。
「味方を捨て駒に使うとはね…… 予想以上に手強い迷宮だわ」
「ルージュ、お前その短剣って国宝だろ? 魔剣アパラージタ。なんでお前が持ってんだ?」
「あら閣下、よくご存じで。クーデターの最中、宝物殿から拝借させていただきました。ふふ。だって悔しいじゃないですか、エセルバイドに盗られるなんて」
悪びれもせずルージュは笑う。魔剣か。道理で幽体に攻撃が通るはずだ。
「まったく…… 後でちゃんと返しておけよ!」
「はい、閣下。ねぇ、ライト君。ここにいる魔物は私達が思っている以上に連携が取れています。弱い魔物でも何らかの役割で動いていると思ったほうがいいでしょう。今のスケルトンも恐らくレイスの思念で動いていたと思われます。
ここでは一瞬の気の緩みが死に繋がります。気を引き締めていきましょう。自信が無かったら私が前衛を変わってもいいですよ? 閉鎖空間では私の方が戦闘に慣れていますしね」
むむ…… 耳が痛い。結局この戦いでは俺は何も出来なかった。
彼女が言う通り俺は後ろに下がったほうがいいかな? いや駄目だ。これはプライドの問題じゃない。
「いいえ、このまま行きます。ルージュさんにはおじさんを守る役目があるじゃないですか。俺は最悪、自分の身は守れます。このままおじさんの護衛をしながら中衛をお願いします。そのほうが俺も安心して戦えますし」
「ふふ。分かりました。予想通りの答えが返ってきて嬉しいです。ライト君、私の下で働いてみる気ありません? あなたなら一年で最高のエージェントになれますよ」
「とりあえずアモンを倒してからですね。あ、そうそう。サヴァントに風呂はありますか? 気軽に風呂に入れない国だったら移住する気は無いですよ」
「王都のような公衆浴場は無いですね。でも大丈夫ですよ。閣下にお願いして作ってもらいましょう。ね、閣下?」
「うーん。それは議会を通してからだな。その話は後だ。先に進んでいいか?」
まぁ、風呂とダンスとラーメンがあれば行ってやらんでもないぞ? 少し和んだところで先を進むことにした。
◇◆◇
その後、数回の戦闘を繰り返す。今度は油断することなく対処することが出来た。この階層はアンデッドが多いのかな?
ゾンビやらスケルトンやらリッチやらが多数出てきた。ゾンビの群れはフィオナの魔法の出番だった。
おじさんとルージュは鼻を抑えつつ先に進む。俺達より嗅覚が優れているから余計に辛いんだろうな。俺だって気持ち悪いもん。
ゾンビの死体を掻き分け……いやゾンビって元々死んでるから死体じゃないな。なんて言えばいいんだろうか?
そんな益体も無いことを考えながら先に進む。
進んだ先では道が二つに分かれていた。この場合どうするべきか。ルージュに視線を送る。
「マーキングしてから右から進みましょう。こうして一つ一つの道を潰していくしかありません。行き止まりだったらまた戻ってきて左に進みましょう。こういう迷路はどちらかの壁を辿っていけばその内先に進めるものです」
「それって効率悪くないですか? 道を知ってるんじゃ……?」
「いいえ、全くの手探りです」
「でも部下が調べたって……」
「はい、生きて帰ってきた部下は泣きながら私に帰還報告を済ませると、その場で舌を噛み切って自殺しました。ひどく怯えていました。分かるのはこの迷宮の中に脅威が存在しているってことだけです」
「…………」
やだなにそれ怖い…… 脅威か。フィオナが言ってた魔神のことだろうな。三層構造って言ってたから最下部ではそいつが待ってるんだろうか?
その後も遺跡内を調べて回る。どれくらい歩いただろうか。暗闇なので時間間隔が狂う。
疲れた…… もう五、六時間は彷徨っている気がする。
「ルージュさん…… そろそろ休憩しませんか?」
「もう疲れたんですか? まだ二時間しか経っていませんよ?」
「二時間!? そんなはずは……」
「いえ、間違いなく二時間です。諜報部の訓練で体内時間を正確に計測する技がありますからね。正確には一時間五十四分二十六秒です」
マジか…… その後、ヘトヘトになりながらも何とか下に続く階段まで辿り着くことが出来た。
第二層に到着した俺は一歩も動けなかった。今回はここで休憩だ。
これが後二階層続くのかよ……
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