決戦 其の四

 援軍を得たアルメリア軍の勢いは止まらない。

 獣人の国サヴァントからは恐れを知らぬゴーレム部隊。森の王国アヴァリからはこの大陸で最強の戦力であるエルフが上空から魔法と弓で援護をしてくれてるんだ。


 恐らく魔物は一つの意思のもとで動いているのだろう。ここまで劣勢になったら逃げだすのが必定だが、諦めることなくこちらに襲い掛かってくる。


 まぁ、無駄なんですけどね! 俺を斬り殺そうとハイオークが無骨な剣を振り下ろす。

 それを腕ごと斬り落とす。とどめだ! っと思ったのだがゴーレムがオークに飛びかかり首を掻き切っている…… 

 おいおい、俺の獲物を奪うなよ。


 上空から声がした。見上げると……


「ライト!」


 エリナだ。俺に向かって羽ばたいてくる。


「どうした!」

「南方面の敵は撤退を始めてる! 次はどうする!? このまま殲滅すればいいの!?」


 うーむ。悩むところだ。ここはプロの意見を聞いておくか。俺の後方で剣を振るうクロイツ将軍に意見を求める。


「将軍! 策はありますか!?」

「ライト殿はゴーレム部隊を率いて東門の援護を! エルフ隊はその機動力で北門の魔物の殲滅に当たってくれ!」


「ここはどうするんですか!?」

「流れはこちらにある! 我がアルメリア軍のみで死守するよ!」


 そうだな。確かに今ならみんなに任せても大丈夫そうだ。前線にいる魔物の密度が明らかに薄くなっている。


「分かりました! エリナさんは北門だ! 頼む!」

「分かったわ! クルル! 急ぐわよ!」

『キュアアっ!』


 エリナを乗せたクルルは上空高く舞い上がる。声は聞こえないが、指示を出しているんだろうな。

 エルフ隊は北門へと消えていった。頼んだぞ!


 じゃあ、俺は東門に向かうとするかね! 


「ゴーレム部隊! 今から東に向かう! 俺に続け! 魔物は一体残らず狩り尽くせ!」

『…………』


 ははは、静かなもんだ。まぁ俺の指示には従ってくれてるみたいだから良しとするか。


「行くぞ……」

「ライトさん!」


 いっ!? 後ろを振り向くとフィオナが息を切らして駆けてくる。まったく…… 言うこと聞かないんだから。


「はぁはぁ…… 南はもう大丈夫みたいですね…… 私も一緒に行っても問題無いですよね」

「分かった。どうせ止めたって来るんだろ?」


「ふふ。よく分かってますね。ライトさんは私が守るから安心してください」


 そう言ってフィオナは笑う。はは、それじゃ夫婦のコンビネーションをアモンに見せつけてやるか!


「行くぞ!」

「はい!」


 俺達は東門に向けて駆け出す! 道中魔物の妨害があるが気にしない。


「ゴーレム! 前へ出ろ! 血路を開け!」

『…………』



 カシャンカシャンカシャンカシャンカシャンッ



 俺の指示を受け、ゴーレムが前線に躍り出る。うはっ。土人形の動きとは思えない。

 身体強化術を使った俺より足が速いんじゃないか? 


 小型、中型の魔物に対しては一人一殺。大型には多数で対処している。

 感情が無いゴーレムだからこそなんだろうな。効率よく魔物を退治している。狙うのは急所のみだ。


 体長二十メートルはあろうかというドレイクに対しては数体がかりで首を押さえ、攻撃担当が目を抉りだしている。

 視界を奪った後はすぐに首を落としていた。


「すごいですね! うちのレムも改造してもらいませんか!」

「おいおい! 家政婦用のゴーレムに戦闘力を求めるなよ!」


「ふふ! そうですね! ライトさん! 前!」


 なんだ!? 前を確認する。ワームだ! でかい! 百メートルはあるんじゃないか!? こんなでっかいミミズ、初めて見たよ! 


 フィオナは足を止め、詠唱を始める。そして……



fremeaεfremea超火炎



 ゴゥンッ



 目の前に炎の壁が立ち上る! 熱っ! 熱波が押し寄せてくる!


「ライトさん!」


 はいはい! やって来いって言うんでしょ! 分かってますよ、奥様!


 マナの剣を振るい、炎の壁を切り裂く! 視線の先にはのたうちまわる大ミミズ! 気持ち悪っ! 剣を水平に構え…… 


 駆け抜ける! 


「うおぉぉぉぉっ!」



 ズバババッ!



 音を立て、ワームの体を切り裂いていく! 尻尾なのか、頭なのか分からんが、最後まで刃を走らせる! よし、でっかいのは始末したぞ! 


 今度は嫁さんに活躍してもらおうか!


「フィオ……」

maltavuallth黒嵐!】



 ギャンッ ゴォォォッ!



 風の超級魔法か! 俺の前方に見たこともないぐらいの大きさの竜巻が起きる! 怖っ! 

 竜巻は魔物を飲み込んでは引き裂いていく。あの竜巻、数百メートルはあるんじゃないか!?


 これってこんな強い魔法だっけか!? そうか、そういえばデュパ特製の杖だったもんな。たしか、威力が二倍になるとかなんとか言ってたし。このエグイ威力にも納得だわ! 


「フィオナ! ここで黒嵐を連発しててくれ! ゴーレムの半数はフィオナの援護をしながら、魔物を狩り続けろ!」

「ライトさんはどうするんですか?」


「このまま東門に向かい、アルメリア軍を援護する! フィオナは魔物を減らしながらゆっくりと東に向かってくれ! 途中で合流する!」

「分かりました! ライトさんも、気を付けてくださいね!」


「はは! 一緒に行くって言わないんだな!」

「もう! からかわないでください! 今が魔物を抑えるチャンスなんでしょ!? 真面目にやってください!」


 怒られちゃった。ははは、ごめんね。


「じゃあ、行ってくる! フィオナも気を付けて!」

「はい!」


 俺はゴーレムを引き連れて東門に向かう! きっと苦戦してるはずだ。

 だがこのまま進行すれば防衛隊と俺達で挟撃の形が取れる。


 魔物を退治しつつ、東門に向かう……のだが、予想外なことが起きていた。苦戦どころか、優勢だ。何が起こった? 


 答えはすぐに分かった。大勢のトラベラーが魔物を血祭りにあげているのだ。でも大勢過ぎない? 

 各門に千人程度しか配置されてないはずなのに、三千人はいるんじゃないか? その中に見慣れたヤツがいた。

 ヒゲ……いや、シグが最前線で剣を振るっていた。


「シグ!」


 俺に気付いたシグは横にいるワーウルフを一瞥もせずに剣を突き立てる。


「ライト殿。ご無事で何よりです。爆散!」



 ドカンッ!



 うはっ!? シグの魔法剣を食らった魔物の肉片が飛んできた! 相変わらずエグいな!


「お前も無事でよかった! でもなんでこんなにトラベラーが!?」

「東門と北門に援護が来ましたからな。優勢になったので、守りの薄い東門に私達が派遣されたのですよ」


 なるほど。いい判断だ。各門の隊長は相当優秀みたいだな。


「分かった! なら俺に続いてくれ! このまま東の敵をせん滅する!」

「仰せのままに」


 相変わらず冷静だな…… いや、これがトラベラーの正しい姿か。俺とトラベラー、ゴーレムは進路を東に取る。まずはフィオナと合流だ。


 どこにいるかはすぐに分かる。フィオナの黒嵐に向かって行けばそのうち会えるだろ。

 巻き込まれないように気を付けないとな……


 敵を斬り伏せながらフィオナのもとに向かう。かなり魔物の群れの密度が薄くなってきた。

 東もこのまま行けば大丈夫だろうな。そのまま歩みを進め、フィオナのもとに到着した。


「フィオナ!」

「あれ? 早いですね。東は大丈夫なんですか?」


「あぁ! エルフとトラベラーが予想以上に優秀でね! 門の守りはもう大丈夫だよ!」

「そうですか! なら魔物を退治するだけですね! maltavuallth黒嵐!」


 フィオナの魔法が敵陣を切り裂く! 

 ちょっと疲れたみたいだな。懐からマジックポーションを取り出して、一息に飲み込むと顔色が良くなった。


「うぇ…… 苦いです。この戦いが終わったら、ワインかブランデーが飲みたいですね」

「はは! いいともさ! 戦いが終わったら大宴会を開こう! みんなを呼んでさ!」


「いいですね! じゃあ、ポテトのタルトが食べたいです! 作ってくれますか?」

「何個でも! お任せを! 奥様!」


 思わずフィオナを抱きしめてしまう。いかんな、戦いの最中だってのに。

 でもフィオナもまんざらじゃないみたいだ。ちょっとはにかんでから目を閉じる。

 あらら。キス待ちですか? では喜んで。



 フィオナの口にキスを…… 



 ―――ゾクッ

 

 

 口が触れた瞬間、殺気を感じた。


 出たか……


 フィオナ、シグ、トラベラーの全員が東を向く。


 俺の旅の目的。


 俺の仇。

 

 こいつを倒すために俺は強くなった。


 三年ぶりか? 


 会いたかったよ……


 アモン……


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