救えた命

 トントントントン



 野菜を切る軽快な音が台所に響く。

 俺は今、朝食を作っている。

 ジーナ家の台所を勝手に使ってるんだけどな。

 

 これはサニーのための朝食だ。

 病み上がりなので固形物は受け付けないだろう。

 野菜を丁寧に裏ごしした卵入りのスープを作る。

 病気した時に母さんがよく作ってくれた。

 今でも俺の好物の一つだ。


「ライトさん……? サニーはどうなったんですか……?」


 ジーナが起きてきた。

 そうか、ポーションを飲ませたこと知らないんだったな。


「もう大丈夫ですよ! 薬もしっかり飲ませたし。薬草のストックも大量に持ってきました。作り方はフィオナに聞いてください」

「あぁぁっ! ありがとう! ありがとうございます!」


 ジーナは泣き出してしまった。

 でもその涙は娘が助かった喜びによるもの。

 嬉し泣きってのはいいものだな。


「泣かないでください。もうすぐサニーが起きますよ。お母さんなら笑顔でおはようを言ってあげないと!」


 ジーナを宥め、寝室に向かう。

 フィオナも起きていた。杖を構えている。

 万が一の時はすぐに回復魔法を唱えるそうだ。


 ジーナがサニーの頭を優しく撫でる。

 するとゆっくりとサニーの目が開き……


「ママ…… この人達だれ……?」

「サニー! あぁっ! 神様! ありがとうございます!」


 目覚めたサニーを抱きしめる。

 よかった。苦労した甲斐があった。

 その光景を見て目頭が熱くなる。俺はサニーに近づいて……


「おはようサニー。俺はライト。ママのお友達だよ。こっちはフィオナ。すごい魔法使いでね。君を助けてくれたんだよ」

「そうなの……? ありがとう…… おじちゃん、フィオナさん。ママ…… お腹すいたよ……」


 おじちゃんは少々いただけないが、気にしない。

 小さい子から見れば俺なんておじさんみたいなもんだろうからな。

 それに何故か俺は昔から年上に見られがちだ。

 この話し方が原因らしい。昔からおっさんみたいな話口調だからな。


「おじちゃんか…… サニー、スープ作ったけど食べられるか? 栄養たっぷりだから食べればすぐに元気になるぞ!」

「うん…… 食べたい…… お腹ペコペコ……」


 弱々しくも笑顔でサニーは応えてくれた。食べられそうだな。

 熱いから冷ましながらして飲むんだぞ。

 ジーナに支えられながら、サニーはスープを口に運ぶ。

 

「おいしい…… おじちゃん、もっとちょうだい……」


 よかった。食欲もしっかりあるようだ。

 美味しそうにスープを飲むサニー、喜びの涙を流すジーナ。

 その光景に自然と笑顔になってしまう。横を見ると…… 


 フィオナも笑っていた。


 昨日見た笑顔は幻ではなかったのか。

 月明りの下で見たフィオナの笑顔はとても美しく幻想的だった。

 今この心温まる光景の中で笑うフィオナはまるで聖母のようだ。


 昨晩も思ったのだが、トラベラーには喜怒哀楽の感情が無いはずだ。

 喜びの感情が無いと笑えないはず…… 

 フィオナも喜んでいるのか? 


 色々考えることはあるが、これでいいんだろう。

 これからもフィオナと旅を続ける。

 感情が無い人形と一緒にいるより、笑いあえる仲間がいた方がずっといいからな。


「ジーナさん、俺達は旅を急ぎます。本当は今日にでも発つ予定でしたが、もう少しだけサニーの様子をみたいので、また来てもいいですか? あと二、三日は滞在しようかと思います」

「もちろんです! あなた方は命の恩人です! 私に出来ることであればなんでも致します! お金が必要でしたら、家を売ってでもお渡しいたします!」


「いやいや! 必要無いですから! それよりも明日もスープを作りに来ていいですか?」

「感謝いたします! あなた方に神のご加護がありますように!」


 ははは、加護は加護はもう貰ってるよ。

 俺達は二日間サニーの元に通いスープを作った。

 薬の作り方も教えた。もう大丈夫だな。

 

 その翌日……

 俺は親子に別れを告げ、王都に向けて旅立つ。

 俺達を見送るためにサニーとジーナが町外れまで来てくれる。

 彼女は笑顔で手を振って……


「おじちゃん、フィオナちゃん! また来てね!」


 ははは。結局おじちゃんのままか。

 また会いにくるからな。今度はお兄ちゃんって呼んでもらおう。


 俺達は笑顔で二人に手を振り返す。さて行くか! 

 次の目的地は第二の宿場町ルセだな!



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