レイ 其の二

『「勝負っ!」』


 掛け声と共に戦いが始まる。

 右手は付けたまま、対手の構えのままで。

 右手から感じる動きでどんな攻撃が来るか分かる。

 それはレイも一緒なんだろうけどね。


 まずは…… 重心が僅かに左にずれてるな。左拳……いや違う! 左下段蹴りか! 


 俺は右足を軽くあげ、レイの下段蹴りを受ける。

 こうすることで蹴りの勢いを殺し、防御することが出来る。

 まともに蹴りを食らったら足が折れるだろうな。


 

 バシィッ!



 蹴りを受けた後、レイは次の攻撃に移ろうとする。

 させるかよ。今度は俺の番だろ? 


 俺は左手に持ったダガーで、レイの喉元を狙う。

 まともに当たるとは思ってないよ。

 あっさりとレイは俺の攻撃を避ける。


 それも想定済みなんだよ……


 レイが俺の攻撃を避けきったところでマナの剣を発動! 

 伸びた剣先がレイを襲う! 



 ブゥンッ



 だがレイはそれに動じることなく瞬間移動で距離を取る……ことは無く、再び同じ場所に現れる。


 超至近距離! やべっ! ちょっと予想外! 俺は高速回転クロックアップと並列思考を発動!



 すまんがレイの動きを見ておいてくれ! 


(任せろ! レイは崩拳を放とうとするが、それはフェイントだ! 蹴りでお前の顎を狙ってくる! 避けられるか!?)


 いや! 敢えて喰らう! お前は俺の意識がぶっ飛ばないよう、意識を保っておいてくれ! それと回復よろしくな!


(相変わらず人使い荒いな! やってみる!)


 レイは崩拳を放つ。心の俺が言った通りだな。俺は避けるフリをして……



 ゴリッ



 下から鋭い蹴りが俺の顎に命中。目の前が一瞬にして真っ白になる。

 だが俺の意識は完全に飛んではいない。


 くそ、顎が砕けたな。口の中がカチャカチャうるさい。下の歯が全部折れたか。


mastdalma超回復!)


 サンキュー! 俺! 


 砕けた顎は一瞬にして治癒し、新しい歯も生えてきた。 

 俺は口の中に残った歯をレイの顔に目掛け…… 噴き出す!



 ブブッ! グサッ!



『うっ!?』


 はは、これはお前も予想外だろ。

 散弾のように歯がレイの顔に突き刺さる! レイが体勢を崩した! お返しだ! 

 よくも俺の甘いマスクを! 俺はレイと同じ蹴りをレイの顎目掛け……


(お前、思ってて恥ずかしくないのか? レイはその攻撃は避けるはずだ! 前方二十メートルに魔法を放て! valtiasantζa石槍だ! カウントダウンするぞ! 3…… 2…… 1……)



 シュンッ



 レイは俺の蹴りを瞬間移動で避ける! 

 俺はカウントダウンに従い、岩槍を発動! 

 前方二十メートルだったな。せーの!



valtiasantζa石槍!】



 ズゴンッ! ドシュッ!



 地面から先端の尖った岩がせり上がると同時にレイが現れる! 

 岩槍はレイの足の甲を貫いた! 

 あっけにとられたレイだが、すぐにいつものかわいい笑顔に戻る。


(お前なぁ。自分と同じ顔をかわいいとか…… 俺ってそんなナルシストだったか?)


 はは、冗談だよ。

 でもレイはそんなに驚いてないみたいだな。


(そうだな。あいつも俺と同じ力を持ってるんだ。想定済みってとこだろ?)


mastdalma超回復


 レイは回復魔法を発動し傷を癒す。

 穴の開いた甲はあっという間に塞がった。

 さて振りだしだな。


 レイはパンパンと服に着いた埃を払い、笑顔で話しかけてくる。


『あはは、すごいね、ライトは。あの蹴りが決まった時は勝ったと思ったよ。あれは意識を刈り取るための攻撃だったのに。どうやって意識を保ってたの?』

「我慢だよ。人間、覚悟があれば大抵のことは耐えられるからな」


『ふふ、人間って。もう君は神様なんだよ。自覚が無いのも相変わらずだね』

「それを言ったらお前もだろ? どうだい、神様。こうして戦っても埒が明かないだろ? せっかくだから話し合いで解決しないか?」


『あはは。僕を説得出来ないことなんて君が一番よく知ってるでしょ? 僕は頑固なんだよ』


 まぁそうだよな。じゃあ戦いの続きと行きますか!


 持てる全ての力を使う。


 1521回目の転生で習得した時空魔法。

 それを使い、体内時間を限界まで速くする。

 思考も肉体もそれに応じて速くなる。


 4088回目の転生で習得した空間魔法。

 瞬間移動で戦場をひっかき回してやる。


 12439回目の転生で習得した並列思考。

 思考出来る最大限。八つの思考でレイの動きを探る。


 はは、レイも同じことが出来るんだから、戦局は変わらないんだけどね。


 攻撃する。捌くを繰り替えす。


 俺のダガーがレイの頬を掠る



 ピッ



「はは、やっぱりレイはすごいな。こんなに強いヤツと戦ったのなんて初めてだよ」


 レイのマナの剣が俺の左腕を斬り落とした。



 ザンッ



『ふふ、すごいのはライトだよ。でもすごいってのは体の強さのことじゃないよ』

mastdalma超回復。ん? どういうことだ?」



 バキィッ



 俺の下段回し蹴りがレイの膝に命中。

 足が変な方向に曲がった。折れたかな?


『ライトの強さの源は心の強さにあるんだ。考えてごらん? 君は最強を望んだ訳ではない。ただフィオナに会いたい。その一心で今に至ってるじゃない?』



 ゴウッ



 レイの放ったfremeaεfremea超火炎が俺の体を包み込む。

 あちち、ひどいな。勘弁してくれよ。


「そうかな? でも好きな人に会いたいって普通のことだろ。別に俺が特別って訳じゃないさ」



 バリバリバリバリッ



 お返しだよ。vaggauratalを至近距離から放つ。

 レイは青白く感電しながらも攻撃を続ける。会話を止めることなくね。


『あはは。七十五万年以上もたった一人で好きな人に会うために異界を渡り歩く人なんていると思う? 普通なら途中で諦めちゃうはずだよ。そんなことが出来るのは君ぐらいさ』

「そんなもんか? でも考えてみろよ。フィオナほどの女だぞ? 簡単に諦められると思うか? 美人だし、おっぱいも大きいし」


『あはは、ライトは変わらないね。そんなライトだから僕は君が好きなんだ』


 好きか…… 

 俺もだよ。レイ、俺はお前が大好きだ。

 だから…… お前を倒すんじゃない。


 救うんだ!



 バキィッ!



 俺の右拳がレイの顎を打ち抜いた。

 まぁ俺もレイの打撃を顎に喰らったんだけどね……


 

 ドサッ



 俺達は仲良く地面に倒れ込む……


『ふふふ…… さすがはライトだ…… こうして戦い続けても勝敗が決まるとは思えないね……』

「あぁ、全くだ…… どう? もう止めにしない? 王都も大分壊れちゃったみたいだしさ」


 俺達は王都中央広場を中心に戦っていたのだが、周りは既に瓦礫の山と化している。

 復興には時間がかかるだろうな……


『そうだね…… もう止めようか……』


 願いが通じたか? 

 俺はゆっくり起き上がる。レイも同様に起き上がるが…… 


 レイの顔が目に入る。


 笑顔だ。


 寂しそうな笑顔。


 ははは…… お前、止める気なんてないじゃん。

 この顔は覚悟を決めた顔だ。


『これが最後…… この一撃で僕は世界を壊す……』



 ギュゥゥゥンッ



 レイに大地のマナが集まってくる。何をする気だ? 

 マナがレイの右手に集束していく。すると……

 レイは黒い塊を創造した。これは……?


『おっと。気を付けないと空に向かって落ちるんだよね。ふふ、不思議だね、エキゾチック物質って』



 ―――ゾワッ



 背筋が寒くなる。



 やばい。



 直観した。



 レイが次にやろうとしていることを……



『ごめんね。僕の勝ちだ。さよなら…… ライト……』


 レイはエキゾチック物質を空間の断裂で分解する。



 キュゥゥゥゥンッ



 レイはエネルギーとなったエキゾチック物質を取り込む。

 そして亜空間から弓を取り出して、マナの矢を創造する。



 そう、brakiaфholvia黒洞のマナの矢を……



 大量のエネルギーを取り込んだ黒洞は世界を壊すには充分過ぎる威力を持っているだろう。


 どうする? 


 これの攻撃を止めなければ世界が終わる。


 考えろ。


 俺もbrakiaфholvia黒洞を使う? 


 駄目だ。余計状況が悪くなる。


 どうすれば? このままではみんなは……


 レイは弓を引き絞り、矢を放つ。

 地面に突き刺さった黒洞は……



 ズズズズズッ……



 ゆっくりと全てを飲み込んでいく。

 黒洞…… 死を連想させるほど禍々しい黒だ。

 このままでは世界が終わる。

 

 ヤバい! 止めなくては! これを消滅させるには……


 よく分からん! もう何でもいい! 出来ることをしよう! おい、俺! どうすればいいか考えろ!


(俺だってよく分かんねぇよ! お前、黒洞を死と連想したろ!? だったらその反対のことをしてみろ! それぐらいしか思い浮かばねぇよ!)


 死の反対!? 生!? 

 黒の反対!? 白!? 

 そんな魔法あったか!?



 あ…… あったかも……



 一度だけ見たことがある。



 最初の世界で見た。

 森の王国、アヴァリで発生したスタンピード。

 その魔法一発で全ての魔物を消滅させた。



 フィオナの使った神級魔法……



 maltasantmelθth聖滅光



 全てを浄化する聖なる光。



 もしかしたら……


 俺は弓を取り出す。


 レイと同じくエキゾチック物質を創造する。


 それをエネルギーに変えて、体に取り込む。


 体を焼くほどの魔力が体中を暴れまわる。


 イメージする。


 全てを癒す優しい光。


 悪を滅する正義の光。


 俺が産まれた時に父さん、母さんが俺に向けてくれた笑顔。


 俺を父と慕ってくれるチシャの笑顔。


 お転婆娘のサクラの笑顔。


 そして……


 フィオナの笑顔。


 体の中を暴れていたマナを右手に集める。


 イメージする。


 全てを浄化する……


 聖なる光の矢を……



 ズシッ



 右手に重量を感じる。目を開けると、白く光り輝くマナの矢が……


 やった。成功だ。直ぐ様弓を構える。



 ギリギリギリギリッ



 渾身の力を込めて弓を引き……


 放つ!



 シュオンッ



 矢は黒洞に吸い込まれるようにして消える。



 ズズズズズッ ズズズッ ズッ……



 黒洞は次第と地面、周りの瓦礫を吸い込むのを止め、黒いその姿を灰色、そして白へと変えていき……


 そして最後は……



 フッ……



 虚空へと消え去った。


 レイはその光景を茫然とした表情で眺めている。


『そ、そんな……』


 俺はレイに向かい歩みを進め、すぐそばに寄った時……


「なぁレイ。力が拮抗してる時はどっちが勝つんだっけ?」

『え……? お、想いの強い方……?』


「そうだな。じゃあ俺の想いの方が強かったってことで…… 俺の勝ちだな!」


 俺の右拳がレイの横っ面を殴る! 

 渾身の力で顎を打ち抜く! 



 バキィッ



『…………』


 レイは悲鳴を上げることなく、地面に倒れ込む。



 ドサッ



 神の力を得ているとはいえ、体は人そのもの。

 今の一撃を喰らえば、しばらく意識は戻ることはないだろう。


 ふぅ、何とか勝利したようだ。

 今になって震えがくるよ……


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