270.双銃の死神 前編
──side Aim──
双銃のラル=フェスカを構えた俺は、『死圧』を解除し、常用するスキルを『危機察知』へと切り替える。立ち上がったドレグの纏う雰囲気から、目の前の男が『死圧』の通用しない存在であることを、本能的に感じ取っていた。
(考えてみれば、あのシルヴィアの父親なわけだし、それもそうか)
最終的な結果はどうあれ、この男の元でシルヴィアは研鑽を積み、そしてあの神速ともいうべき速度を手にしている。決して油断できる相手でも、手加減できる相手でもない。
「……おおよそただの青年が放てる覇気ではないな。娘の目も、曇ってしまったわけではないらしい」
「そりゃどーも」
「これは私も、久々にこれを見せねばならぬな……『
そう呟いたドレグの体が光に包まれたかと思うと、次の瞬間ドレグは黄金の鎧を纏い、黄金の剣と盾を手にしていた。光り輝きすぎてて少し眩しい。
「へぇ……便利なスキルだな」
「驚くのには少々早いぞ」
「!?」
正面から鳴り響く『危機察知』の反応に、反射的にその場から跳び退る。俺の元いた場所には、剣を振り下ろしたドレグの姿があった。
「速すぎるだろ……その鎧、実はプラスチック製だったりしないよな?」
「どうだかな」
身軽な状態であれば、その速度はシルヴィア以上ということになる……そんなことがあり得るのか?何かがおかしい気がする。
(単純な速度でないと仮定すると……スキルの能力か、もしくはあの鎧に何か秘密があるのか)
あの速度相手では、こちらの分が悪い。攻略法を探るためにも、まずはドレグから多くの情報を抜き取る必要がある。
とりあえず、一度狙われると面倒なことになりそうなので、絶えず不規則な移動を織り交ぜ、ドレグに向けラルの銃弾を放つ。
「ぬぅん!!」
「やっぱり防がれるか」
何を素材に作ったらそんな盾ができるのかと物申したいところではあるが、何となくそんな予感はしていた。見たところ鎧にも同じ素材が使われているようなので、盾を攻略して着弾しても致命傷にはならないだろう。
『
「せあっ!!」
「厄介だなおい!」
全身鎧に剣と盾、考え得る最大重量の装備を身に付けながら、何故俺がスキルなしで反応できないほどの速度を出せるのか。普段目の前でシルヴィアの姿を見慣れている俺が、視認できないほどの速度が。
(……いや、謎の解明は良い。どうせするだけ無駄だ)
スキルにしろ、鎧の効果にしろ、その他の手段を使っているにしろ、以前の日本では考えられないような能力が跋扈する世界だ。あの速度を実現する手段はいくらでもあると思っておいた方が良い。
重要なのは、どうすればあれを攻略、もしくは無力化することができるのか。
ドレグの周囲を駆け回り、意識の隙を縫ってラルとフェスカを乱射する。
「何度やっても無駄なこと!」
「……あれだけ速いくせに、避けたりはしないんだな」
ドレグは先程から攻撃を避けることはせず、全て盾で受け切っている。四方から放たれる銃弾を左手の盾一つで受け止めるその技量は流石の一言だが、攻撃を躱した方が楽なのではないかと思うのは、何ら不思議なことではないだろう。
(一度試してみるか)
速度の正体について考察している間に、ドレグが更なる攻撃を仕掛けてきた。俺はけたたましい『危機察知』の反応を理性で抑え込み、薙ぎ払いを攻撃が当たるスレスレで体を捻って回避する。
「ふん!!」
「むぅ!?」
そしてその捻った体を元に戻さず、勢いそのままに地面に手をついて、後頭部を思い切り蹴り飛ばす。
「……痛ぇ」
「……中々やるではないか」
当然俺の蹴りなどではドレグの兜を突破できるはずもなく、帰って来たのは固い感触なのだが、それ以外にも手応えはあった。
(防御や回避には使用できないか……もしくは、連続使用ができないのか)
俺の蹴りに反応出来なかったということは無いと思うので、このどちらかの可能性が高そうだ。両方っていう可能性もあるな。
「それなら、やりようはある」
「ふん。どちらにせよ、貴様の攻撃では我の防御を砕くことはできん」
それはどうだろうな。
「別に鎧を突破する必要はないだろ」
「……!!」
ドレグに向け、回避する隙を与えない程の弾幕射撃を開始する。鎧を貫通させることは出来ないが、それでも着弾の衝撃は、盾を持つ左手、鎧を纏う全身に伝わっていく。それを休む暇もなく続けていけば、
「ぐぬぅ!!」
「ま、そう来るよな」
衝撃に耐えながら、盾に体を隠し突進を開始するドレグ。だがそれは想定の範囲内だ。
「ぬぁ!?」
ドレグの足元にフェスカの弾丸を放ち、地面を砕いて態勢を崩させる。
「そこ、ちょっと危ないぞ」
「!?」
今度は真上にラルの銃弾を撃つ。ドレグが止まった上にあるのは、煌びやかな装飾を輝かせるシャンデリア。ここまで行けば、誰であっても俺の狙いはわかるだろう。
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