21.ガイとカルティ

「よろしくな、坊主」



 ニカッ!と男らしい笑顔を見せるガイさん。そのガッシリとした体格も相まって、とても頼りになりそうだという印象を受ける。



「そんでもって、あたしがカルティ・ローレンガーだ」

「うお!?カルティ、いつの間に下りてたんだ?」

「カルティさん!怪我は大丈夫でした?」

「ああ、シルヴィアちゃんが身を挺してくれたおかげでね」



 ガイさんの横からひょこっと現れたのは、車の荷台に乗っていた人物だ。俺の位置からはスタスタ歩いてくるのが見えていたが、二人の位置だと見えていなかったんだろう。



「まずは再会を喜びたいところだけど、エイムと言ったね?」

「……?はい」

「シルヴィアちゃんを助けてくれて感謝するよ、本当にありがとう」

「い、いやいや!むしろ助けてもらったのは自分の方ですから、そこまでして頂かなくても」



 カルティと名乗った女性は、俺に対して深々と頭を下げる。多分ガイさんとそこまで年齢は変わらないだろう人にそんな態度をとられると、逆にこっちが恐縮してしまう。


 それに俺の言ったことはお世辞でもなんでもない。シルヴィアがいたからこそあの地獄を抜け出すことができたんだ。もし俺が一人だったなら、ゴーレムを倒すのも、あの石盤が出口へと繋がっていると気付くのにもかなりの時間を要したはずだ。



「シルヴィアは自分のお陰と言ってくれましたけど、それはお互い様ですし!」

「カルティ。気持ちは分かるが、坊主も居心地が悪そうだぜ?そこらへんにしといてやれよ」

「……まったく、あんたが情けないからシルヴィアちゃんを置いてくことになっちまったんだよ?そこらへん、ちゃんと理解してるかい?」

「俺に飛び火が来た!?……ま、それに関しちゃ悪かったと思ってるけどよ」

「まぁまぁ。それで結果的にエイムに出会えたわけですから、結果オーライってやつですよ、カルティさん」



 話の流れから察するに、この三人でここを出るときになにかしらトラブルがあったんだろう。その結果シルヴィアだけあそこに残る事になってしまった、って感じか。


 不謹慎というか失礼だから口には出さないが、俺個人としては残ってくれたことに感謝したい。


 それと話を聞いていて思ったが、ガイさんとカルティさんはなんというかお互いに遠慮がない。性が同じローレンガーだし、夫婦だったりするんだろうか?何やら言い合いをしているが仲は悪くなさそうだし、シルヴィアがこの二人と常に行動しているなら、居心地が悪くなるときもありそうだ。



「さてと。お互い色々と聞きたいことはあるだろうが、とりあえず帰りながら話すとするか?」

「そうだね、エイムもそれでいいかい?」

「はい、大丈夫です」

「うし、なら乗りな!乗り心地は保証しないけどよ」



 見るからに悪路だし、それは仕方がないと思う。


 ガイさんは運転席に、他三人は荷台に乗る。まもなく車が発進し、ガタガタと音を立てながら進み始めた。中々のスピードだ、弱い人なら揺れも相まって乗り物酔いを引き起こすだろう。



「じゃ、このまま無言で過ごすってのもなんだし、この三年間で君の体験したことを語ってくれないかい?一応、私達はそういう情報収集も生業の一つだからね」

「はい、そうですね───」



 シルヴィアには一度話したが、その時は大雑把にしか話していなかったので、今度は詳細に三年間のことを二人に話す。勿論【死神リーパー】のことは伏せつつだが、それ以外は基本的にすべて正直に話した。



「───で、あとは湖でシルヴィアに出会って、そこからゴーレムを倒して、あそこから出てきた、って感じですね」

「改めて聞いてもとんでもない人生送ってるわね、エイム」

「ああ、人生で一番濃い三年間だったよ」

「……」

「……えっと、カルティさん?」



 長い時間をかけて話したが、カルティさんの反応がない。シルヴィアの方を向くが、彼女も首を傾げている。一体どうしたんだろうか?



──ガバッ



「うお!?」

「ちょ、ちょっとカルティさん!?」

「頑張ったねぇ、よく頑張ったよ…」



 何が起こったのかというと、カルティさんが突然俺を抱き寄せて、そのまま頭をなで始めたのだ。あまりにも唐突だったので避けられなかった。



「カ、カルティさん、それは流石に恥ずかしいですって」

「ガッハッハ!諦めな坊主、そうなったカルティはしばらく止めねぇからよ!」



 今まで運転していてずっと無言だったガイさんが、こちらに向かって語りかけてきた。その余裕があるならやめるように言ってほしい。


 少々力を入れれば抜け出せるかもしれないが、車の荷台の上という不安定な場所で多少なりとも暴れることになるし、何よりカルティさんに悪意はない。


 どうしたものかと頭を悩ませていたが、満足したのかカルティさんは俺の頭を解放してくれた。



「よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」

「……はい」

「坊主、顔が赤いぜ?」

「こっちは後ろなんだから見えてないでしょう、見えてるならちゃんと運転してください」

「急に遠慮なくなったな!?」



 人のことを茶化したんだからこのくらいの反撃は許してほしい、というか許せ。

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