22.職球

 車に揺られながら、俺達の会話は続く。



「それにしても、まさかあの迷宮に職球ジョブスフィアがあったなんてね」

職球ジョブスフィア?」

「エイムが言っていた光る球体のことだよ、職業を人に与えるから職球ジョブスフィアと呼ばれているんだ」



 へぇ、あの球体にそんな名前があったのか。



「結構な貴重品でね、日本列島には今の所三つしかない」

「三つ!?」

「ええ、それもこの列島で確認されたのは一つだけ。あとの二つは私達の国から提供したものよ、私達の国にも5つしかないわ」



 そんな貴重品をただで提供するなんてありえないな、一体日本は何を対価にしたんだろう。



「もしエイムが見つけたのが汎用型なら私達は数年遊んで暮らせただろうけどねぇ」

「……タイプとかあるんですか?」

「ああ、適正ありと判断された職業の中から自分で選んで移植してもらうのが汎用型だ。エイムの場合、【銃士ガンナー】の職業以外は選択できなかったんだろう?」

「そうですね」



 そもそも選択という余地すらなかった気がする、思えば随分強引にこの職業に就かされたな、俺。


 加えて職業を移植されたときにかなりひどい目にあった気がするが、あれは【死神リーパー】に限った話じゃないんだろうか。



「実際に見たわけじゃないから断言はできないけど、それはおそらく特化型の職球ジョブスフィアだね。1つの職業のみを移植するしかできないし、一度移植すると大体はその役目を終える」

「確かに、自分の時も移植を終えたら機能を停止していました」

「だろう?ま、大抵その1つの職業が強力だったり、希少だったりするからどっちが優秀かは判断が難しいんだけどさ」

「だけどもし汎用型が見つかっていたら、日本にもう一つ防衛拠点を立てることも可能になるからね」



 なるほど、確かにそれだけの貴重品を見つけたとなれば、その功績は凄まじいものになるだろう。数年遊んで暮らせる、というのにも納得だ。



「でも、あそこからあれを持ち出すってちょっと想像できないんですけど」

「そうだね。蔓延的に戦力が不足している現状だとちょっと厳しいかもしれない」

「せめて私達の国から、もうちょっと兵を貸してくれればいいのに……」

「無理だろう、あっちはあっちで魔獣の活性化が深刻だしね。今は【勇者ブレイヴ】がなんとかしてくれているらしいけど、いつまでも王都に留めておくわけにもいかないだろうし」



 ……勇者なんて職業もあるのか。国の問題を一人でなんとかできるなんて、やっぱり強力なスキルが使えたりするんだろうな。ちょっと羨ましく思うが、しがらみも多そうだ。魔王を倒せ!とか言われそうだし。



「エイムの場合、その奥に武器まで用意されてあったって話だから特化型で間違いないわね」

「そっちの武器を渡す球体については私もちょっと分からないんだよねぇ、結構知識には自信がある方なんだけど。それにしても、聞いた話だと日本では銃は持つだけで違法だったんだろう?よく適正があったね」

「そうですね、それは幸運だったと思います」



 本当は違うんだけどな。だが今の話を聞く限り、予想通り【銃士ガンナー】の人口はかなり少なそうだ。これなら俺の本当の職業が【死神リーパー】だということがばれる可能性も一気に低くなる。


 もしかしたら別にバレても問題ないということもあるかもしれないが、その可能性が確証に変わるまでは秘密にしておきたい。なんだかとてつもなく嫌な予感がするんだよな。


 昔から俊やなぎさに「嫌な予感だけはよく当たるよね」と言われていたし、この感覚にはなるべく従うようにしている。


 あ、銃の話で思い出したが、これは確認しとかなきゃいけないな。



「そういえば、日本の法律とかどうなってるんですか?」



 そもそもこの国だと、刀や剣の類でさえも持ち出しは制限されていたはず。シルヴィアは普通に持っているし、ガイさんとカルティさんはまだ見ていないが、何かしら武器を持っているはずだ。


 そこらへんの規制はどうなっているのか、確認しておかなければならない。そう思っての質問だったのだが、カルティさんは質問の意味を正しく理解してくれたらしく……。



「確か銃刀法だったかい?その法律、というか以前までの法律はほとんど意味を為していない、というのが現状だね」

「勿論人を殺しちゃいけない、とかの倫理的な所は未だに変わっていないけど、私達の国と日本ではそもそも文化が違いすぎるし、その辺りの擦り合わせはまだ出来ていないのよね」

「お互い急激な変化に対応するのに今でも必死だからね、細かいとこまで気にしていられない、って感じなんだよ」



 それでよく今まで国を維持できていられるな。元々シルヴィアの国は荒事にもある程度慣れているだろうし、略奪にきたら日本なんて平和ボケした国じゃすぐに陥落してしまうと思うんだが。


 そんな疑問を頭に思い浮かべていると、突然車が急停止する。



「わ!?」



 その衝撃でバランスを崩したのか、俺の元にシルヴィアが飛び込んできた。流石に避けるのはあれだと思ったので、ぽふんと衝撃を逃がすようにして受け止める。



「大丈夫か?」

「え、ええ。ごめんなさい。す、すぐ離れるわねっ」



 シルヴィアは恐縮した様子で慌てて俺から離れる。別にどちらにも非はないんだが、なんとなく微妙になった雰囲気に居心地の悪い思いをしていると、そんな俺達をよそにカルティさんが運転手のガイさんに向かって語りかける。



「あんた、どうしたんだい?」



「──魔獣だ。完全に道を塞いでやがる、こりゃやる気だな」

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