23.三人の実力

 荷台から立ち上がって周りを見渡すが、それらしき姿は見えない。というか俺の目が日の光に慣れなれてなさ過ぎて先が見渡せない。


 これは慣れるのにちょっと時間がかかるかもしれないな。俺の戦闘スタイル的にこの距離が見渡せないというのは死活問題だから、なるべく早くなんとかしたいところではあるが。



「ここの辺りとなると……ゴブリンかい?」

「多分な、数は6。そこまでデカイ反応はない」

「分かったわ、エイムはここにいて」

「いや、俺も……いてッ」



 一緒のいく、という言葉を続けようとしたが、シルヴィアがピンっとデコピンしてきてそれを止めた。普通に痛い。



「あんた見えてないでしょ」

「……」



 バレてる。それらしい素振りを見せた覚えはないんだが。



「見えてない、ってどういうことだい?」

「多分、太陽光に目が慣れてないんじゃないですか?」

「なんでそこまでバレてんだよ」

「ガッハッハ!すげーなお嬢!俺は全然気付いてなかったぜ!」

「あんたはこっち見てないだろう。でも私も気付かなかったよ」

「ま、ゴブリン程度三人どころか俺一人でも大丈夫だ!坊主はそこで安心して待ってな!」

「油断するんじゃないよまったく……とはいえ、そもそも生存者に働いてもらおうとは思わないよ。いい子だからそこで待ってな」



 相変わらずカルティさんはどこか俺を子供扱いしすぎな気がするな…三年経ってるならもう二十歳を超えているんだが。


 だがここまで言われて行くというわけにもいかない、ここは大人しくしておこう。ラル=フェスカはどちらも弾の面で消耗が激しいから、戦わなくていいなら正直なところありがたい。



「うし、なら行くか。そろそろ……ああ、やっぱり来たぜ」


「GUGYAGYAGYA!!」

「GUGYA!GUGYA!」



 随分と不快な鳴き声を響かせながら現れたのは、緑色の肌を持つ醜悪な鬼。体のサイズは大体小学生くらいだろうか。


 それぞれが錆びついた剣やこん棒を持ち、目はギラギラとこちらを睨みつけている。いや、あれはどちらかというと獲物を見つけて楽しんでいるのか?



 その姿や鳴き声は、小説やアニメの世界でよく見るゴブリンそのもの。あの地獄、シルヴィアは迷宮と言っていた場所では大きさ等々所々におかしい部分はあったものの、そのベースは動物園にいるような普通の動物だった。こんなあからさまな化け物を見るのは始めてだ。



「おし、反応通り。ゴブリンが6匹だな」

「セオリー通りで大丈夫そうですね」

「そうだね。それじゃ、まずは一発きめるよ」



 そうしてカルティさんが手にしたのは、カルティさん自身の身長を超える長杖。改めて見てみると、カルティさんはまるで魔法使いのような服装をしている。



「焼き尽くしな、フラム!」



 カルティさんがそう言った途端、杖から小さな紋様が浮かび上がり、頭上から火の玉が出現した。火の玉は飛んでもないスピードでゴブリンへと向かっていき…



「「「GUGYA!?」」」



 三匹のゴブリンに着弾し、まるでゴブリンが油を被った状態で現れたかのように全身に燃え広がって、そのまま焼失させた。とてつもない威力だな。



「あんた!出番だよ」

「おう!!!」



 次は俺だ!と言わんばかりの大声をあげながら大盾を持って飛び出したのはガイさんだ。ガイさんは運転席で着替えたのか、いつの間にか全身を金属鎧で覆っている。そしてそうは思えない程のスピードだ。実は紙鎧なんじゃないだろうか。



「おら!!かかってきやがれ!!」

「!?」

「GYAGYA!」

「GUGYAGYAGYA!!」



 ガイさんが残ったゴブリンに向かってつばを飛ばすと、今まで仲間をやられてカルティさんを注視していたゴブリン達が不自然なほど唐突にガイさんの方へと視線を集集約させた。あれは多分『挑発』だ。



『挑発』

 対象とした相手の注目を自身に集める。



 あの迷宮だと注目を集めるまでもなく襲い掛かってきたので出番はなかったが、俺も取得している。


 確かにこういったパーティー行動だと役立つ場面は多そうだが、俺の場合注目を集めても紙装甲だから結局あまり意味はなさそうだ。そもそもパーティー行動する仲間がいないし。



「「「GUGYAGYA!」」」



 ゴブリン達は呼吸を合わせ、三匹同時にガイさんへと飛びかかる。三方向から攻撃を繰り出されたガイさんだが、それに慌てた様子はなく…



「うおっっらぁ!!!!」



 盾を豪快に使い、三匹まとめて吹き飛ばす。そして勢いのままに前へと飛びあがり



「潰れろっっっ!!!」

「GYA!!」



 一匹のゴブリンを盾でグシャリと叩き潰した。着地した地点はひび割れていて、その絶大な威力を悠々と物語っている。


 そして吹き飛ばされた残りの二匹はというと。



「お疲れさま~!」



 キンッと音を立てて剣を鞘にしまったシルヴィアが、いつの間にか討伐していた。いつの間にそこまでいったんだよ。相変わらずとんでもないスピードだな。


 シルヴィアは分かっていたが、二人も動きに一切の無駄がない。こりゃ俺が出ても連携を乱すだけだったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る