24.野営

「ガッハッハ!どうだ坊主、見直しただろ!」

「ええ、ヒーローショーでも見てる気分でしたよ」



 豪快な笑い声を周囲に響かせながらガイさんが戻ってきた。因みにシルヴィアはもう戻ってきていた。



「あんまりコイツを調子に乗らせないでおくれよ、エイム」

「カルティさんもすごかったですよ」

「そ、そうかい?」

「カルティさんが照れてどうするんですか……」



 俺がガイさんを褒めたことに苦言を呈したカルティさんだが、そのカルティさんも満更でもないといった様子だ。まぁ褒められてうれしくない人間なんていないよな。世界が違っても、そういった人間の心情的な部分は変わらないだろう。



「さてと、それじゃもう行きます?」

「そうだね。あんた、討伐部位と魔石の回収は?」

「おう!バッチリだ!」



 ガイさんは小さな布袋を掲げる。魔石というのはあの魔獣の体内になる石の事だろうが、討伐部位とはなんの事だろうか?



「魔獣を討伐したことを証明する部位のことよ、軍に提出すると追加の収入になるの。ああいったゴブリンは倒しても質の悪い魔石くらいしか得るものがないけど、だからって放置してるとまずいことになるからね」

「……説明ありがとう。だけどその読心術は止めてくれ」



 何かのスキルでも使っているんじゃないかというレベルの精度だ。正直ちょっと怖いから勘弁してほしい。



「エイムが分かりやすいのよ。それはともかく、討伐部位は結構ありがたい収入源だから覚えておいた方が良いわよ、魔獣の種類によって部位が違うから」

「マジか、それは覚えるのが面倒だな」



 だが考えてもみればそれもそうか。例えば歯を証明部位とした場合、そもそも歯がない奴は回収のしようがないし、歯がとんでもなくデカかったりすると持ち帰るのが面倒だ。魔獣の種類によって部位が変わるのは当然だろう。


 俺も三人が暮らす拠点についたらそのうち路銀を稼がなければいけなくなるだろうし、そういった知識はなるべく吸収しとかないとな。



「ならそろそろ行こうか、多分途中で夜を明かさないといけないだろうけど、なるべく距離は稼いでおきたいからね」

「そうだな、だが野営をできそうな場所を探しながら行くからそこまで速度は出さんぞ?」

「それはそうだよ。まぁそれは私達で上から探しておくから、あんたは運転に集中しな」



 気が付くと確かに日が傾きかけている。時間感覚が狂いすぎて全く分からなかった。


 車に乗り移動を再開する。先ほどと違って荷台の三人の言葉数は少ない。カルティさんとシルヴィアは外に目を向け、野営地となる場所を探しているからだ。俺も手伝おうとしてみたが、野営地に適した場所というのが全然分からないから諦めた。



(完全にお荷物だな…)



 仕方ないこととはいえ、なんとなく歯がゆい。免許を持ってないから(そもそも必要なのかどうかすら知らないが)運転を代わる事もできないし、こうやって野営地を探すときでさえ役立たず。何かの形で三人の役に立ちたいものだ。



「あそこの辺りとかどうですか?」

「どれどれ……うん、悪くないね。あんた、あのあたりで車を停めておくれ」

「はいよ」



 車は徐々に減速し、小さな池の脇で停止する。まだ座標的には以前俺も訪れた場所のはずなんだが、こんな池があった覚えはない。世界が混ざった、というのは本当なんだな。こんな場所で綺麗な水が流れる池がある光景は、とてつもない違和感がある。



「この辺りでいいか?」

「そうだね。じゃ、ここにキャンプ地を設営しようか」

「手伝います」



 流石にここまでおんぶに抱っこというわけにはいかない。今日は大蛇だったりゴーレムだったり何かと激戦が多かった気がするが、それでも三人よりは体力が余っているだろう。


 キャンプ用品なんかはどうやら日本のものを使っているらしく、俺の知識でも組み立てられるものだった。中学生のときに林間学校でキャンプ設営を体験しておいて良かった。お陰で足手まといにならずに済んだ。



「杭はこのくらいの深さで大丈夫ですか?」

「おう、助かるぜ」



 俺とガイさんがキャンプ設営をしている間、シルヴィアとカルティさんは焚火の準備をしている。こんな開けた場所で火を起こしたら魔獣を呼び寄せるんじゃないか?と思ったのだが、戦闘があったときに視野が狭まる方がまずい、ということらしい。



「カルティ、そっちはどうだ?」

「終わったよ」

「おし、なら飯にするか」

「といっても、質素なもんだけどねぇ」



 シルヴィアが閉じ込められるのは予想外の事態だったらしく、予定の滞在時間を大きく過ぎてしまっているので食糧も結構ギリギリだったらしい。



「なら、自分が何か獲ってきましょうか?」

「今からかい?そろそろ昼行性の魔獣も姿を消すだろうし、流石に厳しいと思うよ?」

「大丈夫だと思います。あ、でも火は消さないでくださいね」



 ないと思うが、もし迷ったとしても煙を頼りにすれば問題ない。



「それは消さねーが……無理しなくてもいいんだぞ?別になくても死ぬわけじゃねーんだ」

「はい、無理そうなら戻ってきます」

「エイムなら大丈夫ですよ、二人とも」



 二人は俺が戦う所を見てないから信用ができないんだろう。シルヴィアとは反応に若干の差がある。



「じゃ、ちょっと行ってきます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る