25.心の楔
─side Silvia─
「お嬢、坊主はどうなんだ?」
「どうって…どういうことですか?」
「そのままだよ」
エイムが獲物を取りに行くと言ってからしばらくして、ガイさんがエイムが走り去った方向を見つめながら私にエイムについて尋ね始めた。やっぱり心配してるのかしら。
「大丈夫ですよ、あのカミラの迷宮で三年も生き残ったんですよ?このあたりの魔獣じゃ相手にもなりませんって」
カミラの迷宮というのは、エイムが閉じ込められた迷宮の名前ね。私達の世界に元々あった迷宮で、迷宮の攻略難度で言えばトップクラス。
以前数百人規模の攻略隊をどこかの国が編成して、一か月も経たず撤退を余儀なくされたという伝説があるほどの大迷宮。
ただ出入口に転移盤が使われてることから、迷宮の周囲に魔獣が出てこないということでそこまで危険視はされていなかったわ。そのせいで調査が後回しにされて、結果的にエイムの発見が遅れることになってしまったのだけど。
「そっちは心配してねぇよ。お嬢の相棒としてどうなんだ、って話だ」
「……」
「お嬢だって考えてないわけではないだろ?」
「そうだねぇ、実力的にどうかはまだ分からないけど、見てた感じ相性は悪くなさそうだ。職業的にも、性格的にもね」
なるほど、心配してたのはエイムじゃなくて私の方だったのね。本当にこの二人はお節介というか、底なしの優しさがある。こんな危険な調査に付いてきてくれている時点で、それは分かっていたことだけど。
「いやいや!エイムとはまだ出会って一日ですよ?そんなこと、考えてすらなかったです」
「嘘つけ。お嬢が日本人とあんなに気安く接していたのを見たのはエイム以外だとあの娘くらいだ。なんでそこまで気を許してるのかは分からねーが……」
「確かに。何がそんなに気に入ったんだい?良い子だとは思うけど、シルヴィアちゃんならもっとイイ男と出会ったこともあるだろう?」
「俺とかな!!」
「ガイ、今は真面目な時間だよ。それにエイムの方が何倍もいい男だろうに」
「自分の夫にそれはひどくないか!?」
いつの間にか
「そうですね、正直なところ……少しは考えましたよ。彼になら、私の背中を任せられるかもしれないって」
「それなら」
「でも気付いたんです。それってすごく身勝手な考え方だって。そうでしょう?私の背中を任せるってことは、それだけの危険地帯に彼を巻き込むことになる」
「お嬢……」
「もしかしたら彼はついてきてくれるかもしれない。だけどそれでもし、彼に何かあったら……私は多分、今度こそ耐えきれない」
仲間を失うのは別に初めてじゃなかった。だけどこんな風になってしまった世界で出会い、苦楽を共にした彼女と過ごした記憶とあの日の衝撃は、未だに私の心に楔を残している。
「……シルヴィアちゃんにとって、彼女がそれだけ大きい存在になっていることは理解できるよ。だけどね、過去にとらわれて立ち止まっているわけにもいかないっていうのは、他でもないシルヴィアちゃん自身が一番分かっているだろう?」
「そうだな。分かっているからこそ、俺達を誘ってカミラの迷宮の調査に乗り出したんだろうし」
「……」
「すぐにとは言わない、だけどそのうちに話してみるといい。彼なら真摯に受け止めてくれるさ」
「……はい」
「ま、案外スパッと断られるかもしれねーけどな!」
「そういうことを言うんじゃないよあんたは。でもあの子も色々と抱えてそうだからねぇ」
カルティさんはエイムが走り去った方向を、物憂げそうな視線で見つめる。
「あん?なんか話してたのか?」
「そういうわけじゃないけどなんとなく、ね。意識してかどうかは分からないけど、壁を作っているように感じるんだよ」
「単に人見知りなだけじゃねーか?」
「なーんか違う気がするんだよねぇ。内心が読めないというか、読まれるのを拒絶してるというか……」
心を読まれるのを嫌がるのは普通のことだと思う。でも確かに彼、自分のことを全然話したがらないのよね。私も人のことを言えないのだけれど……彼も、過去に何かあったのかもしれない。
「心を読むと言えば、お嬢」
「はい?」
「よく坊主の思考読んでるよな、あれどうやってるんだ?そんなスキル聞いたことないんだが」
「あんた、他人のスキル詮索はマナー違反だよ」
「へ?読んでるも何も、考えてること顔に書いてるようなものじゃないですか」
「「??」」
「え?分かりやすいですよ?」
多分迷宮では隠す必要がなかったんだと思うけど、エイムは色々と表情に出すぎだと思う。拠点で詐欺とかに遭いそうで少し心配ね。みんながみんな善人というわけではない、というかむしろガイさんやカルティさんみたいな人は少数だから。
「……やっぱり相性ピッタリなんじゃないかな、いろんな意味で」
「俺も今そう思った」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます