26.地上での狩り
─side Aim─
「多分このあたりにいると思うんだが……」
三人と別れてからしばらく、獣の足跡を辿ってそれなりの距離を移動した。地面が土だと足跡が露骨に分かるから助かるな。
「……いた」
視線の先にいるのは、見た目は極々一般的な猪。と言っても生の猪なんて見たことないから完全に想像でしかないけど。魔獣蔓延る世界になってしまったが、普通の獣もまだ生き残っているんだろうか?……いや、そうだとしてもこのあたりに猪がいるわけないか。十中八九魔獣だな。
ともかく食糧としても問題なさそうだし、あいつにするか。
とはいえ、今の俺の装備だと火力が高すぎてよほど硬い皮でも持ってない限り体ごと吹き飛ばしてしまう。これはちょっと一工夫しないとな。
「よっと!」
瓦礫を足場にして、猪の頭上まで移動する。猪はこちらにまだ気付いた様子はない。『気配隠蔽』を使っているとはいえ足音を消せるわけじゃないから油断はできないが、そこまで察知能力は強くなさそうだ。少なくとも察知系のスキルは持っていないようだな。
なるべく広範囲に衝撃を与えたいから、ここはフェスカを選んで引き金を引く。
「BAW!?」
フェスカの銃弾は猪の足元に着弾し、まるで猪が地雷を踏んだかのように地面を爆発させる。猪は驚いたような声を出したものの、獣の本能かすぐさまその場から退避する。凄まじいスピードだが、一直線に逃げるなら読みやすい。
ドゥパン!
続いてラルの引き金を引き、猪のちょっと前方になる瓦礫を砕く。本当ならこちらもフェスカを使う予定だったが、思ったより猪が速かったのでラルに変更した。速射性能はラルの方が優秀だからな。
そして砕かれた瓦礫はというと…
「BURU!?」
石礫となって猪の体を浅く傷つける。浅くと言っても、なるべく足に当たるように調整して瓦礫を砕いたからあの猪にとってのダメージは大きいはずだ。
ナイフを構え、猪に切迫する。これからはラル=フェスカの出番はない。最初は瓦礫を使ってあいつを圧し潰すことも考えたが、礫を当てた部分の傷の深さを見るに思ったより耐久力は低そうだ。ペシャンコになってしまったら食料確保ができない。
猪は礫の飛んできた方向の反対側、つまりはこちらに向かって走ってきていたわけだが、ようやく俺の存在に気付いたのか慌てて方向転換して逃げようとする。もう遅いけどな。
猪は傷ついた足を庇ってもなおそれなりのスピードだが、俺だって迷宮で成長したんだ。はじめは魔獣から逃げることのほうが多かったし、流石にその程度の速度じゃ俺からは逃げ切れない。
───一閃。
ナイフが若干錆びついているからスムーズにはいかないが、それでも力に任せて叩ききるように首を切断する。予想通りそこまで猪の皮が固くなかったことも幸いしたな。
「おし、まぁ及第点だろ」
最後こそ猪に接近して討伐したものの、全体を見れば俺らしい狩りができたと言えるだろう。
できればなるべく軽くしたいからこの場で血抜きしてしまいたいところだが、結構デカイ音を鳴らしてしまったし、血の匂いに引き寄せられて別の魔獣を引き寄せてしまっても面倒だ。ここは素早く退散してしまおう。
♢ ♢ ♢
「戻りました」
「おう、お帰り……ってしっかり狩ってきてるじゃねーか!」
俺が持ち帰った猪が想像したより大物だったのか、驚いた様子を見せるガイさん。喜んでもらえたようで良かった。
「へぇ、ラピッドボアか。このあたりにはそれなりの数生息していたはずだけど、良く狩れたねぇ」
「ん?」
どういうことだ?生息数が多いならそれだけ狩れる確率は上がると思うんだが。
「その猪、ラピッドボアって言って、危険を察知すると自身の速度を上昇させるスキルを持ってるのよ。だから見つかる前に一撃で仕留めるのがセオリーなんだけど、その傷を見る限りそういうわけじゃないんでしょ?」
「そうだな」
だから心を読んで回答するのは止めてほしい、今回はありがたいけど。あいつのあのスピードはスキルだったわけか。だけど、スキルを使用してもなおそのスピードは劣化ケルベロスより劣る。目で追うのも難しいとか、そういうレベルではない。
狩った方法とともに、そういった話を三人にしたんだが……。
「「「……」」」
「えっと、どうしたんですか……?」
「坊主。その劣化ケルベロスはな、ケロスっていう魔獣で、地上にも生息している魔獣なんだが」
「スキル無しだと現在確認されている中では最速として知られる魔獣なんだよ。流石にそんな怪物と比較されるなんて、ラピッドボアはちょっとかわいそうだねぇ……」
「エイム、拠点についたら常識を学びましょう」
三人ともそれはちょっとひどいと思う。でもこの世界の常識は是非とも教えてもらいたい。
「それによ。瓦礫を砕いて礫に使うのはともかく、その礫の着弾地点まで予測するとか……」
「【
なんだかちょっと引かれてる気もするが、とにかく実力面では安心してもらえたみたいだ。
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