20.荒廃した世界
三年ぶりの日の光は俺にとっては眩しすぎて、外の世界をはっきりと見えるようになるのは随分時間がかかった。しばらくしてようやく目が慣れ始め、その目に映った光景に、俺は言葉を失う。
───死の大地が、そこには広がっていた。
見るも無惨なほどにぐちゃぐちゃに壊れて放置された、おびただしい数の建物。コンクリートで舗装された道は姿を消し、地面はひび割れ、所々が隆起している。
いつかの授業で昔の震災や戦後の写真を見たことがあるが、今目の前に広がる光景は、それ以上の悲惨さをありありと物語っている。
「ここが、日本……?」
もはや見る影もない、俺が生まれてからずっと暮らしていた家も、あいつらと笑い合った学校も、何かと多用していたコンビニも、幼い子供が走り回っていた公園も。全てが石の塊に変わってしまった。俺が地獄に閉じ込められていた三年の間に、一体何があったというのか。被害がでかすぎて想像もつかない。
「流石に、きついな……」
あいつらは、俊やなぎさは、この世界で生き残っているんだろうか。他にも安否が気になる人達はそれなりにいる。姉は多分無事だと思うが、こんな状況だと確証は持てない。
(だめだ、弱気になるな)
精神状態が不安定になると、その中での行動の結果にも影響する。心を強く保て、それは俺が幼いころに嫌というほど心と体に刻み込まされた経験の一つだ。
未知というものは、大抵の場合人に恐怖心を与える。なら俺がやるべきは、その未知を既知に変える事。例えその先には悲惨な結末しか待っていなかったとしても。
その前に俺自身のこともだな、この世界での生活も安定させなきゃいけない。そもそもこんな世界で安定した生活が送れるのかは甚だ疑問だが、せめて衣食住は手に入れたい。
「……時間かけて悪い、もう大丈夫だ」
分からないことが多すぎるので抽象的もいいところだが、とりあえず俺の行動指針は決まった。ならば後は、それを行動に移すだけだ。
「本当に大丈夫?」
「ああ、問題ない」
「強いのね、本当に……(私とは大違い)」
「??」
「何でもないわ。じゃ、行きましょうか」
何やら意味深な発言が聞こえた気がするが……本人が何でもないと言っているんだからまぁいいか。
「どこへ行くんだ?」
「私達の防衛拠点よ、生存者の一時的な宿泊施設なんかもあるから」
「なるほど……歩いてどのくらいかかるんだ?」
見た感じ目で見える範囲にはそれらしき施設は見えない。ほとんど荒野が広がっているからかなり広い範囲を見渡せていると思うんだが、
「車で半日ってところね」
「え?」
「だから歩きってなると……どのくらいでしょうね?」
「マジかよ……」
この荒廃した世界でも、どうやら車は現役らしい。せっかく外に出れたというのに、結局やることは変わらないらしい。
「来るときは車で来たんだけどね。あれから一週間も経ってるし、流石に」
「おーーーーーい、お嬢ーーーーー!」
何やら大声が聞こえた方に視線を向けると、けたたましい音を上げてこちらに走ってくる鉄の塊。俺の記憶にあるものとは少々形状が異なるが、あれは?
「車が見えるな」
「ガイさんだわ!」
「ガイさん?」
「私と一緒にここを攻略しに来た人よ、まさか待っててくれたなんて……!」
なるほど、ここには複数人で来ていたわけか。確かに一人にしては、やけに装備が少なすぎると思ったんだよな。山登りでももう少し用意してくるレベルだった。てっきりどこかで失くしてしまったと思っていたんだが、別に荷物持ちがいたんだろう。スピードが命のシルヴィアにとっては、装備の重量も邪魔になりかねないし。
「行きましょう!」
「あ、おい」
嬉しそうに俺を置きざりにして走るシルヴィア。お前が全力で走ったら俺じゃ追いつけないっての……気持ちは分からなくもないけどさ。
近づいてくる車は、軽トラックみたいな車だ。荷台にも人が一人乗っている。シルヴィアの目の前で止まった車の運転席から出てきたのは、二メートルは雄に超えていそうな大男。あごひげが特徴的で、年は多分三十くらいだろうか。
「生きてたか、お嬢!」
「何とかね。彼のおかげで」
「彼?」
「ええ、彼は……あれ?」
シルヴィアが後ろを振り向くが、そこに俺の姿はない。当たり前だ、まだそこまでたどり着いてない。
「遅いわよ、エイム」
「無茶言うなっての……ふぅ」
「誰だこの坊主?」
坊主って……そんな呼び方されたのは初めてだ。むしろあんたの方がスキンヘッドだろ、と思うが勿論口には出さない。
「じゃ、改めて紹介するわね。こっちは生存者のエイムよ、ここに閉じ込められたらしいの」
「初めまして、天崎英夢です」
なるべく丁寧な口調を意識して挨拶する。シルヴィアは嫌がったが、今度は明らかに年上だしな。
「おいおい……まじかよ?」
「私も驚いたわよ、まさかこんな場所でまだ生存者がいたなんてね」
「あはは……何度死にかけたか分かりませんけどね」
こうやって会話していると、自分が生きていることを実感できる。本当に出てこれたんだな、俺。
「……そうか。ま、聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず次は俺の番だな」
「俺は第一拠点・周辺開拓軍所属、ガイ・ローレンガーだ」
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