19.ゴーレムの謎
不動のゴーレムを何とか倒した俺達は、ゴーレムの死体?の瓦礫を踏み越えながら先へ進もうとする。
不安定な足場の中で、シルヴィアが何かに気付いたように呟いた。
「そういえば……」
「どうした?」
「いや、このゴーレム、魔石がないなって」
「魔石?」
よく分からないが、ゴーレムには絶対にあるものなんだろうか?
「ほら、魔獣……ここにいる化け物を倒した後、体内にこんくらいの石、あるでしょ?」
「……ああ、あれか」
多分ラルの弾補給になるあのビー玉みたいな石のことだろう。相手が無生物だからないのかと思っていたが、どうやら「魔獣」と総称される奴らには必ずあるものらしい。あいつはどう見ても獣ではないと思うが、そこら辺の区切りは曖昧なんだろうな。
「まぁ魔石も存在しないっていうケースもあるにはあるのだけど、この場合ちょっと考えにくいのよね……」
「へぇ。ちなみにその存在しないケースっていうのは?」
「このゴーレムが、人口的に製作されていた場合ね。だけどこのゴーレムは性質的に考えて、生まれてからずっとここにいたはず。つまり今回がそのケースの場合、製作者は何らかの目的があってこの場所に置いたことになる」
なるほど、それだとなんの目的でここに、って話になるわけか。確かにこんな化け物……もとい、魔獣が蔓延る危険地帯に、わざわざこのゴーレムを置く理由は見当たらない。
それにシルヴィアの話だと、このゴーレムはここに入るときには邪魔してこなかったらしい。侵入者に対して邪魔する、というならまだ分かる気もするが、わざわざ出ていく時だけ妨害する理由となると、いよいよ本当に分からない。
「分からないな、魔石自体がどっちかの攻撃で壊れたとか?」
「だとしたら確実にエイムね。魔石を壊すほどの威力なんてあの一撃以外ありえないわよ」
確かにあの石、とんでもなく硬いんだよな。興味本位で一度ラルで撃ってみたが傷一つつかなかった。ただ、オーラを吐き出してただの石になるとその強度を失う。未だに謎が多い石だ。
「あれ、持ち帰れば結構いい収入になるのに……請求してもいい?」
「構わないが、生憎一文無しだ」
売れるのかあの石。俺はラルの弾補給にしか使ってない、というかそれ以外の使い方なんてなかったが、売れるってことは他に何か用途があるんだろうな。
「結局、このゴーレムには関しては謎だらけだな」
「そうね……まぁいいわ、今は先に進むことを考えましょう」
「賛成!」
やや気になりはするものの、これ以上考えても憶測でしかない。俺達は考察を諦めて、先に進むことを選んだ。
♢ ♢ ♢
「ここよ」
「……これか?」
「ええ」
ゴーレムとの戦闘を繰り広げた場所から歩くこと約20分後。足元に目を向けながらシルヴィアが指さしたのは、何やら複雑な紋様が描かれた一枚の石盤。以前これと似たようなものに足を踏み入れたときは、大量のコウモリ(人間サイズ)がいる場所に転移させられてひどい目にあった。
突然気持ち悪い感覚に襲われて、それが収まったかと思うと目の前にはおびただしい数のコウモリ、ここにいる三年間での一番の恐怖体験かもしれない。
それ以来、似たような紋様を見つけても絶対に踏まないようにしていた。シルヴィアがいなかったら、しばらくこのフロアで彷徨うことになっていたかもしれない。
「転移は始めて?」
「いや、一度だけ苦い経験がある」
「なるほど、トラップの方を最初に踏んじゃったわけね」
シルヴィアが何かを察したのか、同情したような眼差しでこちら見つめてくる。
「まぁ、今回は私が一回飛んでるから場所に関しては大丈夫よ」
「……」
「……怖いなら手でも繋ぐ?」
「結構だ」
突然何を言ってるんだか、第一片手が塞がってたら転移先に魔獣が出てきたときに対処が遅れるだろ。
「……分かったよ、行こう」
「はーい。じゃ、せーので行きましょう」
「りょーかい」
「じゃ、行くわよ──」
「「せーの!」」
石盤に足をつける。その瞬間、視界が歪み、乗り物酔いのような何とも言い難い気持ち悪さが押し寄せてくる。それが数秒続いた後に視界の歪みが戻ると、目の前の光景が大きく変わって……。
「ないじゃねーか」
「もう少し、というかすぐそこで外よ」
まだ外じゃないなら事前に言っておいてくれ。俺の覚悟と期待を返してほしい。転移先はキマイラに遭遇した場所のような広間の中心だ。壁や質感に変わりはないが、中は若干明るい気がする。
「あ、はやくそこから退かないともう一回転移しちゃうわよ」
「!?」
それを聞いた俺は慌てて石盤から足を離す。前回は転移してすぐにコウモリ達に襲われたから知らなかった。
「ほんとにもうちょっとだから、こっちよ」
シルヴィアの先導で広間を出る。その先には見慣れた通路が続いていたのだが……。
「ね?」
「………ああ」
見慣れない点が一点、通路の先が明るくなっている。広間が明るく感じたのは、日の光が差し込んでいたからか。三年ぶりにみる日の光はとても眩しく、その先の景色を白く塗りつぶしている。
「……」
思わず駆け足になり、通路を駆け抜ける。
その先で俺が見たのは──。
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