18.不動の石巨人 後編
はじめはあの石の中に潜ることがゴーレムのスキルだと思っていた。だがあいつは、念動力のようなもので分裂した体を修復した。勿論あいつが複数のスキルを持つ可能性もあるが、もしそうでないなら。あいつがあそこを「動かない」のではなく、「動けない」のなら。
「………」
これをやるにはなるべく思考を単純化させないといけない。『危機察知』を解除して目を瞑る。普段ならこんな危険な行為できないが、目の前の標的が能動的に攻撃してこないし、そして隣に心強い味方がいるから問題ない。
イメージするのは俺の体を流れる血液。フェスカも体の一部のように意識して、そこに対して血液を送り込むイメージだ。いつもは引き金を引いたときに強制的に引き抜かれるエネルギーを、こちらから送り込んでやる。
これでここの通路をぶち抜いたこともある。つまり単純な威力なら、あのキマイラの火球も超えるということだ。あいつの本気はあんなもんじゃないだろうけど。
──引き金に指をかける。
バシュッ
ズドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!
ゴーレムの足元に着弾したフェスカの銃弾は、地面を抉るようにして砕いていく。
「───」
今まで自発的に動くことのなかったゴーレムがここで動く。念動力を使い、俺が砕いた地面の石をこちらに飛ばしてくる。
「……ちっ、おとなしくやられとけよ」
まずい。今の俺は『危機察知』を使っていないから、あの大量の瓦礫を把握しきることではできない。おまけにさっきフェスカを連射、今の一発で体の倦怠感がとてつもなく、満足に体が動かせない。
後ろに跳ぶか?……いや、念動力なら距離を稼いでも関係なさそうだな。ある程度の被弾は覚悟しなければならないか。
そう思っていた俺の肩に、やや華奢な手がかけれられる。
「私のこと、忘れてるでしょ」
「……シルヴィア?」
「三年もここにいるって言うからなんとなく察してたけど、やっぱとんでもないわねエイム。ここは私に任せて」
そう言って俺の前に立ち、腰の剣に手をかける。
────突如として、視界が明瞭になる。
一瞬理解できなかった。シルヴィアが目の前の空間すべてを切り刻んだことを。
飛んできた瓦礫も、ゴーレムの体も、そして土埃までも。
「……なーにがとんでもないだ、人のこと言えないだろ」
「これでも軍じゃそこそこエリートなの。ちょっとはいいとこ見せないとね」
いつの間に抜いていたのか分からない剣を鞘に戻し、こちらにトコトコと歩いてくるシルヴィア。ゴーレムもコアの位置さえ分かればなんとかできただろ。
「……っと!まだ終わってねーのか」
「───」
ゴーレムは修復を最低限にして、こちらへの攻撃を優先してきた。索敵系スキルを持っているだろうシルヴィアには余計なお世話かもしれないが、後ろを向いていたので、一応手を引いて一緒に躱す。
飛んできた瓦礫は、先ほどとは比べられないくらいに小さくそして遅い。あいつも限界が近いということか、それとも修復にも念動力を使ってるせいか。どちらにせよチャンスだ。
「あれを受けて壊れてないのか、コア自体も耐久力はあるもんなのか?」
「ゴーレムの性能によるわね。それよりも」
「?」
「……ありがとう。もう手、離してもいいわよ?」
「ああ、すまん」
「……」
慌てて手を離した後、シルヴィアは自分の手を握ったり開いたりしながらまじまじと見つめる。そこまで強く引っ張ったつもりはないんだが、もしかして捻ったか?それともやはり先ほどの技は負担がかかるものなんだろうか。
「……あれがコアか」
「ええ」
抉られた、というより掘られた地面から顔を出しているのは、人の頭くらいのサイズの赤く光る宝石。コアは鮮やかに光っているが、どこか怪しげというか、吸い込まれるような不気味さがある。
「あの一撃でも壊れないとなると、いよいよ俺も打つ手がないんだが……」
「さっきのをもう一回っていうのはきつい?」
「ああ、こっちはもう撃てないな」
俺の体内エネルギーを燃料とするフェスカは、感覚だともう一発も撃てない。ラルも今は威力不足だ。
ここまで中々上手いこといってた気がするが、これは一旦引き返すしかないか?このままだと殺されることは無さそうだが、あいつを倒すこともできそうにない。
そう思っていたのだが……。
パキッ
そう音が聞こえた瞬間、コア全体にヒビが広がり、バラバラに砕け散った。
「───」
コアが壊れると、ゴーレムの体もボロボロと崩れ落ち、瞬く間にただの瓦礫に変わる。
「……さっきまでのは悪あがきだったわけか」
「そうみたいね」
心臓に悪いから止めてほしい。結果だけ見れば無傷の完勝だが、内容は結構ギリギリだった。俺もまだまだだな。
「ともあれ、とりあえず障壁は排除できたな。こっから出口まではどのくらいかかる?」
「大体歩いて20分ってとこかしら。どうする?消耗激しそうだし、ちょっと休憩してから行く?」
「シルヴィアが大丈夫ならそのまま進みたい」
ここは一旦休憩するのが最善なのは分かってる。だがもうすぐここを出られるという事実が、俺の気持ちを急かしていた。
「ま、そうなるわよね。私は大丈夫よ、もし何か出ても任せなさい」
「……迷惑かけてすまん」
「なーに言ってるの、英夢がいなかったらゴーレムは倒せなかったんだからお互い様よ。私も早くここから出たいし」
逸る気持ちを抑えながら、俺達は出口へと足を動かし始めた。
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