125.阻む悪鬼 後編
「GAGU…?」
「その棍棒、いつまで地面に置いてるつもりかしら?」
シルヴィアは棍棒を足掛かりにし、そこから駆け上がるようにしてオーガに肉薄する。
「はああああああ!!」
「GUGI?」
「意外と攻撃は通るな」
シルヴィアの放った横なぎの一閃は、オーガの重厚な肉体をそれほど抵抗無く切り裂いた。
「だが…」
「あまり効いていなさそうね?」
「桜先輩、危ないですよ」
「大丈夫よ。いざとなったら英夢君に守ってもらうから」
…まぁ、ホントにやばくなったら守りますけど。
「俺の方も試してみるか…シルヴィア!!」
「了解!!」
俺が声をかけると、シルヴィアはその場から飛び退る。そのオーガがシルヴィアに反撃の一手を加えようとしたそのタイミングで、魔力をやや多めにつめたフェスカの銃弾を、ヤツの顔面に叩き込む。
その弾丸は狙い違わず命中し、顔面から白い煙が立ち上るが…
「…結構な量を詰め込んだはずなんだけどな」
「硬すぎでしょ、あいつ」
「GUGA……GUGA?」
ヤツは俺とシルヴィアの強烈な一撃を受けてなお、何事もなかったかのようにケロッとしており、危機感を抱いている様子もない。
「痛覚ないのか?」
「流石にそれはないと思うけど…」
「私も試してみましょうか」
そういうと桜先輩は矢を番え始めるが、正直言ってその貧相な弓から俺達の一撃を加えられるとは思えない。
「ま、威力で言えば二人には劣るかもしれないけど…弓の利点も、ちゃんとあるのよ!」
勇ましい掛け声と共に放たれた一矢は、空気を切り裂くようにオーガへと向かっていき…。
「…GUGA!?」
「よし!」
「効いた!?」
オーガは初めて困惑の声を上げ、巨大な手でわたわたと顔の辺りを触り始める。
「流石に目をやられたら反応せざる負えないみたいね」
「なるほど…え、この距離から狙って放ったんですか?」
「ええ、そうよ?」
それが何か?と言わんばかりの桜先輩。
「先輩は弓の師匠みたいなもんだったからな。流石にこの距離であの点みたいな位置を狙えるような怪物っぷりじゃなかったが…」
「失礼ね…私もこの三年間で、色々と努力したってことよ」
オーガから今俺達のいる位置までは、大体50m程離れている。これを『努力』の一言で片づけるのはちょっと無理がありますよ、先輩。
入部当時、完全に素人だった俺が主将という地位まで上り詰めることが出来たのは、まず間違いなく桜先輩のお陰と言って良い。
勿論基礎は顧問の先生から教わったが、同じ流派の剣術にも人によって癖が異なるように、弓との向き合い方というのも人によって大きく異なるもの。俺の向き合い方は、桜先輩と似通った部分があった。
「エイムの師匠…それなら納得です」
「それで納得されるのはなんか釈然としないけど…ま、英夢君も腕は鈍っていないようでちょっと安心したわ」
「当たり前ですよ。弓とは結構感覚が違いますけど、それでも同じ遠距離武器ですから」
「GAGU…GAGURAAAAAA!!!」
おっと、まだあいつは死んでないんだった。
ようやく弓を引き抜くことに成功したらしいオーガは、それが余程不快だったのか、棍棒も持たずに怒りに任せてこちらに突進し始めた。動きは相変わらず鈍いが、何分体が巨大なため距離は刻一刻と縮んでいっている。
「シルヴィア」
「ええ!」
「後は任せて、桜先輩は一度後退してください」
「了解よ、頼んだわね」
桜先輩が十分に距離を取ったのを確認して、俺達はオーガと対峙する。
「GU…GAAAA!!」
「やったの、俺達じゃないんだがな!」
「こいつには見えてなかったんでしょ!」
力任せに放たれた拳の一撃を軽々と躱し、それぞれ左右に展開して挟み込むような形を取る。一瞬俺達に構わず桜先輩に突き進む可能性も考えたが、そりゃあの距離じゃ誰がやったかなんて分からないか。
オーガの放った拳は俺達ではなく地面に命中するが、軽く地震でも起きているんじゃないかというレベルの一撃だ。やはりあの巨体は脅威だな。
「ふっ…やあああああ!」
「GAGU!」
先の攻撃を仕掛けたのは勿論シルヴィア、足元を切り裂いて態勢を崩す狙いのようだ。
「GAGURAAA!」
「ちょ、嘘でしょ!?」
「シルヴィア!下がれ!!」
だがオーガにはさほど効いていなかったようで、シルヴィアの攻撃を気にした様子もなくむしろそのままシルヴィアを踏み潰す勢いだ。
「あっぶないわね!」
「GUGA…GUGA!?」
だがそれを甘んじて受け入れるシルヴィアではない。持ち前のスピードを生かして離脱し、お土産のようにもう一撃加える。
一撃加えられ、さらに「踏みぬく」という自重を全力で生かすような攻撃を取ったオーガ。それが災いし、オーガの踵からはブシュっ!と不快な音が聞こえ、そこから鮮血が飛び散る。
「GUGAAAAA!!」
「いや、それは自分が悪いだろうが!」
流石に堪えたのか、オーガは再び激昂して一層暴れ出した。シルヴィアの速度には付いていけないと判断したのか、今度は怒りの矛先を俺に向けている。
俺はその猛攻を丁寧に躱しながら、時が来るのを待つ。動きが速くないうえに、激昂して駆け引きもクソもないから次の行動が読みやすい。
「俺にばっかり執着していいのか?オーガさんよ」
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