124.阻む悪鬼 前編

「おかえり」

「どうでした?」

「目の前のオーガとオークの混成部隊がせき止めているらしいわ。今の所怪我人は出ていないけど、うちの部隊じゃジリ貧でしょうね」



 オーガとオーク…俺がこの前外に出てたときも遭遇したが、この辺りでは最近増えてるのか?



「この前のゴブリンの異常増殖で、オークにとっては食糧が増えたからね。その影響だと思うわよ」

「魔獣にも食物連鎖があるわけか」

「そういうこと」



 考えてみれば当然ではあるが、なんとなくそういう光景を目にしてないからイメージしにくい。



「私達も行った方が?」

「ええ、お願いできるかしら?」

「分かりました…ですけど、全員で向かうのは不味いですね」



 確かに、最後方であるこの位置の警戒を怠るのはまずいな。



「私が残る。あんまり目立ちたくないし」

「そうか。なら、俺・シルヴィア・桜先輩の三人で」

「それでいきましょうか」

「分かったわ…じゃ、先に行っとくわね」



 そういうとシルヴィアは凄まじいスピードで駆け抜け、たちまちその姿を消した。相変わらず、いや以前より速くなってないか?



「…あれ、下手したら魔獣と間違えられるんじゃないかな」

「ん、ありえる」

「す、すごいわね…」



 そういや桜先輩がシルヴィアの速度を見るのは初めてか。



「俺達も行きましょう」

「ええ」






♢ ♢ ♢




「おお、やってるなー」

「…彼女、ほとんど一人で戦ってない?」



 桜先輩の言う通り、10頭以上いるオーガとオークの群れを、シルヴィアはほぼ一人で抑えきっている。



「下手に介入すれば邪魔になると判断して、撤退を指示いたしました」

「菊川さん」

「それでいいと思います…やりすぎだろ、アイツ」



 ダークエルフの森のグリゴール戦以降、シルヴィアはその実力をめきめきと伸ばしている。にしてもあれはちょっと無理しすぎだが。



「ちょっと行ってきます。桜先輩、危なそうだったら援護お願いしますね」

「それは構わないけど…エイム君、あなたも後衛職よね?」

「ええ。でも、俺の戦い方は菊川さんとの模擬戦で見せたでしょう?」



 俺は見守る日本人ギャラリーの間を駆け抜け、渦中へと飛び込んでく。


 まず相手取るのは、シルヴィアが対応できていない一頭のオーク。



「FUGAAAAA!!!」

「せい!」

「FUGAっ」


 まず懐に潜り込んだ俺は、オークのアゴにめがけて銃身で強烈なアッパーをお見舞いする。


 流石に俺の筋力ではその巨体を浮かすことは敵わなかったが、その衝撃は確実にヤツの体に響いている。



 続けざまに襲い掛かろうとしたところ、後ろから『危機察知』に反応があり、俺は追撃を中断して振り返る。



「GUGAAAAAA!!!」

「おいおい、オーガとオークでサンドイッチは勘弁してくれよ、っと!」



 こんな肉団子に挟まれたら確実に身動きが取れなくなる。そう判断した俺は、オーガの体を足掛かりにして跳躍、そのまま体の足と頭の位置を逆転させ、逆立ちのような状態で宙を舞いながらラル=フェスカを構える。



「これでも喰らっとけ!」



 俺はそれぞれの銃口から一発ずつ射出し、オーガとオークの体を脳天から貫く。



「GA!?」

「FUGA!?」



 二頭は一瞬困惑の声を上げた後、その生を終えた。



「次」



 まだ戦いは終わっていない。俺はすぐさま次の獲物を探す。


 だが、もう獲物となるオーガは一頭しか残っていないようだ。



「…なんかアイツ、でかくねぇか?」

「ええ、多分上位個体じゃないかしら」



 俺達の目の前にどっしりと構える一頭のオーガは通常の倍近い体躯を持ち、黒々と輝く棍棒を地面にめり込ませている。


 オーガの時点でオークの上位個体だというのに、さらにその上位個体か。



「調査団の人間にはちょっと荷が重いな、こいつの相手は」

「もとよりここで彼らに任せるなんて選択肢はないでしょ」



 それもそうか。



「…結構強そうだな、『死圧』を使っても怯える様子がない」

「ホント?…いい修行相手になりそうね」



 俺の『死圧』が通用しないということは、少なくとも俺一人よりは格上だということ。もしかしたら虚勢を張っているだけかもしれないが、それはそれで強者の証だ。


だがそんな事実は、俺達が怯える理由にはならない。



「まずは私の剣がどれだけ通用するかね」

「じゃ、とりあえず『死圧』は切るぞ」

「ええ」



 シルヴィアはそういうとオーガ目掛けて一直線に走り出す。



「…GA?」



 オーガはシルヴィアの速度に目が追いつかず、直線に進んでいるシルヴィアの姿を捉えられていないようだ。


 恐らくあの巨体に成長するまで、天敵という天敵に遭遇してこなかったのだろう。ゆったりと構えるその動作には、まるで危機感というものが感じられない。



(…まずはアイツに、どっちが上かってことを教えてやらないとな)



 

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