123.かつての首都へ

「それじゃ、準備は良いわね?」

「はい」「大丈夫です」「ん」



 翌日、俺達はマーティンの外で集まり、東京の調査団の人達とともに出発の準備を進める。といっても、俺達の主な役目は道中の護衛、今やることはほとんどない。



「車両は一台につき5人、今回は私とあなた達の合計4人で同じ車両に乗るわ」

「あの執事は乗らないの?」

「菊川さんは、お父さんの護衛に付いているわ」

「ああ、正真さんは戦闘系の職業には就いていないんでしたっけ」

「そうなのよ。ま、本人曰く自分の身を守れるくらいには鍛えてるらしいから、有事の際は見捨てて大丈夫よ」



 …自分の父親に対して、辛辣過ぎる。俺の言えた話じゃないけど。



「確かシルヴィアさんは、索敵系スキルを持っているのよね?」

「はい。ですけど、そんなに広範囲の索敵は出来ません。端の方に配置されるなら、この部隊をカバーしきるのは難しいと思います」

「具体的な距離は?」

「そうですね…大体50mくらいでしょうか」

「それで戦えるなら十分だわ。なら私達の車両は一番後方に配置してもらいましょうか」



 俺達は後衛系の職業が多いし、最悪前方から応援を要請されたとしてもシルヴィアだけ先行させることも可能。理想的な人員配置と言えると思う。


 桜先輩が配置について伝えに行っている間、手持無沙汰になった俺達はしばしの雑談に興じる。



「これだけの数、襲ってくる魔獣なんているの?」

「ゴブリンなんかは数や相手の実力なんか関係なく、人間相手には結構襲撃してくるわ。今回は車での移動だから、襲われる前に走り抜けちゃえばよさそうだけどね」



 とはいえ、俺が迷宮からマーティンに向かっていた時のように、悪路の場合は道を防がれることもある。



「勿論護衛も大事だが、俺達にとっての本番は東京に到着してからだ。あまり気負い過ぎないようにいこう」

「ん」「ええ」





♢ ♢ ♢



「……ん」

「気負い過ぎないように、とは言ったが…」

「流石に任務中に寝るとは思わなかったわ」

「あはは…」



 車での移動を開始してからしばらく、車の揺れに身を任せていると、隣のリーゼがコクコクと舟を漕ぎだした。



「まぁ、車酔いに苦しむよりはましか」

「そうね。この車、すごく速いし。少なくともマーティンに流通している車じゃ、この速度は出せないでしょうね」



 シルヴィアの言う通り、俺達が今乗っている車は三年前、俺達が普通に利用していたそれと遜色ないスピードだ。


 これだけ聞くと大したことないように聞こえるが、この辺りは道が悪いからな。それでこの速度を維持しているということは、相当な性能だと思う。



「資源が少ない私達にとって、各地を回るための機動力は最優先で確保すべきものだったから。開発は最優先で行ったわ、というよりまだ改良中ね」

「これ以上速度を上げるのは乗車人がきつくないですか?」

「ええ。だから今は消費魔力を抑えるための研究を進めるらしいわ。現状だと、通常の三倍くらい魔力を消費するらしいのよ。私も一度やってみたことがあるけど、1時間走らせるのがやっとって感じだったわ」

「さ、三倍ですか!?…あとで【操縦者ドライバー】にお礼を言わないと」



 俺達から操縦者の姿は見えないが、シルヴィアの言う通り後でお礼を言っておいた方が良さそうだ。


 それにしても三倍か…確か【操縦者ドライバー】には消費魔力を軽減するスキルが取得できるはずだが、それでも結構な重労働だろうな。



「んー…」

「お、起きたか?」

「ん…おはよ」



 俺達が話していると、今まで眠りについてリーゼが目を覚ました。結構な揺れなんだが、よくそんなに寝ていられたな。



「何話してたの?」

「この車の性能について、ってとこかな」

「ふーん……」



 目をこすりながら、至極どうでも良さそうな声を上げるリーゼ。まぁ、なんとなくそういうことには興味なさそうだよな。



「あ、そういえば」

「どうしたの?」

「シルヴィ、昨日エイムの部屋で何してたの?」

「!?」

「…起きてたのか、リーゼも」



 うちの人間、あの日全員起きてたのかよ。



「え、英夢君!?」

「桜先輩、とりあえず詰め寄るのはやめてください。多分先輩が心配してるようなことは一切してないです」



 何故この揺れのなか、そんなに鮮やかに距離を詰められるのか。



「別に何もしてないわよ、ちょっと色々と話しただけ」

「…本当に?」



 あんな時間に話すことなんて普段ないから疑うのは分かるが、本当に会話しかしていない。



「色々と相談させてもらっただけだ。断じてリーゼが思っているようなことはしてないぞ、本当に」

「本当に?」

「…なんで先輩が詰め寄ってくるんですか」

「だって、英夢君だって年頃の男の子だし、っきゃ!?」



 桜先輩がもう一度詰め寄ってきたタイミングで、車が急停車して先輩が俺の胸元に勢いよく飛び込んできた。なんか前にもあったな、こんな光景。



「大丈夫ですか?」

「え、ええ…ごめんなさい、もう大丈夫よ」

「どうしたんですか?」



 シルヴィアが【操縦者ドライバー】に確認を取る。



「分かりません、前の車が停車信号を出していたので…」

「わ、私が確認してくるわね!」



 そういって桜先輩は車を降り、速足で前の方へと姿を消した。



「…照れてたね」

「まぁ、あの状況なら仕方ないだろ。シルヴィアも照れてたぞ」

「矛先を私に向けないでくれるかしら?」




 

 



 

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