126.新たな相棒

 オーガが俺に夢中になっているということは、当然ながらシルヴィアが自由に動き回れるということ。適当な場所を切り裂いても意味がないため、今はタイミングを見計らっているようだな。



(にしてもコイツ、パワーだけは本物だな。風圧だけで態勢を崩される)



 お陰で多めにマージンを取って回避しなければならず、アイツが理性を持ってこちらの動きを制限していればかなり厄介だっただろうな。



「──エイム!」

「了解!」



(即充填…上々の速度だ)



 訓練の成果に内心笑みを浮かべながら、俺はフェスカに魔力を意識的に過剰充填させ、瞬時にオーガに銃口を向ける。



 オーガは先の苦い経験から、即座に顔の前に腕をクロスさせて防御態勢に入るが…



「俺の狙いはそっちじゃねぇよ!!」

「GUGU……」



 バシュゥゥン!!



 俺の放った一撃はオーガの広大な腹部に命中し、大きく波打ちながらその衝撃を全身に伝える。



(ま、あんだけ脂肪が多いならそりゃそうなるよな)



 恐らく、俺達の攻撃が通らないのはあの豊富な脂肪が原因。オークのそれと比べれば筋肉質なあの肉体のせいで、体の芯にまで攻撃が届いていないんだと思う。



「GU…GAA」

「おし、シルヴィア!」

「ええ」



 フェスカの強烈な一撃を逃がしきれなかったオーガは、たまらず全身を震わせながら膝をつく。歯を食いしばっている様子からして、耐えきる算段のようだ。



 (ま、俺としてはどっちでも構わないが)



 俺の攻撃は本命じゃない、あくまでヤツの態勢を崩すのが目的。



「せああああああああああ!」



 大きく飛び上がったシルヴィアは、漆黒に輝く剣に淡い光を灯らせながら、オーガを縦に両断する。


 オーガはそのまま声を上げることもできず、呆気のない最後でその生を終えた。



「…どうみてもその剣のリーチじゃ出来ない芸当だろ、それ」

「ほとんど衝撃波で斬っているようなものだもの。流石の切れ味ね」



 確かにシルヴィアの剣には、ほとんど血が付いていない。



「それがの威力か」

「ええ。この任務に間に合って良かったわ」



 シルヴィアは新たな相棒であるシャドウミスリル製の細剣を左右に振るい、僅かに付着したオーガの血を払う。



「まだ剣を魔力に込めるっていう感覚がよく分からないわ」

「リーゼに教わったんじゃないのか?」

「なんというか、言葉足らずというか…」

「…なんとなく想像が付いた」



 シャドウミスリルはそれ自体でも十分な性能を持つが、魔力を込めることによってその真価を発揮する金属だ。


 だがシルヴィアはこれまで戦闘中に魔力を扱うといった場面がほとんどなく、剣が完成したのもつい先日なため、剣の性能を生かしきれていないらしい。



「移動中に俺が教える…いや、流石にあぶねーか」



 下手に車の上で暴発されたら大惨事だし、そもそも俺は魔力が見えるあのモノクルを持っていない。



「ま、まずは自分なりに色々と試してみるわ」

「そうか、なんか聞きたいことがあったら言ってくれ。全部カルティさんの受け売りだが、ある程度は助言できると思う」

「ありがとう…さて、魔石を回収して戻りましょうか」



 今回の任務中、俺達だけで倒した魔獣について素材は全て俺達のものとなり、共同で討伐したものに関しては魔石を除いた素材を調査団側に渡す契約だ。ラルの銃弾補充のために、こういった内容で合意してもらった。


 あの巨大オーガは桜先輩との共同討伐だが、それ以外のほとんどのオーク・オーガは俺とシルヴィア二人だけでの討伐のため、素材は全て俺達のものということになる。とはいえ、流石にあの量は持ち帰れない。



「お疲れ二人とも…すごかったわね」



 そんなことを考えていると、桜先輩を先頭に、調査団の人達が戻ってきた。



「なんとか。強かったです」

「あなたがそういうときは、大抵大したことない相手の時なのよね」

「…いやいや、そんなことありませんって」



 三年前とは違います、先輩。



「…ま、ここで嫌味を言うのは筋違いね。あなた達のお陰で怪我人が出ずに済んだんだし」

「お役に立てたなら何よりです」

「時間的に丁度良いし、【操縦士ドライバー】の人達のためにも小休止を取ることにしたわ…それでなんだけど、菊川さん」

「はい」



 菊川さんの会話のバトンを渡し、桜先輩は一歩下がる。



「お二人が討伐したオークとオーガの肉を、昼食として買い取らせてもらえないでしょうか?勿論適正価格をお約束しますし、昼食は提供させていただきます」

「…良いよな?」

「ええ、勿論」

「ありがとうございます、それでお値段の方なんですが──」



 提示された価格はしっかりと適正価格、俺達の感覚で言えばちょっと高いくらいだ。元々ここに置いていく予定だったし、全く問題ない。



「魔石だけはこっちで使い道があるんで、回収させてもらいますね」

「分かりました。流石にうちの団員でくすねる輩はいないと思いますが…念のため、回収は私だけ加わりましょうか」



 流石菊川さんだな、こちらの調査団に対する信頼度をよく分かってる。桜先輩に手伝わせようとしないのもこの人らしい。


 菊川さんはオーク達をズバズバと解体し、魔石のみを取り出していく。日本人には結構抵抗のある作業だと思うんだがな。



「これで全部ですか?」

「はい、あとは調査団の方々の討伐分です」

「なるほど…こうしてみると、ほとんどお任せしてしまったのが分かりますね」



 菊川さんのいう通り、調査団の討伐分は俺達のそれと比べると半数以下だ。



「ふむ…(これはあの件も真剣に考えねば)」

「…何か言いましたか?」

「いえ、何も?」



 何やら気になる発言があった気がするが、追及するほどでもなさそうだしまぁいいか。



「解体はこちらで行います」

「了解です。じゃ、戻るか」

「ええ」



 一仕事終えた俺達は、桜先輩とともに最後列へと戻った。

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