127.魔石の謎

「…てい!」

「うお!?あぶねえな!」

「…な、何してるの?」



 オーク・オーガの混成集団を討伐しきった後、オーク肉のステーキに舌鼓を打った俺達は、再び車に揺られていた。


 そして今何があったかと言うと、シルヴィアがリーゼのナイフを借り、先程の巨大オーガの魔石を突然斬りつけた。そこまで広くないんだからやめて欲しい。



「いや~…ほんとは最後の一撃、魔石ごと両断するつもりだったからさ。傷一つつかなかったのがちょっとショックで」



 シルヴィアは器用に人差し指でくるくると回しながら、心底面白くなさそうに嘯く。巨大オーガの魔石は占いで使う水晶玉と同じくらいのサイズ、それなりに大きい。



「魔石の破壊なんて、フェスカの全力の一撃でもできないんだぞ?流石に無理があるだろ」

「でもさー…」

「英夢君でもやっぱり無理なの?」

「ええ、傷さえつけられません」



 魔石はとんでもない硬度を誇り、どれだけ強力な一撃をぶち込んでも傷一つつかない。



「東京でも色々と研究を進めてるけど…、魔石の異常性に関しては何も分かってないのよね」

「何らかの形で魔力を吸収してしまえば、ただの石ころなんですけどね」

「ええ。だからうちの研究員の中では、魔力が硬度を向上させているというのが一番有力とされているわ」

「…それはないよ」



 俺達の会話に、今まで黙っていたリーゼも入ってきた…起きてたのね。



「確かに魔力には耐久性を向上させる効果はあるけど、流石にエイムの一撃を喰らっても無事でいられるほどじゃない。それに、そういう効力を無力化するスキルもある。それを使っても、魔石は壊せない」

「へぇ…」



 そんなスキルもあるのか。元々目に見えない魔力の、視えない効力を無力化するスキル…効果の実感が難しすぎる。



「…それなら、リーゼさんは魔石があんなに硬い理由を知ってるの?」

「知らないよ?」

「…まぁ、そうだよな」



 里の資料庫にもそれらしい資料はなかったし。



「うーん。改めて考えると魔石って謎だらけよねぇ…」

「…言われてみれば。人には無いんだよな?」

「ええ。エルフなんかの異種族にもないわよね?」

「ん」



 だけど、魔獣には必ずある。俺達のような地球人はともかく、シルヴィア達の世界の住人にはあってもおかしくないと思うんだけどな。



「魔王が魔獣を生み出すときに使うもの、ってエールスハイトは言っているけど…正直、信憑性は皆無ね」

「魔王って…そういや、実在するんだっけか」



 どうしても御伽噺の存在という感覚が拭えないが、俺達が辛酸を舐めた相手、グリゴールと同じ十王の一人だったはず。



「こんなに硬いものを量産できるなら、これでゴーレムでも作った方が良い」

「それは確かに」

「実際、何とか武器として転用できないか研究してる最中よ。…ま、そもそも変形が不可能なんだから全然進んでないけどね」

「銃弾にでもすれば?」

「それが一番現実的だと思うわ。個体ごとで微妙に大きさが異なるのと、安定供給が困難なのが課題だけど」



 俺もラルの弾補充は、カミラの迷宮を脱出するうえで常に付きまとっていた問題だからな。魔石をそのまま使うなら討伐したあとで回収できるからまだましだとは思うが。



「…で、話を戻すけど、どうして魔石はこんなに硬いのかしら」

「ここで話しても答えは出ないと思うぞ」

「それはそうでしょうけど、私達みたいな素人から意外とヒントが出てくると思わない?」

「…まぁ、やることもないから別にいいけどよ」



 車の上は基本的にはやることはなく、ぶっちゃけるとかなり暇だ。雑談の種には丁度いいか。



「俺的には、魔獣が生きていく中で蓄積したものなんじゃないかと思ってる」

「蓄積?」

「ああ。魔石には魔力が含まれているが、中には魔力を一切使わない魔獣だっているだろ?」



 ゴブリンがいい例だ。あの黒ゴブリンは使っていたかもしれないが、少なくとも普通のゴブリンは生きているうちに魔力を使う機会はないだろう。



「だから生きていくうちに使わなかった魔力があの石に貯め込まれてるんじゃないかなってのが俺の持論だ。色々と穴だらけだけどな」



 じゃあ人間はどこにため込むんだって話になるし、魔力を使いこなす魔獣にも魔石は普通に存在する。



「だけど、一応そう思う根拠はある。『黒』だ」

「…なるほどね、確かに筋は通るわね」

「…私、分からないんだけど」

「『黒』の魔獣は、闇の魔力を流し込むことによって生まれる個体。そうして生まれた個体は巨大化して…そいつから採れる魔石も、同じように巨大化してる」



 体自体が巨大化するメカニズムはよく分からんが、少なくとも魔石が巨大化する理由にはなる。意図的に流し込まれた魔力なんて、魔獣にとっても余分なものだろうし。



「…ま、あくまで持論な。これくらいの論説は既に出てるだろうけど」

「確かに出てるでしょうけど、根拠として『黒』の魔獣を出したのはエイムが初めてよ、誇っていいと思うわ」

「…誰に何のために誇るんだよ」

「さあ?」



 そもそも俺は研究者でも学者でもない。真実を解き明かすのはそういった方々にお任せして、与えられた知識と技術を生かす側の人間だ。



 そんな生産性のない会話をしながら、俺達はかつての首都との距離を進めていく。



 そして───。




「見えて来たわ、あれが防衛都市『トウキョウ』よ」

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