128.変わり果てたかつての首都
「どう?三年振りの東京の姿は」
「…どうって言われても」
俺から今見える景色は、某進撃漫画に出てきそうな巨大壁と、見覚えのある電波塔。流石にもうその機能は残っていないだろう塔だが、今でもシンボルとしての役割は果たしているらしい。
それよりも気になるのはあの巨壁。マーティンの壁と比べても遜色ない迫力を誇るその巨壁を、僅か三年で築けるとは思えない。
ここは本当に、俺の知る東京なんだろうか?
「王国から土木系統の魔術に精通した魔術師を大量に派遣してもらったの。他の街に逃げ込む選択肢もあったていうか、少なくない数の日本人がそうしたんだけど」
「そもそも、あの規模の街の人間を丸々全て受け入れるのは王都でも不可能でしょうね」
「ええ。向こうが気前よく魔術師を派遣してくれたのも、過剰な難民を防ぐっていう目的もあったと思うわ」
桜先輩はそう言うが、俺はそうは思えない。
俺が王なら、戦えもしなければ手に職もない人間なんてすぐに見捨てると思う。何か王国側にとって、それだけ手厚いサポートをするだけの理由があったんだろう。それが何かは見当もつかないけど。
巨壁に取り付けられた門の前には、マーティン程ではないものの、それなりに長い列が出来ている。
「身分確認はまとめて行うから、そこまで時間はかからないわよ」
「…それはありがたい」
列に並ぶの大嫌いだもんな、リーゼ。
桜先輩の言う通り、列の長さの割にすぐに最前列まで辿り着くことが出来た。俺達のことは正真さんが既に話を付けていてくれたらしく、素通りしても何も言われない。
門をくぐると、そこは───
「…ここが、東京?」
「…まぁ、そういう反応になるわよね」
「みんな同じ形、面白みがない」
リーゼの言う通り、道沿いに並び立つ住宅は全て同じ形、サイズ。いつかの震災時にあった、仮設住宅の集合地がイメージとしては近いかもしれない。
街を歩く人達も似たような服装が多く、見た目よりも機能性を重視したような作りだ。
「なるべく街のサイズを小さくしないといけなかったから。これが一番効率が良かったのよ」
「効率を求めるなら、おっきな家に一箇所で住んだ方が良いんじゃない?」
「…いや、それは別の問題が発生するだろ」
ダークエルフみたいに小さなコミュニティならともかく、これだけの人数が一箇所に住まえば絶対に人間関係絡みの面倒くさい問題が頻発する。それは現実的じゃない。
「…こんな代わり映えしない街並みを見てもしょうがないと思うし、行きましょうか」
「ん?どこか向かう場所があるんですか?」
「まずはこっちの総司令に会ってもらう。そこで君達にお願いしたいことも話そう」
「…了解です」
…正真さん、怖いんで急に現れないでください。
「私はまず向かわねばならない場所があるので、ここで一旦お別れだ。菊川、桜のことは頼んだぞ」
「承知いたしました」
ここからは菊川さんも加わるようだ。正真さんは立場ある人間みたいだし、街中でも油断しない方が良いと思うんだが…
とはいえ、それは正真さんも承知のはず。それ以上に先輩のことが大切なんだろうな、最早ここまで来ると病気の域だ。
「では、行きましょうか。お願いします」
「はい」
菊川さんも加わり、俺達一行は再び車に揺られる。街の規模は小さくしたと先程会話の中で桜先輩が言っていたが、そもそも東京自体が世界的に見ても巨大な都市。
他の都市から避難してきた人も少なからずいるだろうし、街の規模は三年前とそう変わっていないようだ。
三年前と違う点と言えば、車を使用している人が少ないことくらいだ。多分【
街の中を爆速で駆け抜け、30分ほど。
「着いたわ、ここがトウキョウの軍本部よ」
「…ここって確か」
「ご想像の通り、元は国会議事堂ね」
まぁこの街を維持しているわけだから、ここを転用するのは自然なことか。
「ありがとうございました。ゆっくり休んでください」
ここまで頑張ってくれた【
国会議事堂の中に入った経験なんて勿論ありはしないが、テレビで見ていた中とは様変わりしている気がする。流石に中はリフォームしてるみたいだ。
「…ここよ」
コンコンと桜先輩が扉をノックすると、中から声が聞こえる。
「はい、どなたでしょう?」
「桜です、マーティン遠征の報告に参りました」
「ああ、桜さんでしたか。入ってください」
桜先輩が扉を開け、俺達もそれに続くような形で部屋の中に入る。
「お帰りなさい…後ろの人達は?」
「マーティンから派遣されてきた軍人達です。例の魔獣討伐に協力してもらうため、マーティン軍から提供して頂きました」
「ほうほう。相変わらず、うちの団長は交渉がうまいですね。知識提供だけでも十分だと思っていたのですが…おっと、まずは自己紹介か」
「初めまして、
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