8.ラル=フェスカ 前編
──選定、開始
俺の中の何かを読み取るように、台座と球体が明滅しながら淡く光り始めた。
さて、一体何が出てくるだろうか。弓が一番うまく扱える自信があるが、仮にあのキマイラみたいな奴らがうじゃうじゃいるなら流石に火力不足だろう。あんな化け物にダメージを与えられる弓とか想像できない。
それに、矢の供給はどうするんだって話になるし、この状況で実用的とは言えないな。というか、あいつに有効な武器とかバズーカみたいな近代兵器ぐらいじゃないと無理だろう。こんなファンタジーな機械?から近代兵器が出てくるとは思えないが。
他にも俊の影響で剣や刀も多少なら扱い方を知っているが、適正があるとは思えない。真剣なんて手にしたことすらないしな。
こうやって色々と考察していると、球体の光が激しさを増す。どうやら選定とやらが完了したようだ。さて、何が出てくるか……
──選定完了、【ラル=フェスカ】ヲ贈呈シマス
球体の光はさらに光を増し、俺の体を包み込む。思わず目を瞑ってしまった俺だが、やがて光が収まり目を開けると、俺の腰に見覚えのない革製のベルトが巻かれていた。あきらかに服装の中でそのベルトだけ浮いているのに、不思議と体に馴染むような感覚がある。
「これが武器?……なんの冗談だ」
流石にそんなことはないだろう。考えられるとすれば、ベルトを鞭のように扱えばいいのか?…それを武器とは言えないし、第一それなら鞭を直接くれればそれで済む気がする。
そんな感じで首をかしげていた俺だが、やがてあることに気が付く。
「いや、これは……!?」
これはベルトではなかった。いや、それは正しい表現ではないだろう。ベルトではなく、ベルト型のホルスターだ。
体に馴染んでいて気が付かなかった。ベルトの両側には、立派な武器があった。
「二丁拳銃か…なるほどな」
ホルスターから二丁の銃を引き抜く。片方は真っ黒に染まっており、もう片方には同じく黒い銃身に白いラインが入っている。こちらもベルトと同じように、不思議と手に馴染むような感覚がある。
「ハハっ……確かに、俺にとっちゃ最適だな」
思わず乾いた笑いがこぼれる。実は予想していなかったわけではない。
だが、その可能性はないと、心のどこかで否定していた。違うと思いたかった。
思い出されるのは、数年前の苦い記憶。
「近づかないで!!」
「どうしてそんな子になってしまったの!?」
「ああ、あり得ないアリエナイ!」
「この化け物!」
「お前なんてどこへでも行けば
「っ……!よせ、今はそんなこと思い出してる場合じゃない」
自分にそう語りかけ、大きく深呼吸をして荒れ狂った心を落ち着ける。
「……なぁ、こいつが俺にとって最適な武器、ってことで良いんだよな?」
──
間違いであってほしい。そう思って球体に語り掛けてみたが、反応はない。まるで役目を終えたかのように、球体は光を失いその姿を消していた。
「……まぁ、えり好みが出来るような状況でもない」
そう、武器が貰えただけでも御の字だ。そうやって自分の心に落としどころを付けた俺は、改めて銃を詳しく確認してみる。
それほど銃を見る機会があったわけではないので浅い知識しかないが、外観には一般的な拳銃とそこまで変わりはないように見える。だが細部を確認しているうちに、あることに気が付いた。
「マガジンがない?」
通常ならグリップの所にあるであろうマガジンの類が存在しない。そもそも弾の供給はどうするんだろうか。まさか使い切りなんてことはないよな?
「……とりあえず撃てるかどうか、それを試さないと」
そこまで大型の銃というわけではないから反動はそこまできつくないと思うが、あんな騒々しい行程を経て出てきた武器だ。何が起こるか分からない。もし本当に使い切りだとしたら弾の無駄になってしまうが、流石になにか補充の手段があるはずだ。
まずは真っ黒い方を撃ってみる。二丁拳銃なんだから片手で撃つのを想定しているのだろうが、ひとまず最初だから両手でしっかりと構える。
肩幅に足を開いてしっかりと構え、虚空へ向けて引き金を引いて撃つ!
ドゥパァンッッ!
「うお!?……試し撃ちしといて良かったな」
弾は狙っていた場所のかなり上部へと向かっていった。予想以上の反動の強さだ、正直片手だと扱える気がしない。これはもしかしたら、自分を鍛えるところから始めないといけないかもしれない。今の俺にそんな余裕ないけど。
というか球体の話だと、【
だがこれだけの反動があるということは、威力は相当なもののはずだ。あのキマイラに対して決定打になるかどうかは分からないが、ダメージは与えられると思う。
扱いの難しさは課題だが、それは俺の腕次第だな。
よし、今度はこっちの白いラインが入った方を試してみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます