9.ラル=フェスカ 後編
白いラインが入り、少し近代的に見えるこちらの銃にも、同じくマガジンは見当たらない。
っというか一々白い方って言うのもなんか違うな。確か、あの球体が言うにはこの二丁拳銃はラル=フェスカって名前だったはず。これからはさっきの真っ黒な方をラル、こっちをフェスカと呼ぶことにしよう。
もしかしたら逆だったり、それぞれ別に名前があったりするかもしれないが、そうだったとしてもそれを指摘する奴は誰もいないし、なんとなくこれであっている気がする。
「なんだかこっちは軽いな?」
弾入ってるのかこれ?ラルと比べても明らかに軽い。ラルもその威力から考えればかなり軽い方だとは思うが、フェスカはそれ以上だ。
ラルの時と同じように、虚空に向けて構える。もしかしたらこちらも反動がきついかもしれないので、先ほどよりもどっしりと構え、引き金を引く。
シュパンッッ!
引き金が引いたあとにやや遅れて、銃口から一筋の光弾が真っすぐに飛んでいった。
「お?……なんだこれ」
反動はほとんどない、無反動と言ってもいいくらいだ。そして銃口から飛び出したのは、SFの世界で出てきそうな光弾。視覚的にはその威力を図ることができない。
どういう原理だこれ?燃料の類は一体どうしているんだろうか?
色々と確かめたいことは山ほどあるが、弾切れの危険がなぁ…
「つっても、撃たないと何もわかんねぇしな…」
段々と投げやりな思考になり出し、最終的には弾切れしたらその時だと思うことにした。
開き直った俺は、そのままフェスカをバシュバシュと数発放つ。先程も思ったが、引き金を引いてから光弾が発射されるまで若干のタイムラグがある。これは気をつけた方が良さそうだ。
威力についてだが、ラルの銃弾は壁にめり込んだが、フェスカの光弾は壁に当たっても傷1つ付かなかった。
とはいえ、これはどちらかと言うとラルの威力がとんでもないんだろうな。キマイラの火の玉が着弾しても、この壁は傷1つ付いていなかったわけだし。
そして続けて数発撃った後、俺はあることに気がついた。
(もしかしてコイツ……燃料は俺か?)
先程から、まるで水泳の授業が終わったあとのように、急激に体が重くなってきた。緊張の糸が切れたという可能性もあるが、それにしてもこれほど急激な疲労は異常だ。キマイラにやられて気を失ったあと、疲労はほとんど回復していたと思うし。
一体俺の中の何を燃料としているのかは想像もつかないが、ともかくフェスカを撃つととんでもなく疲れるということは記憶しとかなきゃな。
まだ10発も撃ってないのにこの疲労度だと、戦闘中を想定するなら一回の戦闘で5発程度が限度だと思っておいた方がいいだろう。それ以上となると、動きに支障が出始める。
「……」
試し撃ちして思ったが、両方ともいろんな意味で癖が強すぎる。使いこなすには時間がかかりそうだ。
「さてと……とりあえずは」
俺は壁に体を預け、ズルズルとそのまま座り込む。
(すこしだけ……)
フェスカを撃ちまくった影響か、瞼が重い。知らない場所で、しかもこんな無防備な状態で寝るなんて普段なら考えられないが、結局あのキマイラしか生物はいなかったし、そのキマイラも眠っている。まぁ大丈夫だろう。
「おやすみ……」
そのまま俺は、眠りに落ちた。
♢ ♢ ♢
「ぅん…あ~~~~」
腕を上げて体を大きく伸ばす。一体どれくらい寝てたのか、そもそもここへ来てからどのくらいの時間が経過したのかすら把握していない。なんせもう二回も眠りについている、一回目は強制睡眠だったけど。
体を起こして軽く自分の体を確認する、どうやら今回は何も起こっていないようだ。むしろ硬い床の上で眠ったからか体がちょっと痛い。
「さて、目指せ脱出!って感じだな」
全く目途はないが、とりあえず来た道を一旦戻るべきだろう。この部屋は行き止まりだ。どのくらいかかるか分からないが、そろそろ空腹も気合でどうにかなるレベルを超えてきた。早く脱出するか、何か食料が欲しい。
「まさか日本に居てこんなサバイバルを経験するはめになるとはなぁ」
俺のサバイバルの知識なんてテレビで見たものくらいだ。大丈夫かね……。
「……うん、早く脱出しよう」
はじめのうちは何とかなるかもしれないが、必ずそのうちボロが出る。そうなる前に早く脱出しないと。
そう焦燥感に駆られた俺は、部屋から逃げるように出ていき、そのまま小走りで移動を開始する。
フェスカのことを考えればなるべく体に疲労を溜めない方がいいだろうが、冷静になって自分の状況を考えて逆に焦ってしまった俺に、その考えはすっかり抜け落ちていた。
だが、この行動がある自分の体の変化を気づかせてくれた。
(体力が上昇している?)
正直焦りすぎていてかなりのスピードで移動していたのだが、スタミナ切れを起こす気配がなく、全く息切れもしない。これはもしや……。
「これが職業の恩恵か」
以前の俺ならこのスピードだと声を出す余裕はなかった。今まで職業の恩恵を実感できていなかったが、これはありがたい。
思わぬところで余裕ができた俺は、そのままのスピードで駆け抜けキマイラのいた大広間まで到着する。
「キマイラは……いない?」
どこからか部屋を出ていったのだろうか?ただこの部屋の二つの出入り口、どっちもあの巨体だと通れないと思うんだよな…
「まぁ、いないんならありがたい」
強力な武器は得られたが、それでもあいつに勝てる気はしない。いないんなら今のうちに通り抜けてしまおう。この先にいないことを願うばかりだ。
ひとまずキマイラの所在について考えることを放棄した俺は、先ほどまでのスピードで大広間を駆け抜けた。
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