10.初戦闘

 キマイラのいた大広間を駆け抜け、おそらく俺が落ちたであろう地点もすぐに通過した。これだけ走っても疲れないのはいいな、顔に当たる風が心地いい。


 そして走り始めてから体感で十分程、ずっと続いていた景色に変化が訪れた。俺は速度を緩めて、それの前で立ち止まる。



「扉?」



 場所が開けていたのでまた大広間かと思ったが、目の前にそびえたっていたのは、どんな怪物を想定しているんだと突っ込みたくなる程巨大な両開きの扉だ。キマイラでも余裕で通れるだろう。


 もしかして、こんなサイズの扉が必要なくらい巨大な怪物がここにいるってこか?



「……それは冗談であってほしいな」



 そんな化け物いたら速攻逃げよう、追いつかれそうだけど。まぁ最悪、ここまで逃げることができれば、この先の通路には入ってこれないはず。



「……ふぅ」



 小さく深呼吸をして、呼吸を軽く整える。ここから先に一体何があるのか、はたまた何がいるのか。俺の想像もつかないようなことの連続だろう。


 だが、何としても俺はここから脱出する。こんな薄暗い場所で最後を迎えることを許容できるほど、俺は自分の人生に絶望しちゃいない。


 ガキの頃はいろいろあったが、今ではそこそこ幸せな人生を送れていると思う。



「……あいつらの土産話も聞きたいしな」



 俺は覚悟を決め、扉に手をあてる。扉が開かなかったらどうしようと少し心配していたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。



ゴゴゴ……



 手をあてるとそれに反応したのか、重厚感のある音を立てながら勝手に開き始めた。どうやら、自動ドア(超巨大)だったらしい。



 周囲を警戒しながら、扉の先へと足を踏む入れる。扉の先は先程となんら変わりのない景色が続いている。だが、



(血の匂いだ)



 【死神リーパー】の恩恵で嗅覚が上昇しているのか、それとも血の匂いがそれだけ充満しているのか。かなりきつい悪臭が先に漂っている。どんな奴がいるのかは分からないが、少なくとも生物はいるようだ。


 そして悪臭が漂っているということは、少なくとも複数の生物が存在し、生存競争を行っているということになる。


 改めて気合を入れなおし、足音を立てないように慎重に足を進める。ここで引き返すのは論外だ。むしろ生物がいるということは、食料を手に入れるチャンス。


 そう判断した俺は、その匂いに近づくように移動を開始する。移動を開始して数分、そいつは思ったよりも平然と俺の目の前に現れた。



「GURU……」



 なるべくばれないように移動していたつもりだったが、どうやらガッツリ気づかれているようだ。俺に向かって血の付いた歯をぎらつかせるその生物は、



(……狼?)



 勿論というか、ただの狼じゃない。なんせ顔が二つある。あのキマイラといい、ここにいる生物は頭が二つあるのがデフォルトなんだろうか?


 この前のキマイラは一応知識として知っている範囲だったが、こいつは見たことは勿論、頭の二つある狼なんて聞いたこともない。とりあえず劣化ケルベロスと呼ぼう。

 


「UU……GYAU!!」


「おっと……!」



 そんなくだらないことを考えているとは露知らず、劣化ケルベロスは俺に向かって牙を突き立てようと飛びかかってきた。とはいえ、それをおとなしく喰らう程油断してはいない。


 姿勢を低くして危なげなく躱し、フェスカをホルスターから抜く。ラルは制御が難しいから、動きが素早そうなコイツとは相性が悪そうだからお留守番だ。


 フェスカも発射からのタイムラグを考えれば相性は良くないかもしれないが、それは俺の腕次第といったところだろう。


 とびかかりを躱された劣化ケルベロスは態勢を崩すことなく、軽やかに着地する。



「GARU!!」



 そして振り返った勢いそのままに今度は地に足をつけてこちらに走ってきた。凄まじいスピードだが、あのキマイラの方が早かったな。


 真っすぐにこちらに走ってきた劣化ケルベロスに向かって、俺は引き金を引く。



 バシュッッ!


「GURU!?」



 流石に当たらないと思ったが、銃弾は俺の狙い違わず劣化ケルベロスの片方の頭部に命中した。頭部はそのまま吹き飛び、血しぶきを散らせる。



(……強すぎねぇか?)



 光弾ということもあってイマイチその威力を図りかねていたが、フェスカも相当な威力を有していたようだ。


 片方の頭を失いもはやただの狼になった劣化ケルベロスだが、流石にまだ頭があるからか絶命には至っていない。むしろ俺の一撃で警戒し、爪を立てて地を掴み俺を威嚇している。



「UU……AOOOOOOOOOON!!」


「!?」



 劣化ケルベロスは突如として、耳をつんざくような声で遠吠えを上げ始めた。それになんの意味があるのかはよく分からなかったが、警戒して後ろに跳躍する。


 何が起こるかと警戒していると、吹き飛んだ片方の頭がボコボコと音を立てながら復活した。なかなかグロい。


 一瞬持久戦になるかと考えたが、あれだけ隙の大きい行動を二度も許す俺じゃない。もう一度吹き飛ばせばいい。



「いいぜ、二回戦といこうか!」

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