11.決着、そして…

 本来なら大声を出すべきではないが、自分を鼓舞するため、あえて大声で劣化ケルベロスに語りかける。



「GAU!」



 劣化ケルベロスは性懲りもなく俺に突っ込んでくる。とはいえ流石に警戒しているのか、不規則にジグザグに体を動かしながらの突進だ。単純だが、確かにこれだと照準が合わせられない。


 無理に今撃つ必要はない。俺は跳躍して突進の回避を試みる。


 すると劣化ケルベロスはにやりと笑い、跳躍して余裕で俺と同じ高さまで到達して、大きく口を開く。



「……GURU!」


「!?しまっ……」



 これだと空中にいる俺は避けられない、そう判断してこいつも跳躍したんだろう。フェスカは発射までのタイムラグのせいで間に合わない。



 だが、



「なんてな!」



ドゥパァン!!



 劣化ケルベロスの双頭が木端微塵に吹き飛び、返り血が俺の全身に降りかかる。確かに空中にいて回避が不可能になっていた俺だが、その条件はあいつも同じ。動きが速くて照準が当てられないなら、回避できない状況に持ち込めばいい。


 空中という不安定な状態でラルを正確に撃てるかという不安もあったが、何とかなってよかった。


 とはいえ、俺にダメージがないわけではない。



「つつ…いってぇ…」



 流石に空中でラルの反動を殺しきることはできず、俺は後ろに吹き飛び壁に衝突した。まぁ、あいつに噛まれるよりは何百倍もましだけどな。


 ラルはその威力を遺憾なく発揮し劣化ケルベロスの双頭を吹き飛ばしたが、それであいつが死んだとは限らない。俺はすぐに立ち上がり、あいつの体の状態を確認する。



「……流石に大丈夫みたいだな」



 体はピクリとも動く気配を見せず、しっかりと物言わぬ死体となったようだ。



「ふぅ…さて、これ食えるのか?」



 死体は当然ながらがっつり生肉だが、火を起こす手段なんてないしどうしようもない。たしか食中毒の危険性があるはずだが、餓死するよりはいいだろう。






「……」





 ガブッ






「う!?」



 不味い、とんでもなく不味い。すぐに吐き出しそうになるが、我慢して飲み込む。食わないと生きていけない。そう自分に言い聞かせ続けて、そのまま食べ続ける。


 何度も吐き出しそうになり、ときに吐き出しながら、劣化ケルベロスの体を機械的に口に放り込む。



バクッ


バクッ


ゴリッ



「ん?」


 

 心を無にして口に放り込んでいると、何やら口の中から随分硬い音が聞こえてきた。気になって違和感の元を吐き出してみる。



「……石?」



 口の中から出てきたのは、ビー玉みたいな半透明の石だ。まるで宝石かのように鮮やかな光沢を放っており、もし売ることができればそれなりの値段がつきそうだ。


 あの劣化ケルベロスが口にしたものかとも思ったが、流石に内蔵には手を付けていないので、どうやら体内に元々あるものらしい。



「なんだこれ?」



 見た目だけで言えばただの綺麗なビー玉。なのだが、なんというか、この石から得体の知れない力のようなものを感じる。


 

「……ごちそうさま」



 腹もある程度満たされたし、食事は終了だ。まだ死体は残っているが、これ以上は気分的にも入る気がしない。


 石をつまみ上げてしばらく眺めていると、石にある変化が訪れる。



「……おお?」



 石から何やらオーラのようなものが湧き出し、辺りを漂い始めた。どうやら触れても問題ないようだし、害はなさそうだと判断して、俺はその石を持ったまま観察を続ける。


 石はオーラを湧き出し続けているうちにどんどん色褪せ始め、最後にはただの石ころに変わってしまった。本当になんなんだこの石は。


 そしてオーラはというと、段々と一か所に集合してその場でくるくると回った後、俺の銃、ラルの方に集まってその姿を完全に消失させた。



「なんだったんだ…?」



 ラルをホルスターから抜き出して眺めているが、見た目に変化はない。


 だが…



「重くなってる?」



 ラルとフェスカを手に入れた場所で一発、劣化ケルベロスに一発放ち、徐々に軽くなっていたラルだが、その重量が少し戻っている気がする。…ということは



「今のが弾の補充ってことか?」



 だとしたら燃費がいいのか悪いのか。あの石がここにいるすべての生物の体内にあるものと仮定しても、すべての生物を弾一発で仕留めないといけないと考えると、燃費はあまり良くないかもしれない。


 確かにラルもフェスカもとんでもない威力を有しているが、あのキマイラクラスの化け物にも一発で仕留められるかと聞かれれば、首を左右に振らざるを得ない。



「なんというか、いろいろと前途多難だな……」



 だがそれはもう分かり切っている。武器が敵に通用することも分かったし、ここにいる生物すべてがキマイラのような歯が立たない化け物でないことも分かった。


 化け物との戦闘を避け、勝てる相手には戦闘を挑み食料を確保しながら、少しずつ上を目指す。どこから上にいけるのか、勿論地図なんてないから、くまなく探し続けないといけない。


 一瞬の油断、一つのミスがそのまま死に直結する。だが



「やってやろうじゃねぇの……!」









 そう決意してから、気が遠くなるような時間が経過した──。






 

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