7.死神となった青年

 ──職業ノ移植ヲ開始シマス、了承シマスカ?



 ……は?なんか勝手に話を進めようとしてるみたいだ。よくわからんがそれは困る。



「待ってくれ!」



 ──要望ヲ受諾



 どうやらこちらの声も認識しているようで助かった。だがこのままだと何も収穫がないのも事実。こちら声を認識できているんなら、質問もできたりしないだろうか。



「いくつか質問してもいいか?」



 ──要望ヲ受諾



 お、なんだかいけそうな感じだ。



「ここはどこだ?」



 ──回答不能、位置情報ニ不具合ガ発生シテイマス



 ……いけなかった。だが返答のニュアンス的に、その不具合とやらが発生していなければ回答できていた可能性が高い。割といろいろな質問に答えてくれそうだ。



「職業ってのはなんだ?」



 ──古ノ時代ニ神々ガ人間ニ与エタ恩恵デス



 ……急にファンタジーな言葉が出てきたな。神が人に与えた恩恵、ね。ふわっとしすぎててよく分からん。



「その職業を移植されることによって、俺にどんな得がある」



 ──ソノ職業固有ノスキルノ習得、身体能力ノ向上等ノ恩恵ガアリマス



 なるほど、よくゲームに出てくる職業、ジョブなんて呼ばれるものと同じような感じか。なんとなくではあるが想像できる。


 多分スキルとやらも大体想像通りだろう。どんなものがあるのかは分からないが、もし強力なスキルを取得することができたら、さっきのキマイラにも勝てるようになったりするんだろうか。



 ──起動限界マデ残リ一分、中断サレタ移植ヲ再開シテモヨロシイデスカ?



 おっと、起動限界なんてものがあったのか。他にも色々と質問したことは山ほどあるが、それはやめておいた方が良さそうだ。


 ……ふむ。そういえば、今の俺は何かの職業に就いているのだろうか?あり得るとしたら「学生」とか?……めちゃくちゃ弱そうだ。


 それなら、その移植とやらを受けて体が弱くなったりすることはないだろう。ここにいる化け物があのキマイラだけだとは限らないし、力が手に入ると言うのならば、脱出のためにも受けないという選択肢はない。



「分かった、移植を受ける」



 ──了承ヲ受諾



 その言葉と共に、球体の回転速度が上がり、光もその強さを増す。


 それにしても、移植って一体どうやるんだろうか。さっきキマイラにやられて血をかなり流したはずなので、本当の臓器移植みたいな移植は勘弁してもらいたい。もしかしたら何故か回復していたので血も戻っているかもしれないが。


 というか臓器と同じ感じで職業を移植とかわけわかんないけどな、どういった方法で移植するのかまるで見当がつかない。



 ──職業【死神リーパー】ノ移植ヲ開始シマス



 …待て、こいつ今なんて言った?死神?リーパー?



 そういえば移植する職業を聞いていなかった、死神って仕事なのか?死神という言葉から嫌な予感しかしない。今からでも中断させた方が良いかもしれない



「待ってくれ、やっぱりやめに……」



 俺が球体に向かって中止の要望を言おうとしたその時、



「~~~~~~~~~~~!!!!!」



 全身に凄まじい悪寒が迫ってきた。痛いでもなくかゆいとも言い難い、それでいて耐え難いその衝撃に、全身の鳥肌が粟立つ。思わずその場で跪き、そのまま地面を転がりまわる。



「うあ…、なんだ……よ…これ……!」




 一体どれだけその衝撃に体を犯され続けたのだろうか。無限にも等しい時間を乗り越えたのち、次第に悪寒がすぅーっと引き始めた。ようやく正気を保てるレベルまで悪寒が過ぎ去り、俺は一度地面に腰を下ろし、大きく深呼吸して心を落ち着ける。




「ほんとになんだったんだ……」



 そう聞こうと思っても、件の球体は活動限界とやらが訪れたのか、完全に姿を消ししていた。念のため台座にもう一度手を置いてみたりもしたが、やはり変化はない。


 先ほどの悪寒が移植だったとすれば、移植はもう完了したということでいいんだろうか?自分の体を見回してみるが、これといった変化があるようには見えない。


 次に、体を軽く動かしてみる。身体能力も向上するという話だったが、今のところこれといった実感は得られていない。



「だめだ、違いが分からん……ん?」



 違いは分からなかったが、球体があった場所のその奥に通路が続いているのが分かった。



「……まぁ、行くだけ行ってみるか」



 ここに来てから散々な目にしか合っていないので正直もう先には進みたくないが、そういうわけにも行かないだろう。やばそうだったら戻ればいい、そう判断した俺は、通路へと足を進める。


 次の部屋へは、思ったよりすぐにたどり着いた。部屋には先ほどと同じく細長い台座、というか部屋の広さも多分全く同じだ。一瞬どこかで戻ってきてしまったのかとも思ったが、こちらの部屋は先に進む道がない。


 ひとまず、先ほどと同じく台座に手を置いてみる。やはりというか、球状のホログラムがもう一度現れた。



 ──ヨウコソ、新タナル死神ヨ



 心無しかさっきよりも言葉が少しだけ流暢というか、聞き取りやすいような気がする。見た目や声質は全く同じだが、先程とは違う構造なんだろうか。



 ──貴方ニ最適ナ武器ヲ選定、ソノ後贈呈シマス、モウ一度手ヲ



 ……こちらの意思を介さず話を進めるのは変わらないようだ。だがそれはそれとして、この状況で武器を貰えるんならありがたいことこの上ない。



 ──選定、開始



 

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