6.生存
──気が付くと、俺はいつもの教室にいた。机に突っ伏していた顔を持ち上げると、目の前にはいつもの二人がいる。
「英夢、ようやく起きたかい?まったく、そんなに寝てるからいつも試験前に徹夜するハメになるんだよ」
……起きてたとしても分かんねぇよ。
「ほーら、早くお昼食べようよ。久々に三人で食べられるんだから」
……まだ眠いんだが。
「そういってこの前は本当に寝ちゃったけど、今回はそうはいかないよ?」
「そーだよ、私朝抜いてきちゃったからもうお腹ペコペコなんだよ~」
「「だから早く起きて、英夢」」
♢ ♢ ♢
「………夢、か」
目が覚めると、先程までと同じく冷たさを感じる金属質の天井。この天井を見上げるのは今日で二度目だ。今日は良く気絶するな。……って、
「生きてたのか、俺」
何があったのかは分からないが、どうやら生き残ったらしい。あの状況からどうやって生き残ることができたのか、まるで想像がつかない。
「キマイラは……」
いた。広間の俺が入ってきた入り口を塞ぐような形で、体を丸めて眠っている。その姿だけみると人によっては愛らしく見えるかもしれないが、あんなことを体験した後ではそんな感想を抱く人間は皆無だろう。動物好きのなぎさでもビビリそうだ。
「とにかく、今のうちに逃げないと……ん?」
意識していなかったが、体が妙に軽い。キマイラを起こさないよう軽く飛び跳ねてみるが、骨が軋むといったこともなく、いたって健康体だ。あいつのタックルを一撃受けただけで、体はボロボロになっていたはずなのに。
一瞬先程までの出来事はすべて幻かなにかかとも思ったが、服に染み付いた血痕がそれを否定している。本当に何がどうなってんだ。
「ま、無事ならいいか。早く行動しよう」
来た道を戻るという選択は流石にあり得ない。キマイラを下手に刺激して起こしてしまったら、今度こそ俺の命はないだろう。何があったのか見当もつかないが、せっかく拾えた命だ。その命をすぐさま投げ捨てるような真似はしたくない。
となると俺が進むべきはこの先。篝火がつき、広間全体を見渡すことができるようになったお陰で、どうやら俺が入ってきた道の丁度反対側に先へと進む道があるということが分かった。
その先に何があるのかは分からない。すぐに出口があるかもしれないし、もしかしたら、あそこで眠っているキマイラ以上の化け物が現れるかもしれない。だがここにいてもキマイラが起きたら死ぬし、そもそも食料がないからそのまま餓死するだろう。
つまり俺は、先に進むしかないわけだ。なんだか先に行くように誘導されている気もするが、流石に気のせいだろう。この状況を作り出せるような人間なんているはずもない。
「………」
音を立てないよう、忍び足で広間を後にする。続いている通路は見た感じ先ほどまでの通路と構造は同じはずだが、なんだか少しだけ狭くなっている気がする。さっきの広間が大きすぎて、狭く感じているだけかもしれない。
落ちた場所から広間まではかなりの距離があったと思うので、今度も相当な距離歩くことになるのを覚悟していたんだが、今回はそこまで時間はかからなかった。多分時間だと10分もかかっていないと思う。
通路の先は今までと違い、何かモヤがかかったような状態になっており、その先を確認することができない。目の前で立ち止まって部屋の中を確認しようとしてみたが、それすらも不可能な感じだ。仕方ないと割り切り、部屋の中に足を踏み入れる。
──突如として、景色が変わった。
先ほどまでの薄暗い通路や広間と違い、部屋は眩しいくらいに光に包み込まれていた。さっきまで目が闇に慣れていたせいもあり、光を遮りたくなるような眩しさだ。
部屋の中には何もないと思ったが、よく見ると中央に細長い台座のようなものが設置されている。ひとまずそれ以外に目ぼしいものはなさそうなので、それがある場所まで足を進める。
目の前で台座をよく観察してみると、手形のような紋様が見える。ここに手を当てろということか?
「……ま、やるだけやってみるか」
恐る恐る、そーっと手を当ててみる。金属質特有の冷たさが手のひらに伝わる。そのまま十秒ほど当てても何も起こらず、勘違いだったかと思ったその時、
──認証完了、起動シマス
無機質な機械音声と共に、目の前に巨大な球状のホログラムが現れた。ホログラムはゆっくりと絶えず回転している。
──ヨウコソ、資格を持ツ者ヨ、歓迎イタシマス
機会音声が聞こえるたびにホログラムが明滅している。どうやらこの球体から声が聞こえているようだ。そしてこの球体は、こちらの事を認識しているらしい。資格ってのはなんだろうか、英検くらいしか持っていないんだが。
──職業ノ移植ヲ開始シマス、了承シマスカ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます