90.反撃開始

「はぁ……はぁ……!」

「頑張るねぇ、時間稼ぎをしてて楽しいか?」

「楽しくないわよ」



 シルヴィアの前に広がるのは死体の山。目を瞑ったまま動かないエイムと、未だに唸り続けるリーゼ。戦えない二人のために、シルヴィアは剣を振るい続ける。



「そもそも、命のやり取りをしていて楽しいなんて思ったことは、一度もないわ」

「ほう?……随分つまんねぇ人生を送ってんだなぁ」

「そうかしら?こんなことにしか楽しさを見出せないあなたの方が、余程退屈な人生を送ってると思うけど」



 例え相手がどれだけ強大であろうと、シルヴィアはあくまで気丈に振る舞う。隣を歩くあの男は、敵に対して、いや誰に対しても、決して自分の弱さを見せることはしない。



「ハッハッハ!!絶対的立ち位置からの圧倒的な虐殺!!これ以上に楽しいことはねぇさ!!下等種族には分からねぇだろうがなぁ!!」



ドゥパァン!!



「!?」

「分からないし、分かりたくもねぇよ」

「……遅いわよ」

「悪い。だけど、しっかり仕事はこなして来たぜ」



「……お待たせ」



 何かが変わったわけではない。いつも通りのリーゼが、そこに立ち上がっていた。





♢ ♢ ♢



──side Aim──



「大丈夫なの?」

「ん、心配かけてごめんね」

「ま、小言はあとで言わせてもらうとして……これ、なんとかしてくれないかし、ら!!」



 シルヴィアは魔獣を次々に切り裂きながら、リーゼに問いかける。



「任せて」



 リーゼは自信満々にシルヴィアの問いかけに応え、両手を掲げる。



「お願い、浸牢吸華イロード・ドレワー……!」

「UKYAKYA!?」

「GURU!?」

「GAGUGU……」



 ──俺達の周りにいた魔獣が、次々にその姿を痩せ細らせていく。


 俺達の足元から芽吹いた浸牢吸華イロード・ドレワーは、一番近くの魔獣に喰らいつき、その体に絡みつきながらその魔獣の生命力を吸い取る。それが終わると、華はさらなる養分を求め、別の魔獣へと手を伸ばす。


 それを繰り返して魔獣を喰い散らかし続け、ほとんどの魔獣を全滅させてしまった。恐らくこの場で上からこの状態を俯瞰できる者がいれば、この光景全体が一つの華に見えただろう。



「おいおいおい!どういうことだそりゃあ!!いつの間に俺の鎖から抜け出しやがった!!」

「……魔術が使える状態で、あの鎖から抜け出せないと思ってたんなら、流石に私を舐め過ぎ」

「くそっ、どうやって精霊を元に戻した?浄化にしても速すぎる、そもそもここでの浄化は不可能だろうし……」

「何か考え込んでるとこ悪いけど、今度はこっちの番だ。反撃開始といかせてもらうぜ!!」

「!?」



 リーゼの復活が余程想定外の事態だったのか、隙だらけの間に接近させてもらった。



「『死の狂乱デス・マッドネス』!!」

「ちぃぃっ!!!」



 生命力を吸い尽くされた魔獣は魔力も吸われているからか、予想していたよりも力の増幅が小さい。生命力なんてほとんど届いてないが、今はそれで十分。



「おらぁぁ!!」

「ふんっ、甘い!!」



 俺は悪魔に対して、超のつく接近戦をしかける。体はあいつの方が圧倒的にでかい。常に相手の死角へと移動することを意識しながら、有効打を与えるのではなく、あくまであいつの注意をこちらに引き付けるのに注力する。



「ちょこまかと!!」

「──はぁぁぁぁぁ!!」



 完全に俺へと意識を向け背中がお留守になった悪魔に向け、背後に回り込んでいたシルヴィアが痛烈な一撃を浴びせる。



「くっ……鬱陶しいわぁぁぁぁぁ!!!」

「うがっ」

「きゃっ……!」



 俺の動きに翻弄され、シルヴィアの攻撃で痺れを切らした悪魔は、自らを爆発させるように、自分を起点にした小爆発を起こす。


 流石にこれを予期できなかった俺達は、その爆発に後退を余儀なくされる。『危機察知』を解除していたのが裏目に出ちまった。



「封殺しろ、暗然の黒靄アストニッシュ・ヘイズ!!」

「これは……!」



 すかさず追撃に出ようとした悪魔を、リーゼが黒い靄で包み込んで妨害する。あの悪魔なら、あのくらいなんとかできそうなものだが…



「……使えないよね、スキル」

「くっ、封魔の魔術だと!?てめぇまさか、暗霊を制御してるってのか!?」



 …マジか。どうやらあの靄の中では、スキルの使用が封じられているらしい。思った以上に恐ろしい代物だったみたいだ。


 それにしても悪魔、今「暗霊」って言ったな。もしかしなくても、闇に染まった精霊のことを指しているのだろう。さっきもぶつぶつ呟いていたし、何か知っているのかもしれない。



「行くわよ、エイム!!」

「おう!!」



 爆発の衝撃から逃れた俺達は、再び悪魔の元へと駆け出す、先行するのは、勿論シルヴィア。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぐがっ」



 『剣の世界』を行使し、悪魔を靄諸共切り刻む。どうやら靄自体にはスキルを無効化する機能はないらしい。



「フンっ、お陰で見えやすくなったぞ!!」

「確かに、同感だ」

「む!?」



 悪魔の瞳に、初めて警戒の色が映る。シルヴィアがわざわざ『剣の世界』を行使して靄を晴らしたのは、俺の視界を確保するため。



「これでも──」



 今までに注入したことのない、膨大な量の魔力をフェスカに注ぎ込む。今までは暴発を恐れていたが、こいつ相手にその程度の危険は気にしてられない。一点に集められた魔力は、引き金を引く前から質量を持っている。



「──喰らいやがれ!!!」

 

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